1人の少女の死と転生
新作です。復讐物として書いたつもりが刑事ドラマみたいになったのでミステリーにしました。
お楽しみ頂けたら幸いです。
「急いで! お願い」
懸命に走る馬車の中で必死に祈る1人の女性。
彼女の名はアミーリア。
国の重鎮であるラドフォード公爵の令嬢である。
ここはストーンエデン広場。
俗にいう処刑場である
今、ここで処刑されようとしている少女が1人。
まだ16歳くらいであろう。
しかし、処刑以前に凄まじい拷問にかけられてすでに虫の息であった。
ギロチン台に首をかけられ、処刑人は少女に尋ねる。
「何か言う事はあるか?」
そう言われても少女はもはや言葉を発する事すら出来なかった。
少女の名はメアリー。
彼女はこうなる直前まで無実を訴えるが、その声は誰にも届かなかった。
拷問で腫れ上がった顔、折れた両手両足。
歩けなくなったメアリーは処刑場まで兵士に担がれて乱暴にギロチン台に放り投げ出された。
「本来なら平民のお前は絞首刑なのだが、伯爵のお情けでギロチンになったのだ。名誉に思え」
"そんなの関係ない。絞められるか切られるかの違いだけで、どうせ死ぬ事に変わりはないのだから。
名誉なんて平民の私には意味ないのに"
そう思っていると、わずかに見えるメアリーの視界に入ってきたのは懐かしい顔であった。
隣街のラドフォードに勉学に行っていたはずの幼馴染のアルベールがメアリーを助けようとして大声をあげて兵士たちに止められている。
声が出ないメアリーは心の中で彼に感謝の気持ちを込めた。
〔アルベール、ありがとう。最後に会えて嬉しかったよ〕
そしてギロチンの刃が落とされ、メアリーは16歳の生涯を閉じた。
見物人から怒号とヤジが飛び交う。
メアリーの血は処刑人が治療薬や魔術のアイテムとして売るために壺に集めている。
そして遺体は晒し者にするためにそのまま放置された。
アミーリアが処刑場に着いた時、すべてが終わっていた。
首のないメアリーの遺体を呆然と見るしか出来なかった。
そしてポツリポツリと雨が降る。
「ごめんなさい。。」
降りしきる雨が彼女の涙を隠していた。
「助けてあげられなくて、ごめんなさい」
アミーリアはメアリーの腕に付けられた腕輪を外して自らの腕につける。
「この腕輪はあなたの遺品としてもらいます。あなたをこんな目に合わせた奴らを必ず断罪する。。」
降りしきる雨の中でアミーリアは腕輪を握りしめてそう誓った。
そして少し離れた場所に兵士たちに殴られ気を失っていたアルベールが目を覚ました。
気がついた時にはすべてが終わっていたのだ。
彼もまた復讐を誓う。
「メアリー、お前の無念は必ず晴らしてやる。。」
女は遅かった自分に。。
男は何も出来なかった自分に。。
悔しさで拳を握りしめる2人の男女がそこにいた。
☆☆☆
「はっ?」
メアリーは目を覚ました。
心臓の鼓動が速くて胸が痛む。
全身に汗をかいてしばらく呼吸が整うのを待った。
だが、この時すでに違和感に気がつく。
豪華な天井の模様にふかふかのベッド。
メアリーの生活からは考えられない高価そうなワンピースを着ている。
いや、厳密に言えばナイトシフトの寝巻きなのだが、メアリーはそんな物を見た事がない。
肌触りの良さがメアリーには心地よかったが、なぜこんな高価な物を着ているのか理解出来なかった。
「なに? この格好。これは寝巻き?」
ベッドから起き上がるが、頭が重い。熱があるみたいに体に倦怠感がある。
どうにか体を動かして部屋の中にあった鏡で自分の姿を確認して驚いた。
「これが私?」
メアリーは鏡で自分の顔を見て驚いた。
金髪にエメラルドグリーンの瞳、肌は大理石のように白く髪は柔らかく傷みもない。
その時、メイドが部屋に入ってきた。
「お嬢様、何かございましたか?」
「お嬢様。。」
メアリーは自分が誰だかわからない。
お嬢様と呼ばれるからにはいい家の子なんだろうとだけは理解した。
その時、メアリーの頭の中にこの女性のものであろうと思われる記憶の断片がわずかに入り込んできた。
これはなんだ?
メアリーは頭痛を何とか堪えてこの状態が治るのを待った。
時間にしたら1分ほどだったであろう。
メイドはメアリーが頭を押さえているので、心配そうに見つめている。
そしてメアリーは自分がシャロン・ロスメルという名前である事。
公爵令嬢である事などを理解して来た。
そしてシャロンは3日前に頭を打って死に、代わりにメアリーがこの体に入った事も。
シャロンはメイドに話しかける。
「少し頭痛がして体もふらつくわ。もう少し寝ていていいかしら?」
シャロンが口を開いたのでメイドもひと安心したようだ。
「シャロンお嬢様は頭を打たれて3日間寝込んだままでした。お目覚めになられてよかったです。私は旦那様と奥様を呼んでまいりますので、どうかご無理をなさらずに」
メイドはそう言うとベッドに横になったシャロンにお辞儀をして退室した。
「私はどうしちゃったの。。確かにギロチンで首を切られて死んだはずなのに」
メアリーはまだ自分に何が起こったのか理解するのに苦労していた。
まったく違う人間、しかも上級貴族になっているのだから無理もない。
「私が生きていた時代だとわかって少し安心した」
もし違う時代に生まれ変わっていたらどうやって生きていけばいいのかわからないところであった。
同じ時代ならこれから今の自分の状況を整理していけば何とかなるかもしれない。
しかし、メアリーはロスメルという名前を思い出して戦慄した。
街の名前である。
街の名前を苗字にしているとなれば領主という事になる。
「ロスメルって領主様の名前。私は領主の娘に生まれ変わったという事なの。。」
平民から公爵令嬢で領主の娘へ。
あまりの立場の違いにメアリーはまた理解が追いつかなくなってきた。
だが、領主という事はピエールのナヴァル家よりも上の立場である。
そう考えていると父親と母親らしき2人が慌てて部屋に駆け込んで来た。
「シャロン、目を覚ましたのか?」
「良かった。心配してたのよ」
〔これが領主様。。〕
メアリーは初めて領主の顔を見た。
目の前にいる男性は平民を虐げる貴族ではなく娘を心配する普通の父親であった。
ようやく頭痛が収まったが、体の倦怠感があり、無理に動くよりもベッドに寝ていた方がいいだろうとシャロンは判断する。
病気としておけばしばらく時間を作れるし、その間に自分がどんな人間なのかを知る事も出来る。
〔とりあえず、私がシャロン・ロスメル。ここは領主様の家という事はわかった〕
メアリーは自分が処刑されて死んだ事も思い出していた。
転生前の記憶がところどころ曖昧ではあるが、自分を罠にはめた男の名前と顔だけははっきりと覚えている。
〔ピエール。。あの男だけは許さない〕
これは神様が私にくれた復讐の機会だとメアリーは思った。
このシャロンという娘の力を使って復讐を行おうと心に決めたのだ。
☆☆☆
ロスメル家は両親とシャロンの3人家族であった。
シャロンは公爵令嬢として社交界では名を知られた有名人である。
それも良くない方の。
いわゆる悪役令嬢であった。
ロスメル家は国の重鎮であり、王族・貴族たちに絶大な影響を持つ一族であった。
そしてロスメルの街の名前を冠にする領主でもある。
何の力もなかったメアリーにとって、この持って生まれた身分の差は如何とも言いようがない。
父であるエドワード・ロスメル公爵もさすがにいつまでも娘についているわけにもいかず、シャロンを心配しながらも仕事へ出て行った。
「公爵令嬢なんて、地獄から天国とはまさにこの事ね」
シャロンは不思議な感覚であった。
メアリーだった頃の記憶はまだ曖昧でシャロンとしての今の自分の知識や教養も頭を打ったという事でごまかしているが、さっぱりなのだ。
これから少しずつ覚えていけばいい。
思い出したというフリをして。
これが公爵令嬢の身体なのか。
特にシャロンはお風呂が好きで、この当時としては珍しく毎日お風呂に入る習慣があった。
肌も髪も艶々なわけである。
月に2、3度川の水で顔と頭を洗うくらいしかしなかったメアリーとは雲泥の差であった。
メアリーは髪はボサボサで傷んでいたし、16歳とは思えないほど肌荒れと日焼けによるシミ、そばかすがあったからだ。
石鹸は高価で買えるはずもなく、香水も当然手に入らない。
メアリーはおしゃれなど考える事もなく日々の生活に追われていたのだから。
「石鹸も香水も簡単に手に入るなんて。。」
気が引けるとはいえ、今は生まれ変わったシャロンという女の子である。
彼女が歩んできた人生を継続しつつ、自分を死に追いやった貴族たちに復讐を誓う。
「まずは私を罠にはめたピエールを断罪してやる」




