「それ」は「ここ」にいた。
「じゃあ何からしようか? 」
俺とGは今から口喧嘩をする。しかし口喧嘩とはいえ喧嘩なんて始めようと思って始められるものじゃない
喧嘩というものはだいたいなにか小さなきっかけから衝動的に起こるものだ。けど俺達は喧嘩をすると堂々と宣言をしてしまった。喧嘩をするきっかけはある。小さいものなんかじゃない、大きすぎて今にも潰れそうだ。
けど堂々と宣言したことにより逆に切り出せなくなってしまった。その感情は思春期特有の中2的思考とそれに気付いた恥ずかしさからくる後ろめた差が同時にきたからだ。それは俺だけじゃない、Gも同じだ。
「なあY、俺達つい前までこんな感じだったんだぜ?」
「へぇ~そんなんだ~、誰かさんのせいで全く覚えてないだけどー。」
「ゴメンなー。」
Gは全く感情のこもっていない謝罪をした。俺も今さら謝罪なんて望んでいない、俺は全てを受け入れた。
徐々に記憶が無くなること、過去も思い出が消えていくこと、それが今の俺だ。
だから俺は今まで起こったこと、そしてこれから起こることを全てを受け入れるつもりだ。
それにしてもGとのやりとりがとても懐かしく感じる。Gとの記憶が無いとはいえ体がGのことを覚えているみたいだった。実際さっきのわずかなやりとりも俺達をこんな目に合わせた張本人なのに不快な気持ちはしなかった。むしろ少し楽しかったのである。
「で俺に聞きたいことがあるんだろ、Y?」
そうだ本筋を忘れてはいけない、俺はこいつに聞かなきゃいけないことが星の数ほどあるんだ。
「ああ、そうだな沢山あるよ。」
「いいよ、親友だからなんでも教えてあげる。」
「委員長を返せ、ここにいることはわかってるだ!俺はそのためにここまできたんだから…。」
俺がそのその言葉を放った時、Gの表情が変わった。けどその表情は怒りや憎しみの表情ではなく、はたまたアニメやマンガのラスボスがやる不敵な笑みの表情でもなかった。
「おい…なんだよ…その顔は…。」
Gの顔は真顔だった。なんも感情1つ見せない無の表情…。俺はそれを見てはじめてGのことを怖いと感じた。
「あ…いや…ゴメン…。最初の質問が委員長のことだとは思わなくって。」
Gの顔からすぐに表情が戻り呆れた口調でそう言ってきた。
「そうだよ、委員長を助けることが俺の目的で…」
「本当に気づいてないの?」
「えっ…、なにが…?」
気づいてない?一体こいつがなにを言ってるんだ?
「まあ気づいてないからいいや、どうせ分かるわけだし!」
「分かるってなにがだよ?おいっ!」
「はいはい落ち着いて、ちょってと熱くなりすぎだよ。」
Gの意味のわからない言動のおかげで熱くなっていた俺と、それをクールに受け流すG、正反対な俺達、これだとGのペースに乗せられてしまう。ここはGの言った通り1回落ち着こう。
「いいから俺の質問に答えろよ、なんでも答えるんだろ?」
「わかったわかった。えーと、委員長だっけ?たしかに委員長は俺の指示で誘拐した。そしてYの思ってるとおり委員長はここにいる。」
「なら今すぐかえっ…」
「でも委員長は返さないよ。」
俺の言葉をかけ消すようにGは静かにそういい放った。
「なんで…?」
「なんでってそもそも誘拐したのにあっさり返すなんてそんなことする?それで返せたら警察なんていらないよね?」
「くっ…」
俺はそれに返す言葉がない。ムカつくけどこいつの言ってることは正論だ。けどそれを論破しなければ委員長は助け出せない。
だがこんな必要はなかった。
「けど本当の理由はそれじゃないんよ?」
「本当の理由?」
「そう、君は俺の仲間を沢山倒した、いや消したと言ったほうがいいのかな?」
「仲間って…あの学校にいた生徒や先生のことか?」
「そうだよ、それだけじゃない、君を世話をしたあのメイド達を俺の仲間だった…なのに君は…」
たしかに俺はあの銃を使ってそいつらを消したし体育館を燃やして灰にした。でも…
「その人達はお前か操って無理矢理したもんだろ!そんなもの仲間とは言えない。たしかに奴隷だ!」
「そう思われても仕方ない。でも俺にとっては仲間だったんよY…。それに君におかげで仲間はあと1人になってしまった。」
あと1人…?そういえばメイド達を倒してからここにくるまで誰にも会っていない。それにはそんな理由があったのか。
「でもその子あんまり会ったことがないんだ。他の仲間は世話をして貰ったり自分から会いに行ったりしてたけどその子はほとんど画面からしか見てないから直接会うのは今のこれでえ~と、2回目かな?」
これで…?一体どういうことだ?だってこの部屋にいるのは俺とGとあと…。
「えっ…」
「でも仕方ない。その子は俺の指示でずっと離れて行動してたんだ。うまく君をここまで誘導するために、それなのに君は気づかないですっかり信用して頼りっぱなしで…。」
「言うな…。」
「見てて楽しかったよ。その子にたしなめれたり、あの部屋であんなこともしたり…。」
「言うな…。」
「そういえばその子、Yなんて呼んでたっけ?え~と」
「言うな…!」
「絵空?」
俺は恐る恐る横にいた彼女を見た。
そこにいた彼女はいつも無邪気な笑顔ではなく、それこそアニメやマンガのラスボスがするような不適な笑みで微笑んでいた。
そしてただ一言こう呟いた。
「はい…ご主人様…。」




