第三十六話 秘密。
「でも、ヤハクの言うとおりよ。あなたの正体が霧街にばれたら色々とややこしくなるわ。自重して貰わないと。クウは感の良い子よ。」
大きなヤハクの姿が見えなくなってから、イソールは話し始めた。黒檀は立ち上がり、闇の中から出て来る。忍の黒装束を纏った彼自身もまた、闇色だった。深く被ったフードの中から、輝く瞳だけが意思の存在を示す。
「黒化?ちょっと大袈裟じゃないかしら。彼らは敵対的ではないわ。」
あははと黒檀は笑い、黒化を解いた。黒檀は、病的に白いファンブルの皮膚に戻った。痩せた青年で、とても裏町を取り仕切るような人物には見えない。
「判ってるよ。念のためって奴さ。さぁ、話ししようか。」
タフニは車椅子のまま、黒檀とイソールはその場に胡座をかいた。二人とも背筋をぴんと伸ばしたままだ。イソールが語り始める。
「残念ながら、鉄刀木ヤハク達も紫檀パーロッサも協議は好きじゃないわ。私達で決めましょう。」
若々しい花櫚タフニの声が彼らの魂に響く。ボクハダイスキダヨ!黒檀はふふふと笑ってからイソールに続く。
「そうだね。まずは首切りだ。裏町にも遂に犠牲者が出たわけだけど、何か意味は有りそうかな?」
「ないわ。」
イソールが繋ぎ、黒檀が返す。
「だね。俺もそう思う。首切りが裏町に狩り場を移動してきたとか、霧街に飽きてとかでは無い。偶然だと思う。目的が不明だし、しばらくは要注意だけど、霧街にクレームの一つでも付けておけばいい。それよりも樹海の王国の滅亡。1年前に滅んでいたとは驚き。黒嵐と貪食生物に襲われて消滅したらしい。金屏風が一枚盗み出されて、映像が確認されたらから間違い無い。ソースは霧街から出てる。仲間割れだね。鹿王角逐鹿がジュカの王女、ジャガーモルフのミントを救い連れ帰る見込みだ。この二人以外は皆殺しにあった。地を潜り進む者は掘り起こされて、泳ぐ者は吊り上げられ、空を飛ぶ者は打ち落とされた。ジュカの住人は誰一人逃げられなかった。逐鹿が連れ出したミント以外は。これはつまり……黒嵐や貪食生物の指向性を意味している。奴らは、自然現象でもアメーバでもない。知能がある……或いは、目的があるんだ。」
黒檀が息継ぎした隙を逃さず、タフニが声を発する。
コノマチガサイゴノマチダヨ!コノマチガホロビレバ、セカイハシヌヨ!キットモウジカンガナイヨ!
興奮して声が大きくなったタフニをジェスチャーで抑えてから、イソールは言った。
「そうね。この街が最後の希望ね。兎に角、霧街に報告させましょう。私とタフニ様が出向くわ……ところで?」
感の良い黒檀はイソールのそのフリで理解して、答える。
「もちろん、元気だよ。“子供達”は。」




