第二十七話 八掌。
神話が深く刻まれた舞闘場の大扉はいつも通りに舞闘場を見下ろしていた。舞闘場は普段通りの冷静さで舞闘者達を待ち構えている。日は高く昇り、未明に九頭竜が引き起こした大惨事を照らし出していた。当たり前のように再生した舞闘場は冷ややかで、どこかこの霧街のモルフ達の苦悩を笑うかのようにも見えた。それとは対照的に周囲の街並みは完全に燃やし尽くされて、焦げと灰に埋もれていた。
「死者は二百名を超えますね。」
変色竜モルフのガリオンはひょろりとした身体にぎょろりとした目を持つ鮮やかな緑色のモルフだった。彼はこの八掌の中では渦翁に次ぐ実力を持つモルフだ。
八掌。
それは霧街の諜報機関であり、医療機関でもあった。八掌の長である渦翁はその両方を統括し、諜報の長は変色竜のガリオン、医療の長はオクトパスモルフのギリガンだった。それぞれの下に八掌の他の隊長が配属されその下には無数の癒やし手や諜報員は配下されていた。諜報長のガリオンから報告を受けた渦翁は厳しい潰目を霧街の惨状に向けたまま返す。
「そうか。神獣を相手にして、うまくやったと言うべきかもしれんな。」
「ええ。我々が倒した訳ではありませんがね。」
そこが問題だった。あの黒い羽を巻き散らす若いモルフはたった一人で神獣を始末したのだ。それは老隈の階層に位置する六角金剛と同格かそれ以上の舞闘力であることを示唆している。そして。
(少なくとも私よりは格上だ。黒丸や一文字と同格か――或いは、逐鹿さまの位に近いやもしれん。興味は尽きないがさて――霧街の秩序が保てるのか?それが問題だ。)
渦翁は大きく渦を巻く角を陽光に翳し、大きな影を街の瓦礫に落とした。彼は結論する。
「色々と心配することは多いが、今は街の救済が急務だ。」
ガリオンは渦翁の話しの飛躍について行けず、目をくるくるさせる。それでも何とか渦翁の言葉の空白を想像で埋めて、言葉をつなげる。
「ええ。それが、我々の本懐です。」
ガリオンの返しで、渦翁は心の中の言葉と現実に発した言葉を混同していた事に気づき、改めて話しを戻した。
「“手”のフォローは充分だろうな?“目”は癒やしよりは霧街全体の状況把握に務めさせろ。」
「ええ。指示通り、対応――しているはず?です。」
「何だ。自信が無さそうだな。」
「まぁ、ご存じの通り……その、個性的なので。」
変色竜モルフのガリオンは素直を答え、渦翁は豪快に笑った。




