第十話 あさつゆの涙の裏に。
あさつゆは泣いていた。クウのお見舞いに来た彼女は置き手紙を見てクウの旅立ちを知った。黒丸とハクが、日が沈んだ頃にクウを探しに来た時もまだ泣いていた。あさつゆはハクを非難した。幼馴染みのあなたがクウを助けてあげないから、クウを理解してあげないから、クウは出て行ったんだ、と。ハクは胸に刺さる言葉にその愛らしい顔を曇らせる。黒丸は自分の馬鹿さ加減に呆れてしまった。そうだ、クウは自分の信念を曲げる事は無い。彼は決して嘘を付かないから、他人の嘘も受け付けない。クウは真実だけを見ている。あんな薄っぺらな嘘など通じる訳が無い。ああ。何と情けない。クウの現状に自分が傷付き心折れてバイアスを受け入れてしまったのだ。
(いい大人が。何年生きてきた?何じゃこれは?)
黒丸は情けなかった。霧街では敵無しの六角金剛も大切な人が傷つく所を直視出来なかったのだ。何と弱い。
「まだ、遠くには行っておらんじゃろう。直ぐに探し出して……。」
言い掛けた黒丸を“念珠”が遮る。念珠の振動に苛立ちながらも、右手首の念珠を耳元に当てた。
「何じゃ!後にせい!わしは……。」
黒丸の表情が変わる。念珠の相手はウルフモルフのサカゲだった。冷静な彼の声が上ずっている。街の治安を守る“四牙”の長としての報告だった。
「首切りの群れが現れた。今、ロイと交戦中だ!」




