第二十八話 目
“目”は八掌の諜報を任を受けていた。八掌のナンバーツーである変色竜モルフのガリオン、タヌキモルフのムーナ、キツネモルフのタマモ、玉虫モルフのヤマトが“目”のリーダーだった。彼等は八掌の諜報を主としている隊長達で癒やしよりも幻惑を得意としていた。タヌキモルフのムーナとキツネモルフのタマモは常にチームで活動していて、九頭竜の後始末を任された今日も同様だった。彼女たちは供に人化状態で霧街の外周部を探索していた。
「どうして舞闘場は再生するのに街は戻らないのかしら?ぜぇぇんぶ、再生すれば良いのにね。そしたらアタシ達の見回りも楽なんだけどなぁ。ほんと、神さまはどうかしてるよ。そもそも的な話しだけど、あたし達の出番じゃないと思うのよね。こういうのって。」
いつも丸くてかわいいムーナは、愚痴をこぼす。
「俺はそうは思わない。こういう時こそ、俺たちが果たすべき役割がある筈だ。」
背の高いタマモは長く美しく切れる瞳で愛くるしいムーナを見下ろしながら言った。
「あー。また俺っていってる。女子はそんなこと言っちゃ駄目なんだよ。」
二人とも散策するかのような気さくさで霧街の外壁の外を歩いていたが、彼女たちの張り巡らす魂気の触手は数キロメートルにおよび、その範囲に存在する異端を隈無く探し当てる事が出来た。神獣が単体で現れたのか、それとも他に仲間が居るのか、或いは想像もしたくないが――神獣の主がいるのか。幼馴染みの彼女たちは、真面目に探索しながら、意味の無い会話をぺらぺらと続けていた。
「ねぇ。タマモは“手”だったら誰が良い?」
「俺は彼等について良いも悪いも無いが、どういう意味だ。」
「えー。女子的な会話したいのにぃ。だってさ、ゴーラさんとか超イケメンだし、ルトラくんもかわいいのに、アタシ達“目”の男子ってなんかイケてないじゃん。ガリオンは口うるさいし、ヤマトくんは根暗だし……うっわ!!」
「それが僕の個性なんで。」
ペラペラ喋るムーナの目の前に猫背の亡霊が揺らめいていた。根暗のヤマトの練術だ。彼はタマムシモルフで特に幻惑が得意だった。今、日中の光の中で彼の練術である幻影により呼び出された死霊達がが霧街の外周部を見張っているのだ。タマモ達のように数キロメートル先の敵を感知することは出来ないが、ヤマトの幻影は何十体もの死霊を呼び出して、個別に活動させることが出来た。それは雲が落とす影のように正体が無くゆらゆらと漂っている。
「ヤマトくん、ごめん!悪口じゃなくて、単なる感想だから。」
「いや、感想より悪口の方が幾分マシじゃないか?」
「いいよ。気にしていない。僕は根っからのネクラなんで、これを個性として前面に出して生きていくんだ。批判も受け止めるよ。」
「えー、素敵!アグレッシブなネクラなのね。」
「なんだか飲み込みにくい会話だな。」
「僕は気にしないから。しかし、あまり亡霊と話ししない方が良いよ。一言ごとに魂気が吸い取られるから。」
『こっわ!!』
仲良しのタマモとムーナは声を揃えて発して、全力でその場を離れた。同じ任務を任された仲間にドン引きされたヤマトはしかし、平然としていた。
(まぁ、この練術は本当に亡霊を操っているからねぇ……。)




