転生前のシャロン
「このティー。誰が淹れたの」
シャロンは用意された紅茶をひと口飲んで味が出ていないし香りもないとメイドに怒鳴り散らす。
「それとティーを淹れたらクッキーも用意するのが普通でしょ。まったく役に立たないわね」
紅茶の淹れ方や味一つ違ってもメイドたちに当たり散らす我儘令嬢。
それが転生前のシャロンであった。
見た目は美少女だが、心はどす黒いと社交界でも陰口を叩かれていた。
もっとも本人は平気な顔をしているが。
社交界に出ても傍若無人な態度は変わらない。
見た目は美少女だから社交ダンスの相手は引くて数多であったが、私と釣り合いが取れる相手なんて王子しかいない言い放ちと誰とも踊らなかった。
アルベールがシャロンと会ったのは農民たちの集会の時だ。
不作にも関わらず、税をむしり取ろうとするロスメル家に抗議に行ったのだ。
しかしシャロンは平然と言い放つ。
「お前たちは我が領土に住まわしてもらっている身でしょう。耕す土地を与えてやっているだけでもありがたく思いな。収穫されたものは領主であるロスメル家の物。
それを取られて生活出来ないというのなら出ていくなり死ぬなりすればいいじゃない」
シャロンの言葉に農民たちは怒りを露わにしたが、護衛の騎士たちに力ずくで追い返されてしまった。
「とんでもねえ女だ」
「綺麗な身なりに宝石をごてごてに付けやがって」
「あれは俺たちから吸い上げた金で買っているんだ」
怒りはあっても逆らう事は出来ない。
平民が貴族に逆らえば処刑されるからだ。
死を覚悟するなら話は別だが、家族がいる人たちばかりだ。
どんなに苦しくても耐えるしかない生活だったのだ。
アルベールは遠目にその姿を見てあれが公爵令嬢かと怒りより呆れが上回った。
生まれた時からその立場でそういう教育を受けていると言ってしまえばそれまでだが、自分たち優位で平民はどうなろうと知った事ではないという態度がありありと出ていた。
「お嬢様、旦那様が領内の平民たちの管理と税の取り立てを今後はお嬢様に引き継いでいくとおっしゃっております」
執事の言葉にシャロンは何を言っているんだという表情を浮かべる。
「は? 私がやるの? 面倒くさいわね。他の誰かにやらせなさいよ」
「そういうわけにはまいりません。領主の一族でなければ税の取り立ては出来ません。お嬢様が次期領主になられるのであれば今のうちから手をつけておく案件でもあります」
「時期領主か。悪くはないけど、面倒くさい事はやりたくないわね。なるべく他の者にやらせて私はティーでも飲みながら1日過ごしているわ」
「お嬢様、それでは領主として務まりません」
「お前、執事の分際で私に文句をつけるつもり? そんなもの誰かにやらせればいいじゃない。私は報告だけ受けて終わり。公爵として優雅で贅沢な生活をして何が悪いの?」
公爵令嬢のシャロンにそう言われては執事もそれ以上何も言えなかった。
いくら貴族と言えども公爵は領主として領民を守る義務がある。
しかしシャロンは取る事はやっても軽減はしない。
「このロスメル家はエドワード様〔シャロンの父〕の代で終わりかもしれない」
それは執事だけでなくこの家に雇われているメイドたちも感じていた事であった。
現公爵であるエドワード・ロスメルも褒められた人物ではないが、公爵としての務めは果たしている。
「お嬢様は領民から税を搾り取るばかりで不作に見舞われている農民は貧困にあえいでいます。旦那様のお力でどうにかなりませんか?」
執事はたまりかねてエドワード公爵に事の次第を打ち明けた。
「ふむ。シャロンが勝手にやっているという事か。。さすがに農民を飢えさせるのはまずい。来年以降の税収が落ちるし、他の領主から非難と嘲笑もされよう」
貴族にとって貴族間での評判が落ちるのは屈辱である。
他の領主から物笑いの目で見られては公爵の名が廃るだけではない。
貴族間の交流もままならなくなり、害はあっても利になる事はないのだ。
この時はエドワード公爵による減税処置でロスメル領の危機はどうにか回避できた。
しかし搾り取るつもりだったお金が手に入らなくなったシャロンは反抗する。
「お父様は甘いのよ。あいつら甘やかしたら来年以降も不作で税が払えませんって言い出すわよ。私がせっかく厳しく取り立てたのに」
「愚か者が! 農民たちが飢えたら我々の税収がなくなるのだぞ。そうなればロスメル家は他の貴族たちの笑い者だ。お前とて社交界で嘲笑の的になる」
社交界で笑い物になるのはプライドの高いシャロンには耐えられない屈辱である。
「お父様がそう言うなら仕方ないわね。わかったわ。不作の時はお父様に任せるから豊作の時は私に取り立てさせて」
「お前は取る事は知っていても与える事を知らぬ。両方とも出来てこその領主だ。もう少し勉強させないとダメだな」
「そんな。。私が社交界で笑い物になってもいいの?」
「今のままではどの道笑い物だ。そうならないようにもう少しやり方を学ぶのだ。それからでも遅くはあるまい」
シャロンは不満であったが、父親には逆らえない。
「わかったわ。しばらく農民たちのところに行くのは控えておく。その代わり宝石を買ってもらうからね」
その金はどこから出てくるのかなどシャロンは考えた事もない。
生まれたときからお金はいくら使ってもあるものだったからだ。
そして、事件が起きた。
夜の食事が終わり、自室に戻ったシャロンは足を滑らせて頭を強く壁にぶつけ、そのまま命を失った。
傍若無人な公爵令嬢の呆気ない最後であった。
その直後、メアリーの魂がシャロンの体に入り込み、転生する事となったのだ。




