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10-障魔の真骨頂

 武器のタイプによって分かれて行う、種別演習に使用する場所。それはグループごとに違っているらしく、いま現在、僕は誠也と優の二人と共にいる。

 そこは相当広くはあるが、構造としては教団支部にあった訓練室と同じようだ。ようはまず環境に慣れさせるため、次元の歪んだ環境下で訓練をするということだろう。天井もガラス張りで、照明がよく見えた。


「護、ここでは僕たちの相棒をもとの姿に戻してもいいんだけど、あんまり目立ちたくなければしないでね?」


 誠也から一つ忠告が入る。

 僕はそれに応答するように頷くと、刀の姿のアインに声をかけた。


「悪いけどもう少し我慢してて。帰ったら自由にしてていいからさ」

《はぁ、仕方ないなあ。我慢しててやるよ》

「助かるよ」


 いかにも呆れたと言わんばかりの声色でアインは言ったが、今は純粋に彼女の言葉がありがたい。この学校で変に悪目立つすると言うのは、僕の場合特によろしくないからな。


 その後チャイムを合図として、この場にいる生徒全員やってきた教員の前に整列をした。はっきりと場所が決まっていない僕は列の最後尾に立つ。この場で出席確認の点呼に返事を返し。刀の姿のアインに一言加えられた。


《わかっていると思うが、この場にいる相手は基本的に私たちより優勢だからな? そこのことを念頭に置いておけよ?》


 珍しく彼女が僕の心配をしているのだろうか。そうでなくとも、貴重なアドバイスだ。しっかりと注意しておこう。つまりは相手がほとんど術式装備であるから、ということだろう。以前のテストの時のように、唾競り合いながらこちらの力を持ってかれていくようなことになってはいけない。こちらはこちらで、パートナーたちとの連携もかねてアドバンテージを発揮していかなければいけない。


(わかった。その時は頼むよ)

《うむ》


 彼女との会話を終える頃、どうやら教員による出席も終わったようだ。生徒の中心辺りにやって来ると、今日の授業について説明を始めた。


「いいか! 今日の授業は、ペアを組んで模擬線をしてもらう! その後相手を変え、もう一度模擬線だ! いいか、極限で信じられるのは己の力のみ! 自らの力を信じられるように、鍛えていくのだ!」


 先生の言葉のあとに、一部から力強く「はいッ!!」という声が上がる。勢いばかりにも思えるその声は、どうやら昼前僕のところに来た五人組らしい。しかしなるほど彼らに力という言葉はうってつけだった。後ろを省みずひたすらに、それもバカのように力をふるい、そして踏みつける。教員の方は単に脳筋というやつなんだろうが、彼らは違う。正直あまり彼らとは剣を交えてくなかった。

 しかし参った、今日転校してきたばかりの僕の相手をしようなんて人は早々いないだろう。そう思い、僕は昼食を共にする彼らを探す。彼らなら、僕とも快く組んでくれそうだと思ったのだ。

 思い探していると、ちょうど近くに友田優がいた。


「あ、ねえ、友田、だよね。僕と組まない?」


 僕が後ろから声をかけると、若干警戒ぎみな表情で振り向き、僕だとわかるとその表情が少し和らぐ。


「なんだ、渡辺くんか。うん、ボクでよければ。組もうっか」

「お手柔らかに頼むよ」


 冗談めかしく僕はいった。

 彼は相変わらず大人しめで、ふと腰に目を向けると、そこには二本のナイフらしきものが。大人しめの性格で武器がナイフとは、なんととなく忍者のようだなと思ったことは秘密にしておこう。


「渡辺くんは片手剣だったね。だとしたらちょっとやりづらいだろうけど、我慢してね?」


 あまりしゃべらない彼から声をかけてきた。どうやら少しばかり僕のことを心配してくれているようだ。なんと心優しいことだろう。彼のこの優しさを術式組のクズどもにも分けてやりたいものだ。


「わかった。注意、ありがとね」

「うん」


 彼の少し高いトーンが心地よく耳に響く。

 そうして僕は腰から剣を抜くと、軽く降ってみる。やはりそこまでの重さもなく、リーチも不思議と馴染みやすい。この黒い刀は、とても僕にあっていた。これももしかしたら、そういうもの、なのもかもしれないが。


――――ピイイイィィィィ――ッ!!


 甲高い笛の音が部屋中に響き渡る。響きがよくきっと全員の鼓膜に行き届いたことだろう。

 この音を聴き、目の前にいた彼は目の色を変えた。平常モードから臨戦モードへの移行。友田は腰からナイフを抜くと、腰をやや低く、上段と下段にそれぞれ構える。それに倣い、僕も腰を低く、いつでも動ける体制に。そして刀は、正面に向ける。切っ先は友田に向き、狙いを定めた。

 これは演習だ。しかしそれゆえに、実践と同じかそれ以上の集中力を要する。演習で手を抜けば実践にて仇となり、実践にて誰よりも強くいきるためには、演習であろうとも全力を尽くさなければならない。


 どちらからということもなく戦闘の火蓋は切って下ろされた。青みを帯びた友田の双眸がこちらの首をとらえる。冷静に、勝つ慎重に繰り出される一撃は、あっという間に間合いを詰め僕の首めがけて走る。それを僕は半ば反射的に刀で受けると、刀身からひしひしと伝わってくる重さに、内心で感動した。これが、この世界の重さなのだと、僕はとうとうここまで来たのだと実感する。

――負けてられない。

 その一心で、僕も刀を振るう。まっすぐと直進してきた友田に対し、右上から上段斬り。しかしそれはいとも容易く回避され、まるで流れるような動きで反撃が飛ぶ。とても素早い動きで次々と繰り出される攻撃の数々。まるで五月雨のようなこと攻撃に、ふと府中でのテストを思い出した。あのときは確か受けるのが精一杯で結局まともに反撃に出ることができなかった。だが、いつまでも同じままではいけない。


(アイン、力を貸してくれ)


 障魔武器の、術式装備にはないアドバンテージ。それは悪魔とも駆け引きであり、連携であり、信頼である。なにより、武器ではなくひとつの生命なのだ。これこそが、障魔武器最大の特徴。友田の武器もそれではあるものの、障魔武器が術式装備以上かそれと同等に力を発揮するには、何よりも悪魔とも関係が大切になってくるのだ。そして、なんの根拠もないが、僕はアインとはそれなりに信頼関係があると自負している。少なくとも僕は、彼女を信じている。


《好きに使いたまえ。君が望めば、私は力を貸そう》

「ありがとう」


 小声で呟くと、僕は刀を握る手によりいっそう力を加えた。求めるのは、友田に負けない速さだ。

 ナイフを持った右腕が左から降り下ろされた。そして、それに続き左腕が動き始めたのをしかと見た。僕は刀を下から振り上げると、友田のナイフにぶつける。そしてナイフを一本押さえたまま、高速でもう一本にナイフにも刀が触れるように動かす。そして次の瞬間、刀はナイフを弾き、チェックメイトだ。


「・・・・・・!?」


 友田は今の一瞬に起きたことに驚きを禁じ得ないようだ。尻餅をつき、そのままナイフをカランと床に落とすと、こちらの顔をじっと見てきた。僕も刀を鞘にしまい。彼に手をさしのべた。

――その時だった。


「うわあああ」


 後ろから、人がとんできた。恐らく強い衝撃で押しやられたのだろうが、友田に集中していたあまり、後ろから何かが近づいていたことに気がつかなかったのだ。

 後ろからぶつかり、僕は友田に手をさしのべるどころか、むしろ彼を押し倒してしまった。


「わりーな」


 ぶつかった相手はそれだけ言うと体勢を立て直し、再び組んでいるであろう相手に向かっていった。しかしまだ僕は気がついていなかったのだ。すでにトラブルが起きているという事実を。


「ごめ――」


 ごめん。そう謝ろうとして僕が口を開いたその瞬間だった。


「わあああああ!!」


 友田は叫び声をあげると、そのまま僕の体を思いきり押す。そのあまりの強さに僕はそのままバランスを崩すと、尻餅をついてそのまま倒れた。いったい何がどうしたのか全くわからないまま、視線を友田に戻す。すると、彼はすでに立ち上がっていて、まるで胸をかばうようにして涙めで・・・・・・って、え・・・・・・?


「えぇ・・・・・・?」


 いや、そんなことはないはずだ。いや別に確認したわけではないが、だって、え? 嘘でしょ?

 脳裏にあれこれ推測が浮かびつつ消えていきつつ。まるで思考が定まらない。目の前で起きている現実に、理解が追い付かない。

 確かに倒れかけて押し倒した拍子に、彼の胸には手が触れた。しかしそんなことは全く僕の意識にはなかった。だってそれは、彼が男であるとそう確信した上でのことだったから。しかし、もし本当に、その、あれがそうならば、いや普通にこの状況だとそういうことに――――。


「ボ、ボクの胸に触れたな・・・・・・」


 若干震え声でそう言う。正直そんなことを聞かれてもはいとしか言えないのだが、どうしたものか。


「え、もしかして友田って・・・・・・」


 確かに、思い返してみれば少しそれっぽいところはあったかもしれない。確かに食堂でも少し少食だなと思ったり、さっきも声が高いとは思っていた。だがまさか、こういうことだとは予測もできまい。


「そうだよ、ボクは女だ! どうせ気がつかなかったんだろ! 僕が胸ないから!」

「・・・・・・」


 正直そうの通りなので何も言うことができなかった。どうやら彼女自信、完全絶壁を気にしているようだし。しかしでも、ズボンをはいてこれだと、ただの女顔の男子生徒と見られてもおかしくないだろう。


「ご、ごめん。気がつかなかったよ。本当にごめん。嫌だったよね」


 とりあえず謝る。まずはそこからだ。


「べ、別に謝らなくてもいいよ。そもそもこんな色気のいの字もないボクがいけないんだからさ」


 そういって今度はぶつぶついい始めた。どうやら彼――いや彼女は面倒な性格の持ち主なようだ。しかしひとつ疑問が浮かぶ。男子生徒と女子生徒を見分ける方法として一番手っ取り早い方法があるではないかと思うのだ。


「なんで、友田はスカートをはかないの? そうすれば一発でわかるのに」

「だって、ボクにはあんなヒラヒラしたもの似合いっこないし・・・・・・。それに恥ずかしいし・・・・・・」


 なるほど。自分自分を陥れていくタイプか。

 こいつはきっと誠也たちもさぞ苦労したことだろうな。今度彼にあったら称賛をささげよう。


「別に、そんなに変じゃないと思うんだけどな。きっと似合うと思うよ?」

「・・・・・・そうかな」

「今度来てきてみてよ。きっと似合うからさ」


 別に、見た目完全に男、ということではないのだ。言われれば、女子生徒と見て間違いない彼女だ、制服のスカートをはいて違和感バリバリ、なんてことはないはずだ。


「そ、そう・・・・・・。じゃあ、今度、ちょっと着てみようかな・・・・・・」

「うん。楽しみにしてるよ」


 その時、教員による笛での合図がなった。おそらく演習終了の合図だ。僕らは早めに決着がついたが、まだ終わっていないとこもあったようで、それぞれ動きがピタリと止まる。僕も教員の近くに移動しようと思い、友田に伝えた。


「――と、終わりみたいだね。行こう」

「・・・・・・うん」





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