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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第1章
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第20話 竹原修斗

 どれだけメールと電話でやりとりをしてきたのでしょうか、竹原修斗は純粋に笑顔を浮かべて心を躍らせていました。

 男子寮の左端にある自室でテーブルにハンティングナイフを置いてデスクチェアーに座った修斗。

 携帯電話の通話履歴は全て白雪という名前ばかりで、他の名前はありません。

 無知な漆黒の瞳がふと窓を映し、笑顔をやめて不思議そうに窓の外を見下ろしました。

「あれは奈木と、誰?」

 男子寮から見下ろせる中央広場にいたのは同級生の神山奈木と知らない男子生徒。

 奈木の前髪が長いせいか表情は確認できませんが、無表情だということを修斗は知っています。

 隣にいる男子生徒が奈木の手を取りエスコートをしている様子に、修斗は自然と立ち尽くし頭を空っぽにさせました。

 完全に笑顔が掻き消えた修斗は携帯電話を床に落としてしまいます。

 俯いて、窓に手を張りつかせて奈木と見知らぬ誰かが一緒にいる姿を視界に映せなくなって、胸を締めつける何かに疑問を抱くこともできずに呆然とするしかありません。

 ただ一緒にいてくれる人がいないことを自覚するしかないのです。

 虚ろになりかけている漆黒の瞳を強く閉ざしました。

 閉じていた瞼をゆっくりと開けたのは感情を表に出さない冷めた目をした橘恵。

 黒のノースリーブに紺色のジーンズを着た恵は倭国の中心である帝都にいました。

 帝都に集まる主要施設の中にある政府本部の建物。

 目の前にいるのは高い地位にいるスーツを着た男で、高級なチェアーに座っています。

 細身で背が低いその男は恵を見て笑うことなく口を開きました。

「弟君は元気か?」

「……」

 単純で簡単な質問に答えない恵を鼻で笑い、男はチェアーを回転させて一面窓ガラスの壁から帝都を一望します。

「本来なら死ぬはずだったお前を助けてやったのに、恩人の俺に反抗的な態度を見せるなら弟君を殺害させることだってできる。まぁ今は弟より……あのガキか?」

「墨田!」

 男の名前を強く呼び捨てた恵の目は鋭く睨んでいます。

「安心しろ、目つきの悪いクソガキにはまだ何もしていない。俺に対する忠誠次第でクソガキがどうなるか、お前だって分かりきったことだろう?」

「今度は、なんだ?」

 墨田は口元に笑みを浮かべて肩を震わしました。

「よし、実は今回はサーガ被験者がターゲットじゃない。俺の友人に頼まれた依頼で、殺害する相手は全く関係のない子供だ」

「どうしてサーガと関係のない子を殺さないといけない?」

 納得できない内容に恵は眉をしかめて両手を握りしめます。

 墨田はチェアーから立ち上がり、恵と向かい合って腕を後ろで組むと笑みを浮かべていました。

「お前が殺すわけじゃないだろう、お得意の他人任せで始末をしてこい。ほら、ターゲットはこの封筒に書いてある。友人は彼女の最期を綺麗に終わらせたいらしい、では良い報告を待っている」

 恵は強く唇を噛み、封筒がクシャクシャになるくらい握りしめています。

 ですが、彼女の瞳に感情はありません。

 暗い漆黒の瞳はそのままで、恵は早々に政府本部から離れていきました。

 帝都内で借りたビジネスホテルに戻った恵は封筒を開けて、書面に目を通すと、即座に丸めて破り捨ててしまいます。

 テーブルに置いていた表紙が黒い1冊のアルバムを手に取った恵は深く息を吐き捨てて目を細めました。

「私は……私は……」

 恵の消えてしまいそうな独り言。

 携帯電話の着信履歴を見れば修斗と表記された名前が出ています。

 名前を指で触れれば発信中という文字が浮かび、数秒、数分待ちますが一向に通話中という画面に切り替わりません。

 それは彼にとっても同じ事でした。

 一向に出ない通話中という文字、既に2分以上は鳴らしていますが反応はなく、修斗はとうとう諦めてしまいます。

「白雪さん、どうしたんだろう。さっきから全然反応ないや、忙しいのかな」

 修斗はベッドに寝転がって白い天井を見上げました。

 ただただ、空っぽになったまま。

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