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9-輪っかの武器

 食堂は教室のある階層の更に下の階層、地下三階にある。僕は三河さんをつれてここに来た。

 やはりまず目につくのは、上と変わらない関係だった。一番奥の席に、授業が終わるとすぐに出ていった彼らが固まって座っていた。そして、その横を通り道として使う大抵の人は、彼らのことを避けていた。


「護さん、あれって・・・・・・」


 さすがに三河さんでも異常な光景は理解できたのか、少しばかり困った表情で僕の袖を引く。


「腹はたつけど、あんまり悪目立ちするのはよくないよ・・・・・・」

《意外に賢明じゃないか》

「大事な目的があるからね。――ね? 三河さん?」

「・・・・・・」


 あれ?


 声をかけたときの彼女の表情に、僕は少し疑問を感じた。なにか思い詰めたような彼女のその表情は、明らかに過去にあったなにかを思い出してのものだったのだ。彼女は目を背けてきたといっていたが、やはり彼女にも辛い過去があったのだろう。


「三河さん?」

「あ、ごめんなさい。ちょっとぼうっとしてましたぁ。ささ、行きましょ行きましょ~」

「う、うん・・・・・・」


 彼女の笑顔は、前のように光っていなかった。どこか、無理をしているような、そんな笑顔。


《この女、思ったよりも見所がありそうだな》

「意地悪するなよ」


 僕は刀に向けてそっと言った。




「ここ、いいですか?」


 一番奥の席、そこに座る彼らに僕は訪ねた。人数は十数名ほどいたが、学年で別れているのか、数名ずつ三つに別れている。僕と同じ一年は三人だ。

 僕の声に反応した彼らは振り返り僕らのことを見ると、一人の男子生徒が少し横にずれて、一人分の場所を作った。そこをとんと叩き、「ここどうぞ?」とにこやかに微笑む。また向かい側の座席に座っていた女子生徒は一度舌打ち、彼女の場所を作る。どうやらそこは三河さんの席らしい。


「ありがとう」


 僕らは彼らの開けてくれた場所に腰を下ろすと、前もって買っていた菓子パンの包装紙をちぎる。


「君たち、今日来たんだよね? 教室には馴染めそう?」


 僕のとなりにいた男子生徒が声をかけてきた。しかし明らかにその発言には悪意があった。きっと僕のことをおちょくっているんだろうな。


「そうですね。優しいクラスメイトばかりで退屈しなさそうです。って、別にタメ口でいいよね?」

「そうだね。同じ一年だし。にしても、初日で優しいクラスメイトか。君って結構面白そうだね。これからが楽しみだよ」


 完全に皮肉だった。

 彼もここにいると言うことは障魔武器を使うはずだ。彼も同様に術式組からさんざん言われているだろうし。だけどまぁ、いい人そうでよかった。障魔組まであんなクズだったらやっていけなかっただろうな。


「そうそう、自己紹介がまだだったね。僕の名前は火野誠也。気軽に名前で呼んでくれ」

「僕は渡辺護。これからよろしく」


 そうして、僕らは意外にも打ち解けていった。誠也以外の二人とも自己紹介をして、ついでに三河さんも自己紹介をした。向かいに座っていた二人は、舌打ちしたツインテ女子が浅野御子、そのとなりにいた大人締めの声高後ろ結び男子が友田優というらしい。二人とも特徴的で覚えやすかった。特に御子は終始機嫌悪そうだったから。


「そう言えば、今日の午後は種別演習があるけど、二人とも話聞いてるかい?」

「種別、演習?」


 初耳である。

 そもそも、考えてみれば今日どんなことをするか、教員からは何一つ聞かされていないぞ? どうやら情報が少なすぎるようだ。


「って一体何?」

「やっぱり知らないみたいだね。じゃあ、僕から説明するよ」


 わかってましたと言う苦笑いで誠也は話を始めた。三河さんも初耳と言う顔をしているので、どうやら僕だけ知らないと言うことではないようだ。そういうものなのかな。


「種別演習って言うのは、生徒それぞれの扱う武器の種類ごとにグループ別けされて行う授業で、武器の扱いや戦闘技能を学ぶんだ。護はどんな獲物を使うんだい?」

「僕は、刀を使うよ」

「刀か。じゃあちょうどいい。僕や優と同じグループだね。それなら細かいこともその時教えられる」

「てことは、二人も剣を?」

「うーん、まぁ優は剣みたいなもんだけど、僕は違うよ。このグループ別けは接近タイプの人と、遠隔タイプの人と、補助タイプの人で別れるからね」

「なるほど・・・・・・」


 結構グループ別けは大雑把なようだ。要は殴るか打つか下がるか、ということだろう。

 とにかく誠也たちについていけば今日のところはなんとかなりそうだ。

 あ、そういえば


「ねえ、三河さんってどんな武器を使うの?」

「ふぇ!?」


 なんだろう、別に意表をついたわけでもないのにめちゃくちゃ驚いている。座ったままピョンと跳ねあがった。その瞬間に揺れる。そして御子が舌打ちをする。なんだろうこの流れは。


「ど、どうしたの?」

「へ? いやそのえっと、別になんでもないですよぅ~。あはは~」


 ものすごい動揺している。


「ほのかさんはそんなに人に言いづらい武器を使うの?」


 僕の隣からずいぶんとストレートな発言が飛ぶ。その言葉を受け、三河さんの目が泳いだ。なるほどなるほど。


「えっと、その・・・・・・。私の武器、ちょっと変わってるんですよねぇ」

「大丈夫だよ、武器が変わってても別になんともないって」

「そうよ、あんたもう十分印象的だから」


 今度は三河さんの隣からもふてくされたような発言が。しかも全然フォローにはなっていない。


「三河さん、別に無理しなくてもいいよ?」

「いいんです護くん。早いか遅いかの違いですからぁ」


 と言いつつも若干元気がなさそうだった。がしかし、彼女はポケットから何かを取り出すと、僕らに見せてくれた。


「これは・・・・・・丸い、わっか?」


 それは、とても武器とは言えない代物だった。CD位の大きさのわっか。その周りに猫の耳のそうな装飾がついている。手を通すにしては大きいし、投げるにしては厚すぎる。一体どうやって使うんだろうか。


「えっと、私は糸を武器にするんです」

「糸?」

「はい。ミーちゃんは何でも食べられて、食べたものを太さ自由の糸にすることができるんです」


 なるほど、使い方によってとてもユニークな武器になることだろう。


「へー。面白い武器じゃないか。全然おかしくなんてないよ」

「そう言ってもらえるとありがたいですぅ」


 その後三河さんは武器をしまうと、疲れたのかぐったりとしてしまった。そんなにおかしくはないと思うが、彼女は気にしていたのだろう。まぁ、知れてよかった。


「それじゃあ、次の授業の支度もしないといけないし、そろそろいこうか」

「そうだね。そうしよう」

「行きますか」

「あ、ちょっと待ってくださいぃ、まだパンがぁ~」


 そういってパンを頬張る彼女のもとには、まだいくつか残っていた。僕らが話している間三河さんは何をしてたのだろうか・・・・・・。

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