EP8--綺堂院昭徳1――この場の確認と心の確認
2022年 11月25日 0時34分
「ままならねぇなぁ……」
俺、綺堂院昭徳は目の前に見える出口を覆う大量の土砂とコンクリートの塊で出来た山を見上げ、呟く。
30分ほど前、大きな地震が発生した。高速道路を走っていた俺は後ろに車がいないことを確認したうえで急ブレーキをかけた。
間一髪、といったところだろうか。ブレーキを踏んだのがあと10秒ほど遅ければ今頃この瓦礫の下敷きになっていた。
僅かな安堵と、この先どうすればいいのかという不安を感じながら、大切な人が待つ自分の車へと戻る。
車へ戻ると、俺の指示を律儀に守って車の中でおとなしく座っていた彼女が、俺の姿を見て中から手を振ってくれた。
「興、出てきていいぞ! 」
車の中でじっと待っている彼女を呼ぶ。
「出口のほうはどうだった?この車が動くようになったら、ここから出られそう?」
車から降りながら訊ねてくる俺の彼女――白埼興。
「ダメだ、車どころか蟻一匹出られないんじゃねぇかってくらい完全に塞がってた」
その答えを聞いて、興は表情を暗くさせる。
「大体何故、私に車から出るなだなんて言ったの?こんなところで一人でいるなんてすごく不安だったよ」
「何故って……そりゃ、なぁ……」
ここは高速道路だ、車が時速80kmで走っているのが普通の状態である場所を歩かせるわけにはいかない、俺一人だけで十分だ。
素直に言うと間違いなくからかわれる、それがわかっているので言葉を濁した。
「……昭徳ってホントにフェミニストだよね。こんな状況で車が走ってる可能性なんてほとんどないじゃない」
舌をちらりと見せながら顔を近づけ、頬にキスをされる。
「……ちっ、御見通しってことかよ」
少し照れた顔でふにゃりと笑いかけてくる興、その顔をみると怒る気力も失せてくる。
「すまない、興。こんな間の悪い時に旅行になんて誘ってしまってさ……」
この状況になったのはすべて、俺の責任だ。そう思って興に謝罪をすると、
「そんなの気にしてないよ……こんな事を予測できる人なんて怖くて息がつまりそうだし」
冗談めかしてそう言ってくれる。興の言葉に救われながら、やっぱり興と一緒にいると心が満たされるななどという、場違いな感情が湧きあがってくる。
だからこそ――。
ズボンのポケットを触る。中に入っているのは四角い、正方形の箱が二つ。中身はペアの指輪だ。
旅行のラストを飾る、俺の人生の中で2番目に緊張する一大イベントを邪魔されたことに苛立ちを覚えた。
渡すタイミングを見失った婚約指輪は、今も四角い箱の中に大切に仕舞われたまま。
「ままならねぇなぁ……」
呟く俺の右手を握ってくれる興の手。その薬指にはまだ、指輪をはめてもらうことは出来なさそうだ――。