魔人との交渉 3
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……なんか、想定外のことを言われたよ?
わたしは思わずライナルトとお兄様と顔を見合わせた。
伯父様たちも驚いた顔でお互いの顔を見あっている。
……妻を救い出す? えっと…………。
魔人って、とっても強いよね?
個々が天災級と言っても過言でないほどの強さだよね?
そんな強い魔人であるミヒェルさんが、わたしたちに奥さんの救出を依頼ってどういうこと?
それこそ、ミヒェルさんの実力行使で簡単に助け出せるんじゃないだろうかと思うんだけど、何か事情でもあるのだろうか。
ややこしい……というか、厄介な問題そうな匂いがぷんぷんするよ。
だ、だけどこちらとしても、やっぱり背に腹は代えられないというか……、くっ、足元を見られた気がするのはわたしだけ?
「詳しく教えていただいても?」
とりあえず詳細を聞いてからの判断だなと、お兄様が続きを促した。
ミヒェルさんは深刻そうな顔をしているし、よほどのことなのかもしれない。
「ええ、もちろんです」
ミヒェルさんは頷いてから、目の前のお茶に口をつけた。何から説明すべきか悩むように、少しばかりゆっくりとお茶を飲んで、それから顔を上げる。
「驚かれるかもしれませんが、私の妻は人間です」
「「「え⁉」」」
わたしたちの声がハモった。
……ちょっと待って? 魔人の奥さんが人間? ええっと、ちょっと前にバルトルトさんが、人と魔人が婚姻を結ぶことはないって言っていなかったかしら? そもそも魔人に市民権はないし、ええっと……要するに、事実婚ってことなのかしらね? でも、あれぇ~?
前にトルデリーゼがライナルトを伴侶に狙っていたときに、バルトルトさんが言っていたのは嘘だったのだろうか。それとも、ミヒェルさんのケースが非常に稀なのだろうか。
わたしが首をひねっていると、ミヒェルさんが微苦笑を浮かべた。
「あまり例はないかもしれませんね。ご存じの通り、我ら魔人と人類は寿命がことなる。人間はせいぜい長生きしたところで百年……それに満たないくらいでしょう。ですが我ら魔人は二百年は生きる。私も今現在、九十七ですし、あと百年は生きるでしょう」
長寿だとは聞いていたけど本当に長生きね、魔人!
ミヒェルさんによれば、魔人は人の子供と同じように年齢を重ね、二十歳を過ぎたあたりから老化が非常に緩やかになるのだそうだ。その身に膨大な魔力を宿す魔人なので、なかなか体が衰えないという。
「私が妻と出会ったのは八年前です。たまたまふらりと現在暮らしている村に立ち寄り、妻に惹かれてそのまま結婚し居つきました」
だからひとところに定着しないと言われる魔人のミヒェルさんがあの村で暮らしていたわけね。
「まあ、結婚と言っても、私にはこの国の戸籍がありませんし、魔人に入籍と言う概念はないので、特に手続きをしたわけではありませんけどね。魔人と人の間では子供は生まれませんから、籍にこだわる必要はなかったですし」
ふぅん、そうなんだ。魔人と人の間には子供はできないのね。はじめて知ったわ。
……つまり奥さんは、将来子供を持てなくてもミヒェルさんと一緒にいたいと思うくらいにミヒェルさんが大好きってことよね。
ロマンチックな香りがするな~と思うのはわたしだけだろうか。異種族の壁を越えて惹かれあう二人って、素敵だわ。リアルロマンス小説の世界よ。
わたしの中で、ミヒェルさんに対する評価がぐぐんと上がる。きっと素敵な人なのだろう。うんうん、そうに違いない。
……でも、救い出してほしいって、どういうこと?
今の話で行けば、ミヒェルさんはベーメンドルク伯爵領の村で奥さんと楽しく暮らしていたのよね?
助けてほしい、と言われたのならばなんとなくわかる。
例えば、奥さんが病気になったとかね。
魔人も回復魔術が使えるでしょうけど、人間と魔人では魔力の質が異なるし、恐らく魔人には人間の怪我や病気を癒すことはできないはずだ。逆もまた然り。
ゆえに、奥さんや病気や大怪我をして、薬では治らなかった場合、頼れるのは白魔術師になるだろう。
……でも、救い出してほしいって言ったってことは、やっぱりどこかに攫われたとか、捕らえられたとか、そういうことなのよね?
話の続きを聞いてみないことには理解できない。
「その奥方がどうかしたしたのですか?」
ライナルトが続きを促せば、ミヒェルさんは小さく息をついた。
「ええ。三週間ほど前になります。私の妻は……、同胞、と呼んでいいのかどうかもわかりませんが、その……魔人に、魔人たちに、攫われたんです。私への交渉材料として」
ごめんなさい。ますますよくわかりません!
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