リスクと危険の選択
ここはいわば密閉された空間だ。だからひとたび火が放たれればインフルエンザのごとく広まっていく、はずだ。
しかしここは普通とは違うらしい、いくら体育館と校舎が離れているとはいえ校舎に火が届くくらい大きく燃えた、それなら校舎の壁は少しは焦げてもいいはずだ、だがそんなことは全くおきなかった。
それどころか体育館はしばらく時間がたつと火の勢いは弱くなり遂に火は完全に消えてしまった。もちろん俺達は消火活動はしていない、ただ体育館が燃えているのを見つめていただけだ。
だがその時の俺達はそんなことなんか不思議にも思わなかった。いや、思う余裕がなかった。
「これからどうする?」
最初に重い口を開いたのは俺ではなく絵空だった。この短時間で彼女の心はもうぼろぼろになっていた。だから絵空にはここで休んで貰いたいが、ここでいても嫌なトラウマが残るだけだ。人間だれしも嫌なことがあった場所にはいたくないのはみんな同じだ。だがもう引き返すことは出来ない、よって俺の出した答えはこうだ。
「早く4階に行ってここから出よう」
俺達はもう引き返せないところまで来た、だからもう前にしか進めない、俺達にはそれしか選択肢が残ってなかった…。
「わかった…じゃあ行こうか!」
絵空はいつものように俺に笑いかけた。しかしその笑顔は少しぎこちない、その笑顔は俺を心配してのものなのか?それても自分を励ますためなのか?いいやそれとも…。
それから再び俺達は校舎の中に再び入る。一体何回目の再登校だろうか?
玄関口から入りしばらく行くと目の前には職員室が目に入る。
「あれ…職員室…?」
その時俺は重大なことに気づいてしまった。同時にそんな当たり前なことに今まで何で気づかなかったのかと自分のバカさに嫌気が刺した。
「なんかあったの?」
絵空が心配そうに俺に語りかける。彼女が心配するのは仕方がない、何故なら今の俺は身体中の震えが止まらず寒気をするからだ。それは決して体調不良ではない、またあの悲劇を繰り返さなければいけないという恐怖からきたものだ。
「ほらほらY君、深呼吸深呼吸」
「すぅ~はぁ~、すぅ~はぁ~」
彼女のサポートでなんとか落ち着いた。今俺には絵空は女神に見える。
「ごめん、もう大丈夫」
「それでなんかあったの?」
そうだよ、あったんだよ。取りこぼしていた物が、とても当たり前だけどそれゆえに全く気にしてなかったことが…。
「ここは高校だよね、だから校舎もあるし生徒もいた。」
「そうだよ、そしてその生徒は誰かに操られてあんなふうに…。」
「じゃあここにはなんか足りないと思わない?」
「なんかって別に何も…」
ここには絶対的に1つ欠けているものがある、ラーメンで例えると麺が生徒、チャーシュー等の具が校舎、そうここにはスープが足りないのだ。
「いったいなにが足りなっていうの?」
「先生だよ。」
「先生…あっそういえばここにきてから1人も見てないや!」
絵空の言った通りここに来てから先生と呼べるものを全くといって見ていない。ここに来てから見た人間というのは絵空以外だと夏服の制服を着た生徒だけだ。
「それで先生がいないのが何か問題でも?私先生が居なかったら授業サボって私はハッピーなのに!」
彼女は段々といつもの調子に戻ってきているのか?まあ、それならそれで嬉しいけど。
「いやいや、先生は絶対学校に誰かいるよ?それで先生は普段どこにいる?」
「それはもちろん職員室、ここじゃん!」
その瞬間彼女も俺が何が言いたいがわかったみたいだ。
「ここには先生はいるけど…私達は生徒達しか相手にしてない…だからまだ先生は職員室にいるってこと?」
「そう正解、けど本題はこれからだ。」
「本題ってなに?早く教えてよ!」
絵空がせかすように俺に問い詰める。
「俺達が散々襲ってきた奴らは生徒達だった、けど生徒達は喋ることが出来なかった。けど何人かは違かったよね?」
「えっ?」
絵空は首を傾げしばらく考え込んだ。そのうち彼女は考える人のポーズをとっていた。
そして
「そういえば何人か喋ってたよ、動くなーとか、武器を捨てろーとか?」
「そう、けどその人は仲間の人となんか喋ってた?」
「そう言えばなにも喋ってない、けどあの生徒達は喋れない…あれ、おかしくない?」
そうそこで最大の矛盾が生じる、でも
「じゃあ喋れる人が生徒じゃなかったどう?」
「生徒じゃないって…じゃああの人は一体だれなのよ!」
「もう一度聞くよ、ここには何が足りない?」
「それはせん…え、まさか先生が?」
その通り、喋れる人の正体は多分先生だ。そしてそれは今ここ職員室の中にいる。
だからこのタブレットも先生という大人が持っていたんだと思う、大切なものを生徒に持たせるのは危険だ。
「じゃあ先生も喋れるとはいえ、誰かに操られてるってこと?」
「そうなるね。」
ここで俺は彼女にある決断を迫ることにした。それは俺が決めてもいいが、それは全て俺が単独決めたことで彼女の意見を全くいれていない、だからこの惨劇を招いたのは全て俺のせいだ。それだから今度は彼女の気持ちに従おうと思う。
これを逃げと言われてもしょうがないが、今はこれが最善の方法だ。
「今まで先生達は俺達を襲ってくる気配はない、だからこのままスルーすることもできる。
けどこれからはいつ襲ってくるか分からない、倒すならある程度動けるここしかない。絵空どうしたい?」
その質問は彼女にとって酷かもしれない。もしここで倒しても実は襲う気がなかった可能性があるから背負わなくていい罪まで背負うことにもなる。
彼女はしばらく考えこむかとかと思ったがその決断はすぐに決まった。
「いいよ、殺ろう。」
「えっ?」
確かに選択を迫ったのは俺だけどその答えには正直驚いた。さっきまでおもいっきり泣いていた彼女が…。
「本当にいいの?」
「私に決めろって言ったのはY君でしょ?リスクは早く減らしたほうがいいじゃん!だから早く殺ろうよ!」
その言葉に俺は何か違和感にも似た恐怖を感じた。まるで今までの絵空とは違う人間を見ているようだった。
まあとにかく彼女が決めた選択だ。俺はそれに従おう。
「わかった、じゃあ行くよ…。」
「うん!」
職員室に入るのこんなに緊張するのは久しぶりだ、いや、はじめてかもしれないな。怒られると分かっていて中に入るくらいの緊張感がある。
じゃあ先生に怒られにいくとするか、いったいどんな体罰が待っているんだろう?




