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六人のトラワレビト  作者: よるねこ。
√A 6人のトラワレビト
6/38

EP6--椎名優4――同じ後悔はいらない

2022年 11月25日 0時39分


救うべきモノはもう一人いる――その事に気付いた瞬間、疲れ切っていたはずの体が無意識に動き始める。


その動きは思考によるものではなく、本能と呼ぶべき当然の動きだった。


弾かれたように先ほどまで奮闘していた車へと走り出す。


僕は重要なことを失念していた。運転席と助手席の二人だけだと思い込んでいたのだ。


感じるのは後悔。思い出の中の二人を救うことに意識が集中していた。そのせいでしっかり車内を確認していなかったのだ。


「馬鹿か僕は! なに安心しきってたんだよ! 」


愚かすぎる自身に対し罵声をぶつけながら車へと走る。


徐々に増していた火の勢いはすでに火柱と呼べるほどにその勢いを増している。


「無事でいてくれよ……! 涼香ちゃんっ! 」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


車に到着しすぐに後部座席へと回る。


中を覗くと先ほどの女性よりもまだ幼さの残る、まだ少女と呼んでも差し支えないであろう女の子が横たわっていた。


火を纏う檻の中に囚われる幼き姫、僕の眼にはそう映った。


火は勢いを増し続けている。いつ車体が原型をとどめることを放棄してもおかしくない。


うっかり見惚れそうになる光景ではあったがその光景が意味すること、少女の命はこの上ない明確な脅威によって燃え尽きるのを待っている。


場違いな感動を振り払い、ドアノブへと手をかけ、思いっきりひっぱる。容易に開くと思っていたが鍵がかかっていたようで開かない。


「くそっ! 涼香ちゃん! 起きろ! 」


大声で中にいる少女へと声を掛ける事を選択した。その声に反応してくれたのか中にいた少女は目を覚ます。


「ふぇ……だれ……?」


目を覚ました少女はまだおぼろげな意識で世界を見つめる――その瞳が徐々に大きく開き困惑の色を浮かべた。


「え?なにこれ……」


困惑は混乱へ、混乱は死へと近づく行為だ。そのことに気付いているのはこの場では僕しかいなかった。だから――


「鍵を開けて! 早くっ! 」


少女を現実へと引き戻すために声を張り上げる。その声を受けた涼香ちゃんは素直にドアのカギを開けてくれた。


鍵の開いたドアを前にしてすることは一つ、再びドアノブへ手をかけ思いっきり引っ張る――先ほどは失敗したが今度は簡単にドアが開いた。


開いたドアからほんの少しだけ離れ、車の中へと叫ぶ。


「早く外に出るんだ!多分もう時間がない! 」


「は、はいっ!」


こんな状況なのに律儀に返事をしてくれる涼香ちゃん。愛らしさを感じるがそれはあとでいい。


大きな声で返事をしてくれた涼香ちゃんではあったが腰が抜けているのか、それ以降動きはない。


冷静になるまで待っているわけにはいかない。燃え盛る火は車に直接触れているわけではない僕にさえ熱を感じさせ始めている。


自力で脱出してくれることを諦め、涼香ちゃんへと手を伸ばす。肩と膝の後ろを両腕で捉え、抱きかかえた。


「ちょっ、お兄さんなにを?! 」


突然のお姫様抱っこに涼香ちゃんが狼狽した声を上げる。


「ごめん! あとで謝るから少しだけ我慢して! 」


そう断ってから車の中から引っ張り出した。


その勢いのまま車から離れようと身を翻し走り出す――僕が2歩ほど足を前へと突き動かした時、背後で今までとは違う異質な音が響いた。


思わず振り向いた僕の目に映ったのは――燃え落ちる車の屋根とその屋根の落ちる先、ガソリンタンクだ。


――まずい! 爆発する?!


瞬時に次に襲い来る危機を悟った僕は腕の中の涼香ちゃんを強く抱く――爆風から彼女の身を守るために。


走ることを諦め、彼女を守る事に専念することを決めた僕を飲み込むように――予想した通りの爆風が襲いかかってきた。


衝撃に吹き飛ばされ、意識が途切れる直前に願ったのは、腕の中にいる涼香ちゃんの無事。ただそれだけだった――。


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