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六人のトラワレビト  作者: よるねこ。
√A 6人のトラワレビト
21/38

EP21--悠野修一1――大人二人の密談

2022年 11月25日 4時15分。


――椎名君と涼香が眠りについた後、どちらからともなく車から離れる。


大体50mほど離れただろうか。立ち止まり、椎名君たちが車の中にいることを確認してその場に座り込んだ。


横を歩いていた静香もそれに倣い、ここに来るまでと同じ距離を保ち、腰を下ろす。


「最初に言わせてくれ。突然嘘をついて済まなかった」


そう言って頭を下げてくる静香。


「いや、構わないよ……おかげで予想以上に早く、こうして話すことができる」


その頭を軽く撫でた後、本題に移る――何から話せばいいのか迷ったので静香が質問し、私が答えるという方法をとる。


「優のことを父は最初から知っていたのか?」


「いや、直接の面識はない。だが静香の話と[椎名]という名字、その二つが噛み合う出来事を知っている」


「2011年の夏に何が起きたんだ?」


「私たちが開発した[オートエンジンオフ機能]、それを作るきっかけについて聞いたことはあるか?」


質問に質問で返すのはマナー違反だと思ったが、これについての理解度によって説明しなければならない範囲が異なる。


「たしか、2016年に頻発した高齢者の事故……急病で運転手が意識を失い、制御を失った車が歩道や信号が赤の時に交差点に進入した出来事への対策だったか……それと2011年の夏に何か関係が……」


静香はそこまで口にしたあと、息をのむ。


「……2011年にも同じような事故が起きていたんだな」


「その通り、2011年の夏、ここ大川市で起きた事故……即死2名と重体1名、重傷者2名という大きな被害を出した凄惨な車同士の事故だ」


その事故は全国的に話題になることはなかったが、地方紙に大きく掲載された。


「その事故の被害者家族の名字が[椎名]……珍しい名字だしほぼ間違いなくここにいる椎名君のご家族だろう……」


「……なるほど。そこで優は……」


小さい声で呟く静香。


「この事故は正常な意識が双方にあれば、ここまでの被害が出ることはなかった。だが片方の運転手、宮川氏は事故直前に心臓発作を起こし意識を失っていたとみられている……椎名氏はブレーキを踏み、ハンドルを切ったが宮川氏はそのまま突っ込んできたんだ」


その結果、運転手二人が命を落とし、椎名氏の子供2名は長男が意識不明、長女が重傷を負い、宮川氏の運転する車に乗っていた子供も重傷を負った。


「私はこの事故を知ったとき、自動車メーカーに勤めている身として看過することはできないと思ったんだ」


「それで父が[オートエンジンオフ機能]を開発することになったのか……」


相槌を打つ静香に軽く頷き、話を続ける。


「幸い、志を共有する仲間がたくさんいてくれて開発は成功……取り付けが義務化されたときはこれでこういった事故が無くなると確信し、歓喜したよ」


「そうだな、実際に事故の件数は大きく減った、私も関わったものとして鼻が高いよ」


――そう言って笑いながら茶目っ気を見せてくれる静香。普段はクールな静香の意外な言動に驚く。


「だが、本当に救うべき少年の事を私は気にかけていなかった。事故が減ればそれでいいとさえ思っていたのかな……」


拳を握りしめ、胸に湧き上がる後悔を吐露する。


「[オートエンジンオフ機能]ができる前に事故にあった人達……椎名君のような人達を救うことはできていなかったんだよ」


「それは仕方ないじゃないか。父の負うべき責任の領分を越えている」


私の落胆が伝わったのだろう、それを励まそうとしてくれる静香に軽く笑みを返す。


「そう言ってくれるのはありがたい、でも気づいてしまった以上私に見過ごすことはできないんだ」


――だから。


「私は椎名君を救う、あの子を救うことは私の使命なんだ! 」


宣言する。あの過去にトラワレた少年を救うことを。過去のトラウマから解き放つことを。


「……私は今日ほど父の娘でよかったと思う日はないよ」


私の宣言を聞き、共感してくれた静香がうれしいことを言ってくれる。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


それをぬぐい、抱きしめる。


「……協力する、父の使命と優のために」


「……ありがとう」


腕の中にいる最愛の娘と通じ合う。それだけで何でもできるような気がした――。

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