狼が襲ってきてもルードのお守りが助けてくれましたが、私が魔術で床に穴を開けてしまったので、礼儀作法の先生の補講が決定しました
「グゥオーー」
狼が私に吠えかけたのだ。
「きゃっ」
私は後ろに後退りして積まれていた化石の資料等に蹴躓いてそれを巻き込んで盛大に転けていた。
化石や資料が飛び散る。
でも、それどころではなかった。
狼がゆっくりと近づいてくる。
私は必死に後退りした。
私は逃げるのに必死で声も出なかった。
狼の赤い目がランランとしていた。
もっと遠くに逃げないと、私が思った時だ。
「グゥオーー」
次の瞬間狼が私めがけて襲ってきたのだ。
やられる。
私が頭を押さえてしゃがみ込んだ時だ。
ピカッ
私のお守りが大きく光ったのだ。
バシン
ダーン
狼は私の手前で壁にぶち当たったように止まると、弾き飛ばされて壁に叩きつけられていた。
助かった。
さすがルードのお守り!
やられたと思ったのに、ルードのお守りのお陰で助かったのだ。
ルードの感謝するとともに、私はホッとした。
さて、どうやって出ようか?
早く帰らないと、授業に遅れて怒られる
と思って、立ち上がろうとした時だ。
「ウーーーーー」
また、狼の声がしたのだ。
「えっ?」
慌てて、振り返ると、なんと、壁に叩きつけられて、地面に落ちた狼は頭を振って立ち上がろうとしていたのだ。
「な、なんで?」
私は唖然とした。
ルードのお守りじゃあ効かないの?
そんな!
私は何か出来ないか考えた。
そうだ。灯り魔術でつながれば何でも魔術が出来るという話をコンス達がしているのを聞いたんだった。
私は実家の中庭で、出来ないのに散々火の玉魔術の練習をしていたのだ。
今灯り魔術が出来るようになったので、魔術の流れが繋がったはずだ。
まあ仕組みは判らないが、コンスらが灯り魔術が出来るようになれば他の魔術も出来ると言ってくれたのだ。
狼がゆっくりと私に向かって歩いてきた。
私は急いで手をかざしたのだ。
「ファイアー!」
そして、大声で叫んだのだ。
手からは炎の塊が出るやいなや、狼に向けて飛んでいった。
やった、出来た!
と喜んだのも束の間だった。
なんと狼はその火の玉をさっと避けてくれたのだ。
「えっ」
私は避けられて呆気にとられた。
そんな、もう一度なんて出来ない。
次の瞬間には狼は私に向けて飛びかかってきた。
コンスなら素手で殴り倒せたかもしれないけれど、か弱い私では絶対に無理だ。
それに次の火の玉は出すひまがない。
やられた!
私の目が恐怖に見開かれた時だ。
狼が大かな口を開けて私の喉めがけて飛んできた。
「きゃああああ」
私が悲鳴を上げると同時に
パシン!
飛んできた狼が弾き飛ばされたのだ。
そして、次の瞬間、
ダアーーーン
と私が飛ばした火の玉が教室の床にぶち当たって爆発したのだ。
その爆発の炎めがけて狼が吹っ飛んでいったのだ。
狼がどうなったか見るまもなく、その爆風で私も倒された。
辺り一面真っ黒の煙に覆われて私は床に伏せていた。
もう終わりか?
私が諦めかけた時だ。
ダアーーーーン!
「クラウ! 大丈夫か?」
閉まっていた扉を蹴破ってルードが飛び込んできてくれた。
「ルード! 怖かったよ」
私は思わずルードに抱きついていた。
「大丈夫か、クラウ」
私を抱きしめ返してくれた、ルードが聞いてきた。
「うん、なんとか」
私は頷いた。
「どうしたんだ。一体?」
「真っ暗になって魔術が使えたら狼に襲われたの」
「えっ、意味がよくわからない。一から説明してくれ」
ルードが言うので、私は理科の先生に言われて標本を取りに来たら、いきなり扉が閉められて明かりも消えて、恐怖を感じたら、灯り魔術が初めて使えたこと。そうしたら狼がいきなり襲いかかってきたこと。それを退治しようとして火の玉を出したら狼が避けてくれてやばいと思ったけれど、ルードのお守りが助けてくれたことを話した。
「大変だったんだな。で、狼ってどこにいるんだ?」
「えっ、そこに倒れていない?」
私が振り返るとそこには床に大きな穴が開いていたが、どこにも狼の姿は見えなかった。
代わりに焼けただれた資料などの残骸が残っていた。
「えっ、じゃあ、穴から逃げたのかな」
私が言うと
「逃げたら下の教室から悲鳴が上がると思うぞ」
「えっ、この下って教室だったの?」
私が聞いた時だ。
「そうです。クラウディアさん。どういうことかはっきりと説明してもらいましょう」
そこには怒り狂ったアデライド先生が仁王立ちしていた。
爆炎を受けたみたいにその眼鏡は割れて髪の毛も真っ黒になっていた。
「えっ、それはですね」
「というか、何故二人で抱き合っているんですか?」
「えっ、いや、これは」
私達は慌てて離れた。
「あなた達は判っているのですか? 学園在学中は恋愛をするなとは言いませんが、限度があります。清く正しい交際が基本なのです。抱き合うなどなんということですか……」
私達はアデライド先生から延々怒られたのだ。
結局、狼の死骸は見つからずに、どこに行ったか判らなかった。
それにそもそもルードのお守りの記録にも残っていなかったのだ。
私は絶対に襲われたと言ったのだが、記録も死体も無ければ反論が認められるわけもなかった。
最終的に私は誰かのいたずらで真っ暗な部屋に閉じ込められて、パニックになって火の玉を出したということにされてしまった。
罰としてアデライド先生の礼儀作法の補講が毎日放課後1時間、受けさせられることが決定したのだ。
ルードは注意されただけだった。
「絶対にいたのに!」
「まあ、お守りが反応したんだから、何かは襲ってきたのは確かだ」
ルードはそういって慰めてくれたが、補講は無くならなかった。
私はその日からルードの補講にプラスして礼儀作法の補講を受けさせられることになったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
明日から電波状況の悪いところ、アルプスの山の中に少しこもるので不定期更新になります。