お見合いパーティーと乱入者 2
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その後、おじい様とおばあ様は、本当に四日であの大量の書類を片付けて。
わたしたちは、フェルゼンシュタイン国へ向けての帰路についた。
「これは本格的に、カールが発明した魔術具を作る工場と、それから研究機関が必要だな!」
王都での外交(になるのかな~?)に手ごたえを感じているおじい様は、とってもご機嫌である。
おじい様に任せておけばフェルゼンシュタイン国は安泰だろうが、同時に、とっても忙しくもなりそうだ。
……お兄様が燃え尽きて灰にならないように祈っておこ~っと。
お兄様の改良馬車のおかげで、行きと同じように帰りもとっても快適だ。
長かったのか短かったのかわからないけど、聖女認定式からの浄化の旅はようやく終わり。
わたしたちはようやく、フェルゼンシュタイン国の王宮(仮)に戻って来た。
☆
お兄様のお見合いパーティーは、三週間後。
国内外から参加者が集まりつつあって、規模がどんどん大きくなっているような気がするけど、一度だけだと思えばまあいいよね?
お兄様のお嫁さんってことは、それすなわち我が国の未来の王妃になるわけだから、大勢の人が手を上げてくれるのは……喜ぶべきこと、かな?
……この国と、ついでにす~ぐナルシストな発想になるお兄様をうまく導いてくれそうな、強~い女性、いないかな~?
わたしもライナルトもレンちゃんが恋しくなってきたけれど、シュティリエ国の王都までここから三週間で往復は無理だからぐっと我慢である。
結婚式の準備はほとんど終わっているけれど、来月には最終確認をはじめないといけないから、お兄様のお見合いパーティーが終わったらサクッと帰るわよ!
海が近い温暖な気候の我が国は、そろそろ冬がバイバイと手を振る時期である。
朝晩は冷えるけど、日中はだいぶ過ごしやすくなってきた。
と、いうことで、お兄様のお見合いパーティーは庭で執り行うことになった。
他国からも大勢のご令嬢がやって来るので、我が国の宿泊業者はシーズンオフの閑散期にも関わらず大忙しで嬉しい悲鳴を上げているようだ。
中には王宮(仮)の部屋をお貸ししないといけないような賓客もいて、うちの使用人たちはそのための準備にも追われている。
出席者リストの確認に料理の手配に庭のセッティング。
……これは、うちの使用人たちに特別手当が必要よね。
大忙しの使用人たちに同情するわたしだったが、大変なのは彼らだけではない。
何故なら、大勢やって来るご令嬢の相手をお兄様一人に任せるのは不可能だからである。わたしやお母様、おばあ様たちも彼女たちのお相手を務めなくてはならないため、当日、誰が誰の相手をするかなど打ち合わせが必要だった。
お見合いパーティーは、何も、お見合いするご令嬢だけが参加するわけではない。
その家族も当然のことながらついてくるので、お父様やおじい様、そして可哀想にライナルトまで接待に強制参加となっている。
参加者は、ご令嬢だけで七十二人。
さすがに人数が人数なので、一緒にパーティーに参加するご令嬢の家族は一人につき一人までと絞らせてもらったけど、それでも百四十四人……。
これが、一人の男性のお見合いパーティーですよ。しかも、これでも絞った方なのよ。
……お兄様のナルシストが助長しないといいけど。
というか、七十二人も参加して、一人当たりに割ける時間はいかほどかしら?
平等に相手をするなら、お兄様が相手をできるのは、一人あたり三分程度が関の山な気がするわ。
ただ、パーティーはフリートークにしているので、順番にお兄様が相手をするわけではない。
となると、これは押しの強い令嬢が有利だろう。
「ヴィル様~、ここにドーンと大きなケーキを置きませんか?」
「……アンネリーエ、結婚式じゃないのよ」
庭の中央を指さして、巨大なケーキを飾ろうなんてふざけたことを言い出した我が国のエックホーフ伯爵家の令嬢は、「え~」なんて言ってぺろっと舌を出している。
アンネリーエはお兄様の大ファンだけど、お見合いパーティーには参加しないらしい。
曰く――
「イケメンは、観賞用‼」
だそうだ。
その気持ちはわかるような気もしなくもないが、エックホーフ伯爵としてはあわよくば……という気持ちもあったはずで、娘が早々にお見合いパーティー不参加を表明したせいでがっくりとうなだれていた。
……まあ、わたしとしては、アンネリーエが準備を手伝ってくれるのは助かるけどね。
当日も、暇を持て余している参加者の相手を手伝ってくれることになっている。ちょっと困ったところのある友人だが、伯爵令嬢としてしっかり教育もされているので、いざという時は大きな猫がかぶれる頼りになる女性でもあった。
できれば、普段から少しくらいは猫をかぶってほしいところだが、この際贅沢は言わない。
……あまり言うと、わたし自身にブーメランになりそうだし。
ギーゼラあたりが聞いたら「お嬢様も大概です」なんて言いそうだからね。
「アンネリーエは不参加だけど、イングリットとリゼロッテは参加するのよね?」
「そうなんですよ~。またバチバチのバトルが見られるでしょうか? 楽しみ……」
「楽しまないで。シャレにならないから」
「え~、修羅場って感じがして面白いじゃないですか~」
あれを面白がれるアンネリーエがすごい。
お上品に「おほほほほ」と笑って嫌味の応酬するくらいなら、わたしも別に構わないよ。だけど取っ組み合いの喧嘩なんてされた日には、主催者側としては大事なわけ。そのあたりを理解してほしい。
「もういっそ、お兄様、自分の等身大人形でも作らないかしら。あの二人がそれで諦めてくれれば……いえ、やっぱりいらないわ。お兄様が増殖したら怖すぎる」
「いいじゃないですか! ナイスアイディアです! わたし買います!」
「……買ってどうするの?」
「もちろん、抱き枕にしますよ?」
はいはいは~い、と手を上げたアンネリーエがにこにこと言う。
赤の他人のイケメン人形が抱き枕にされているのは構わないけど、それが身内だと思うとものすっごく嫌だわ。やっぱり等身大人形はいらない。
「冗談はさておき」
「冗談にしないでくださいよ~」
「はいはい。ええっと、テーブルクロスの数ってたりそう?」
人数が人数なので、庭にセットするテーブルや椅子の数もかなりのものだ。
日中はだいぶ暖かくなってきたとはいえ、風はまだ冷たいので、風よけの幕も張る。
男性の使用人たちがテーブルや椅子を準備してくれているので、わたしとアンネリーエはテーブルにかけるテーブルクロスの数をチェックしていた。一足早い春を演出しようと、薄いグリーンのテーブルクロスを頼んだのである。
「二十二、二十三、二十四……大丈夫です、たります!」
「よかったわ。予想外に人数が増えたから、追加発注が必要になるかと思った」
「や~、カール様の人気はすさまじいですね。建国の式典のときにカール様が手を振っただけですんごい悲鳴が沸き起こりましたもんねえ」
「アンネリーエも一緒になって騒いでいたでしょ」
「あ、ばれてました?」
アンネリーエが悪戯がばれた子供みたいな顔をする。
アンネリーエの言う通り、建国の式典のときはすごかった。すごすぎて耳を塞ぎたいほどだったもんね。アイドルのコンサートかよと突っ込みたかったから。
……わたしは、ライナルトの顔の方が好きだけどね。
ライナルトもすんごいイケメンなのに、お兄様と並ぶとお兄様の方が騒がれる。ちょっと納得いかない。
ちなみにその顔だけイケメンは、現在お見合いパーティーの準備どころではなく、忙しさに目を回していた。
あの改良馬車の人気がすさまじく、必死に設計図を起こしているのだ。自分一人では作れる数ではないため、設計図に起こして職人を雇うつもりらしい。
おじい様は工場計画を立てているけど、工場は一朝一夕で稼働しないからね。
ロヴァルタ国との関税の取り決めは結構早くにまとまりそうだから、受注が膨れ上がる前にできるだけ生産しておきたいようである。
……お兄様は忙しくしていればナルシスト要素が減るから、ずっと忙しくさせていたほうがいいかもね。
なんてひどいことを考えながら、わたしは数の確認を終えたテーブルクロスを、使用人に頼んで備品をまとめているテーブルに運んでもらった。
「あとは、参加してくださった方へのお土産の確認が終われば一通りの準備は終わりかしら? ありがとう、アンネリーエ。あとはわたしたちだけで大丈夫よ」
「いえいえ、お役に立ててよかったです。……ではわたしは」
「お兄様なら、一階の日あたりのいいサロンで設計図を書いていたわ。……あの窓よ」
「いってきま~す!」
アンネリーエは意気揚々とイケメンの鑑賞に向かう。しばらくは戻ってこないだろう。
やれやれと嘆息して凝った肩を回していたら、お父様を手伝ってくれていたライナルトがやって来た。
「ヴィル、そろそろ休憩にしない? 義母上が、イチゴだいふく、と言うものを試作していたよ」
……王妃がキッチンに立ってどうするのお母様。
わたしはちょっぴりあきれたけれど、イチゴ大福は食べたい。
ライナルトもはじめての名前のスイーツを楽しみにしているようだし、準備もあと少しだし、休憩しようかしら。
「ライナルトの方は、準備はどうですか?」
「こっちはほとんど終わったよ。……ところで、義父上がお見合いパーティーで売り込むと言っていた新製品の『乾く君』ってなに?」
「ああ~」
それはね、別名、ドライヤーって言うんですよ。
きっかけはわたしがほしいと言った一言だったんだけど、お兄様、嬉々として作ったのよね。
……「タオルドライだけで自然乾燥させたら髪が傷むからな! ナイスアイディアだ!」なんて食いついたけど、お兄様の髪は別に長くないんだから、多少傷んだところで気にならないでしょうに。
それぞれの製品につけられる微妙なネーミングはさておき、まあ、あれはいいものだと思う。お父様の判断通り、きっと売れるだろう。
「今日の夜にでも試してみますか? 髪が早く乾くんですよ。お兄様が消音にこだわったみたいなので、あれはなかなかいい出来だと思います」
「消音と言うのがよくわからないけど、面白そうだね、ぜひ」
……ふふふ、ということは、今日はわたしがライナルトの髪を乾かしてもいいんですね!
いいよね、恋人同士で髪を乾かしあいっこするのって。
わたしは今日の夜のことを想像してにまにましながら、ライナルトと邸の玄関へ向かった。








