EP20--悠野静香4――推測と確信
――やっぱり駄目か。
わざと大きな声で、優に聞こえるように事実を説明したのだが……
「……優は自罰的すぎるな」
小さい声で愚痴を漏らしてしまう。だが幸いこの声は優に届くことはなかった。
優のしてくれたことは3人の命を救うことで、それは誇ってもいいことだと思う。
なのに優は、誇るどころかむしろ少し落ち込んでいるようさえ見えた。
どうすればこの子は自信を持ってくれるのだろう?どうすればこの子は自身を許してやれるのだろうか。
答えの見えない問題に頭を悩ませていると、
「ふぁあ……」
優があくびをした。それに気づき、腕の時計を見ると時刻は午前3時36分だった。
――いろいろあって忘れていたが、普通ならみんな眠っている時間だよな。
優だけではない、父や涼香にも視線を向けてみると、2人も同様に眠気を堪えた顔をしていた。
「あの……いったん寝ませんか?」
おずおずと提案してくる優。その提案を拒むものはいない。
満場一致でここで夜を明かすことが決まる。そこからの優の行動は早かった。
「じゃあすみません、僕は車を取ってきますね……この季節に野宿は厳しいですから」
そう言って入口方向へと歩きだす。
「私も一緒に行くんだよ」
涼香も優の後をついて行った。残ったのは私と父、二人だけになってしまった。
2人だけという状況に少しさみしさを感じていると、
「――なぁ静香、君はあの少年のことをどう見ている?」
並んで歩いて行く優と涼香を眺めていた父が尋ねてきた。
その質問に対し、少しだけ考えてから口を開く――
「……素直そうないい子だとは思う」
――だが。
「ここからは私の推測を多く含む内容になるけど構わないかい?」
そう前置きをし、目が覚めてから今までの優の様子を見ての推測を父に話すことにした。
「優は過去に大切な人……うわ言で[望]と言っていたな、その子を亡くしているんだと思う」
そこまで話した時、父は何かに気付いたような顔をして、
「椎名優……椎名……いや、でもアレは……」
独り言をこぼしながら何かを考え始めた。だがそれもほんの少しの時間で、すぐに顔をこちらに向け、続きを促してきた。
「……?」
父のその反応が予想外で、疑問を抱いたのだがそれは置いておく。
「その時のことを後悔し続けている優は、ひどく危うい均衡の上で今ここにいるんじゃないだろうか」
そこまで話したとき、車のエンジン音が響く。それを気にせず、父は言葉を続けた。
「……静香の推測が正しいと仮定として、そしてそれが2011年の夏の出来事だというのなら……あの少年のことを、私たちは救わないといけない」
その声は車のエンジン音にかき消されることなく私の耳に響いた。
――この、父の決意が籠った声は過去に一度だけ聞いたことがある。それは私と父が勤めている会社での研究。「オートエンジンオフ機能」の開発を始めるときに聞いたものに酷似していた。
「……どういうことだ?」
そう父に問いかけた時、優と涼香を乗せた車が見えてきた。
「――話はあとだ、まずは二人を迎えよう」
2人を乗せた車を見据え、まるで戦場に臨む兵士のような眼をした父が、車へと手を振る。
私の推測を聞いた父が、なぜここまでの反応を示したのだろうか。わからない。わからないが……。
「……あとで必ず説明してもらう」
優がいる時にそれを尋ねるべきではないと思った。だから父との会話を打ち切り、私も車のほうへ手を振って居場所をアピールすることにした。
私達が手を振っていることに気付いた優は手を振り返した後、ブレーキを踏み、徐々に減速して私達の前で完全に停止した。
「遅くなりました……」
車から降りながらぺこりと頭を下げる優と、
「お姉ちゃんすごいんだよ! 優くんって本当に運転ができるんだよ! 」
優の車の助手席に乗ったまま騒がしい涼香。
「涼香ちゃんはいい加減僕が成人していることを信じてほしいんだけどな……」
そう言いながら助手席へと回り、ドアを開ける優。
「……あまり涼香を甘やかさないでくれよ?」
――その優が、甲斐甲斐しく助手席にいる涼香に手を差し伸べたあたりで止めに入った。
「……優にとってその行動は当たり前なのか?」
私と同様に呆れていた父も口を開いた。
「……?」
そんな私たちを交互に見ながら、優は首をかしげる。
「……いや、出すぎたことを言ったみたいだね」
何のことを言われたのかさえ理解していないような優に、説明することを諦める父。
私も他に重要なことがあったので指摘することを諦め、別の話題へと移行することにした。
「父と話し合ったのだが……休憩は二人ずつ取ることにしないか?」
――実際にはそんな話し合いはしていなかったのだが、話の続きがしたかった私が提案する。
一瞬きょとんとした表情を浮かべた父も、私の意図を察し、こくりと頷いてくれた。
「まだ余震があるかもしれないですし、全員が寝てしまって行動できないという状況を回避したいですから賛成です」
そう言って優も賛同してくれた。――あとはどうやって父とペアになるのか悩んだのだが、それは涼香の、
「それなら私は優くんとペアがいいんだよ」
という一言で問題なく望むチーム分けになった。
「それなら目覚めたのが一番遅い、父がいるペアが最初に見張りをしよう」
という私の提案に優は異議を唱えたのだが、
2時間おきに交代、そうすれば見張りの負担も減る
優が一番怪我がひどい
優がよくても涼香が一番起きていた時間が長かった
などといろいろな方法で説得することで、優は渋々といった表情で頷き、
「……それじゃあすみません、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた後、車に乗り込んだ。
――それから10分ほどが経過し、車の中で優たちが寝息をたてはじめたことを確認し、父と二人で車から少し離れた位置に移動した――。




