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(1)鈴蘭の聖女シェスタ

新連載です。

今日は数話投稿、明日からは一応毎日投稿で頑張ります。

 部屋の扉が前触れもなく開けられた時、シェスタは鈴蘭を持つ聖女の像に向かって祈りを捧げている最中だった。びっくりして立ち上がるシェスタには目もくれず、彼女はぐるりと部屋を見回しにこりと笑う。

「あら、いい部屋じゃない。私にぴったりね。ここにしてちょうだい。」

 腕を組み、命令口調で言い放つ女性は、波打つような金髪を垂らした、大人の色気漂よう美女だ。聖女の白服を着ているが、見たことはない。

「申し訳ありません。ここは祈りを捧げる部屋なので、クラリス様の部屋には相応しくないかと……。」

 後からやってきた白い服の女性が告げる。彼女はここで過ごしている聖女の一人だ。

「あら、伯爵令嬢である私に逆らおうと言うの?……平民のくせに。」

 艶やかな赤い唇が不満に歪められていた。新しく入った聖女だろうか。彼女はそう言われると黙ってお辞儀をして下がってしまった。


「何かあったらこれで呼びなさい」

 そう言われて渡されていた、鈴蘭の形を模した鈴をシェスタは鳴らした。目ざとく見つけた鈴を見て、クラリスの目が光る。

「あら、この部屋の物を勝手に使わないでちょうだい。」

 シェスタの手から鈴を取り上げると、クラリスは傍にあった椅子に優雅に腰を下ろした。そこへ急いで現れたのは、今日配属になったばかりの神官長だ。恰幅の良い神官長は微かに汗をかいている。

「まだ荷解きも終わっていないのに何の用だ。……おや、これはクラリス様。お呼びですかな。」

「ええ。この部屋を私の部屋にしたいの。このお部屋でしたら貴族の方を治療するのに相応しいですわ。」

「なるほど。しかし……。」

 汗をかきながら神官長はシェスタをチラリと見た。

「なんなの?その子は。」

「『鈴蘭の聖女』でございます。ここで、その像に祈りを捧げるのが彼女の仕事でして……。」

『鈴蘭の聖女』の名前は、クラリスも聞いたことがあった。神殿の奥深くに住み、外界には決して出てこず、この国のために祈りを捧げていると。

 クラリスは大袈裟に驚いた。

「まあ、『鈴蘭の聖女』でいらしたの。これは失礼いたしましたわ。」

 淑女の礼をする彼女に合わせて、シェスタも礼をする。その佇まいに、クラリスは不思議そうに首を傾げた。

「どちらの家の方でしょう?お見かけしたことはございませんが。」

「彼女は前の神官長が連れてきた子でして、私も詳しいことは…。ただ、幼い頃から神殿から出てはおりません。王族も神殿にいらっしゃいますので、最低限の礼儀作法は躾けております。返事はできませんが。」

「あら、そうですの。でも、祈るだけでしたら、ここでなくても構わないのでしょう?この部屋を譲ってくださいな。」

 シェスタは困って神官長を見た。


『鈴蘭の印を持つ者だけがこの部屋を使えるのです。』

 前の神官長はシェスタに確かにそう言った。シェスタは自分の喉にある銀の首輪に手を触れた。その下には鈴蘭の花が刻みつけられている。洗っても取れないその印は、シェスタが気づいた時にはそこについていた。ではクラリスにも同じ印があるのだろうか。うろうろと答えを探して視線をさまよわせるシェスタに、答えをくれる者はどこにもいなかった。


 神官長が困っている様子を見て、クラリスは眉を顰めた。

「誰のおかげで神官長になれたと思っているの。」

「は、はい。申し訳ありません。……おい!」

 神官長が声をかけると、見たことのない神官が二人進みでる。

「この娘を空いている部屋に入れておけ。いいな。」

「はっ。」

 二人の神官はシェスタの腕を取ると、軽々と持ち上げた。15歳とは思えない小柄な体は宙に浮くが、シェスタは文句も言えない。抵抗を表すように足をバタバタさせても、神官たちは取り合わずにシェスタを部屋の外へと連れ出した。背後で鈴蘭の絵が描かれた扉が閉まる。

「空いてる部屋はどこかにあるか?」

「さあ。でも、隠し子ごときに、大した部屋はいらないだろうよ。」

「違いない。」

 隠し子?と言うのはなんだろう。問いかけるように神官を見ると、神官は嘲るようにシェスタを見た。

「お前は前の神官長の隠し子なんだろう?皆そう噂してる。それだけであの部屋を使わせてもらってたんだからな。その鈴蘭の印だって怪しいもんだ。」

「治癒の力も使えない。結界もはれないんじゃなあ。ただの偽物だろうよ。」

「もうお前を庇ってくれる奴は、誰もいないんだよ。」

 そう言われて連れてこられたのは、粗末な木の扉の前だった。シェスタを持ち上げたまま、神官は扉を開けた。


 木の扉を開けると、そこには大小様々なカゴが置かれていた。何かをしまっておく部屋らしい。神官はシェスタをそこに放り込んだ。石の床はひんやりと冷たい。今は冬なのだ。

「ここがお前の部屋だ。後で人をやるから、そいつにお前の仕事を聞くといい。働かないやつに、食事は出ないからな。」

 呆然と座り込むシェスタの前で、バタンと扉は閉ざされた。口を開けるが、喉の奥が熱くなるばかりで、声は出ない。代わりに目尻から熱いものが溢れてくるのを、シェスタは止められなかった。


 その頃。国を守っている結界の一部にピシリ、とヒビが入ったことに気づいた人間は誰もいなかった。



読んでくださり、ありがとうございます。

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