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8-差別の代償

 篠田に説明されたとおり、昇降口からではなく体育館の倉庫前にやって来た。するとそこにはパイプ椅子に座った事務のおじさんみたいな人がいる。しかし篠田の話では、気にする必要はないそうだ。


「イルミナの欺きは未来への軌跡」


 こちらも篠田に説明されたとおりの言葉だ。

 すると三河さんも、同じ言葉を呟く。


「イルミナの欺きは、未来への軌跡」


 言葉を聞くと、じっと黙っていたおじさんが少し体を動かし、藪に手を突っ込む。すると、なにやらモーター音が響きだした。ガチャガチャとなにか機械音が聞こえてきたと思えば、体育倉庫の扉がガタガタと震える。

 隣では三河さんがワクワクしてるのか、無駄に目が光ってる。正直僕としては、何が起きるかというより、どうやって起きるかの方が気になる。いや本当どういうからくり何だろう。ちょっと知りたい。


 ゴトン。


 エレベーターがついたときの音だ。おまけにきちんとチンと音もなり、ようやく体育倉庫の扉が開かれた。


「・・・・・・」


 操作をしていたおじさんは以前黙ったまま、もう動かずにじっとしていた。どうやら僕らは通ってもいいらしい。彼はきっとここの門番のような役割を果たしているのだろう。

 僕らはそのままおじさんに軽くお辞儀をすると、開かれた扉の奥へと入っていった。

 なかはよくあるエレベーターに似ていて、いくつかのボタンとカードリーダーがついていた。ボタンを押すも動かず、カードリーダーの光が赤く点滅。どうやらここにカードを通さないと動かないらしい。確か貰った生徒証にコードがあったはずだ。


「これが、ここですよね」


 若干恐る恐るといった様子だが、僕より先に三河さんがカードを通す。

 すると、僕が通していないにも限らずエレベーターは動き始めた。どうやら内部からの承認は一人分でいいらしい。


「よかったぁ、動き出しましたぁ」


 ホッとして気が緩まったようだ。それにしても三河さんは本当にこの専門学校にかよって大丈夫なのだろうか。こんなふわふわした子だ、いささか心配だ。


「三河さんは、どうしてこの学校にきたの? とても向いてるとは思えないんだけど・・・・・・」

「護くんは面白いことを聞くんですねぇ。そうですね。・・・・・・護くんは、ご自分のこと好きですか?」

「え?」


 自分のことが好きか嫌いかと言われても・・・・・・わからないよな。


《ちなみに私は自分のことが嫌いだぞ? こんな情けないやつを主人にしてしまったからな》


 考えているところ茶々を入れられる。

 失敬な、まったく失礼な悪魔だ。


「僕は、あんまり自分が好きじゃないかな。僕は、一人じゃ弱いから」

「そうですか。護くんは正直者なんですねぇ。――私は、私自身が嫌いですよ。いつも目を背けてたので。強いて言えば、逃げ道を断ちに来たんですよ。ここには・・・・・・」

「逃げ道を断ちに・・・・・・」

《ほー、ご立派なことで》


 三河さんもこんなではあるが、ちゃんとした覚悟があってのことらしい。それなら少し安心した。


「護くんは、どうなんですか?」

「僕の場合は、ちょっとした探し物があるんだよ。それを見つけるために、ね」

「探し物です?」

「そう。とても大事なものなんだ・・・・・・。――あ、ほら、つくよ」


 話しているうちに、エレベーターは目的地に到着したようだ。



   +++


 僕と三河さんに渡された紙に書かれたものはどちらも《1ーB》。要するに同じクラスと言うことである。



「――それでは、今日は転校生がやって来ました。自己紹介してもらいます」


 連れてこられた教室で、早々に僕らは立たされていた。転校というものがはじめてでない僕はあまり緊張と言うことはないが、隣に立っている三河さんはどこかそわそわしているように見えた。


「それではまず君、自己紹介してください」


 先生側に立っていた僕が先なようだ。

 僕は渡されたチョークで黒板に名前を書くと、一歩前に出て口を開く。


「渡辺護と言います。府中市からやって来ました。――障魔武器を使います」


 その時だった。

 僕が最後まで簡単な自己紹介をいい終えると、一部から殺気を感じた。それはよく見ると、かたまっていて、集団からのものだ。一体なんだと言うのだろうか。

 結局僕にはわからないまま、三河さんの自己紹介となる。

 彼女も僕と同様に名前を書くと、一歩前に出て話始めた。


「私は三河ほのかと言います。千葉からやって来ました。私も障魔武器を使います――」


 彼女も変わらずに自己紹介をしていた。するとやはり、一部の人間から殺気が。いやそれ以上に、なにか違うところからも妙なオーラが出ていた。というより視線か。一部の男子たちの視線が三河さんの胸に集中していたのだ。しかし彼女のあの性格だ。恐らくは気がつかないのだろうな。まぁ、確かに他の女子よりは大きな気がする。だがしかし、こんな人たちで大丈夫なのか、少し心配になった。


「ありがとうございました。これからはあなたたちもみんなの仲間です。仲良くしてあげてくださいね。――それでは、二人の席はあちらになります」


 そう言って先生の指差したのは教室の端。そこに、先らかに新しく追加したであろう机が並べてあった。僕らはその指示のとおりにそこにいくと、荷物を置いて席についた。


「緊張しましたぁ」


 小声で三河さんが言った。


「そうだね。でもすぐ慣れるよ」

「そうですねぇ。頑張りますよぉ」


 相変わらずの調子だなと、僕は内心苦笑い。

 こうして、僕らの初日は始まった。



――しかし、


「おいお前」


 休み時間には言った直後に声をかけられた。


「なんですか?」


 相手は五人。えっと確か五人と言えば、迷宮にもぐる際の推奨人数だったはず。もしかすると、彼らはチームなのかもしれないな。


「お前、障魔組だったな。だったら、さっさとここ出てけよ」

「へ?」

「わかってない見てぇだな。ここは俺ら人間様の学校だ。悪魔なんかと馴れ合ってるお前らの居場所なんてないんだよ!」


 この瞬間、僕は納得した。

 休み時間にはいる前、前の席にいた人は先生の目を盗んで軽い荷物の整理をしていた。そして、この時間になるとさっさと教室を出ていってしまったのだ。先程は何でかまったくわからなかったのだが、今わかった。確かこの学校の校則も、悪魔には優しくないものだった。――つまり、


「そもそも、何で俺らがお前みたいなやつらと一緒に授業やんなきゃいけないんだってんだ」


 差別ってやつか。

 なるほど道理で、自己紹介したさいに妙な殺気を感じるわけだ。あの瞬間から、僕は彼らの敵だったというわけだ。


《護、力を貸してやってもいいぞ?》


 面白そうにアインが僕にささやいた。


「いや、いいよ」


 小声で呟く。


「おい、どうしたってんだよ。さっさと失せろ――」

「悪かったよ。君たちの気分を害したのなら謝る。それじゃ。行こう三河さん」

「え、あ、はい・・・・・・」


 僕は彼女の手を引いて教室から出た。沸々と煮えたぎる僕の怒り。しかしそれ以上に大きなものが僕にはある。その目的のためなら、あんなクズ達は眼中に入らない――。

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