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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第二章 夜の帳。
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第三十七話 希望 1




 「相変わらずね。この街は。」


 白檀イソールは羊王角渦翁を真っ直ぐ見据えて言った。


 「無遠慮な視線、無神経な言葉、無慈悲な石を沢山貰ったわ。ここに来るまで。」


 ここは霧城の迎賓の間。豪奢な造りのこの部屋には、様々な国の多様なモルフ達を迎え入れる為の脚の高いテーブルと背もたれの長い椅子が用意されていた。裏町ナカスはイソールとタフニの二名、霧街キリマチは、渦翁、胆月、一文字の三名だった。余計なモルフは居なかった。不機嫌そうな胆月をよそに渦翁が答える。


 「それはすまなかった。謝る以外にはない。だが、長く根付いたファンブルへの不信は今はどうすることも出来ない。それを協議の前に述べるのは、公平では無い。私は自責の念で潰されそうだよ。」


 「そう、自責の気持ちがあるのならいいわ。この話はまた今度。本題にいきましょうか。」


 胆月は相変わらず嫌なばばぁだと思ったが、一文字は元気そうなイソールを見れて嬉しかった。黒丸と鉄刀木達が欠席しているのは残念だったが、まぁ、仕方が無い。彼らはお互いに顔を合わせたがらないから。折れた角、失われた右腕。一文字は今、イソールが自身の事をどう見ているのか気になったが場所が場所だ。そのお話はまたいつか。渦翁は言葉とは裏腹に動じた様子はない。常に平静だ。客の言葉を待つ。渦翁の沈黙にタフニが答える。


 クビキリノコトハマタコンド!ドウセナニモカイメイデキテナイデショ!ジュカニツイテセツメイヲ!ナゼヒミツニシテタノ!


 タフニが大きなマイトで皆の魂に直接語りかけ、慣れない六角金剛達が眉を寄せる。渦翁は手を挙げて制した。苦言を呈してから話し始める。


 「金屏風が盗まれ破棄された。三枚ともだ。これでもうどの国の様子も探る事は出来ない。まぁ、元々我々以外に生活するモルフは居ないのだが。一応、修復を試みるが恐らくは無理だろう。あれは“虹目”以前の世界で作られたものだから。ジュカについて知っていると言うことは、金屏風の映像を見たのか?」


 イソールは首を振る。


 「見たのならここには来ないわ。ジズ川の河川敷に捨てられていたのを見た輪廻転回しない者(リームリーン)から報告を受けただけ。後でお返しするわ。あなた達なら、盗んだ者の姿を金屏風から取り出せるかも知れないしね。その代わりそちらの壊れた金屏風を見せて貰おうかしら。私達が何か力になれるかも知れないわ。」


 渦翁は了承した。金屏風は映像を映し出すだけではなく、記録する事も出来る。ここでお互いの金屏風を確認することは互いの話の真贋を確認する事になる。金屏風を返す事は裏町ナカスがそれを盗んだのでは無い事を証明し、壊れた金屏風を見せる事は、ジュカの最後の映像を提供出来ない事を証明する。少し姿勢を正してから渦翁はざっと話した。ジュカの最後について。空の眼(セル)と流動するファゴサイトについて。金屏風が伝えたことをありのままに。最後の瞬間に見た、最大防壁に立つ謎のモルフと舞っていた黒羽を。そして、一つの推察も伝えた。様々な方法で逃げ出すモルフ達が狙い撃ちされるように雷に打たれ、捕食されたこと。その中で逐鹿だけは狙われる事が無かったこと。そこから、黒嵐セル貪食生物ファゴサイトは知能の無いアメーバや単純な自然現象等では無く、少なくとも目的を……ひょっとしたら知性を……持つ存在であると判断していることを。そしてそれは、世界は“滅びようとしている”のではなく、“滅びを望むものが居る”ことを示唆していた。


 「そのモルフはイドを失っているように見えた。我々はイド無くして生きていけない。全ての命の力(マイト)がイドに由来するからだ。何故、そのモルフが生きて活動していたのか分からない。或いは、死ぬ瞬間だったのかも知れない。ただ、我々は直感している。何かが黒嵐セル貪食生物ファゴサイトをジュカに呼び込んだ。それと魂無き者(リムイド)は無関係では無い。だが、まだ、逐鹿様は戻られぬ。現時点では全ての情報に意味は無い。逐鹿様の調査結果があって初めて、ジュカの最後は意味を持つ。」


 「渦翁。意味の有無を決めるのは私達よ。兎に角、情報は出して貰わないと。世界は滅びに向かっているのだから。勿論、私達が敵対していてあなた達が出し抜きたいと考えている場合は別だけど。」


 渦翁の言葉にイソールは返した。渦翁は取り合わない。


 「他意はない。だが、何を伝えるかは常に情報を保持している側が決める事だ。今回はソレが我々で、情報の共有は不要と判断しただけだ。」


 ソノハンダンハタダシイノ!?セカイハシニカケテイルヨ!キミノハンダンデソレハカソクスルカモシレナイヨ!


 「いい加減にしろ!」


 胆月が怒鳴り、テーブルを打ち砕いた。背中の角が怒りでざわついている。片腕の一文字が制する。


 「お前もだ。胆月。我々には話合いが必要だ。タフニの言うとおり、世界は死にかけている。こんな所で内訳揉めをしている場合では無い。タフニ。お前もそのキンキン声を使うのを止めろ。イソール、一々嫌味を言うな。それに、これで我々は知っている事を全て話したことなる。これ以上は無い。」


 イソールには、破壊されたテーブルのようにこの協議も砕かれて終了するように想えた。でも。



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