第八話 決戦 2
遮られた目線が解放された瞬間に、彼らは互いに仕掛けた。その一瞬でハクは切り裂きを放ち且つ、ロイの背後に回った。ギギがロイの装甲を削り火花を散らす。
(速い!)
が、弱い。切り裂きでは、装甲を少し削るだけだ。ロイを倒せない。ロイは振り返る。ハクの爪が舞い火花が散る。再び、ハクはロイの背後。少し苛ついたロイは確認もせずに振り返り様に黒玄翁を振るった。それは魂力で出来た巨大なハンマー。突然現れ振り下ろされる。ハクは躱すが舞闘場が粉砕される。石の破片がハクを襲う。
(痛った!!)
ハクは悲鳴を飲み込む。ロイは驚いた。
(殆ど躱した!?)
ロイの大技、黒玄翁は勿論、直撃すればそれで勝負が決する殺傷力がある。だが、高い階層……隈取を望むような……では、直撃する事は無い。基本躱される。だが、黒玄翁が粉砕するステージや粉塵が相手を捉え、ダメージを与え、惑わせるのだ。が、ハクは飛び散る瓦礫の殆どを躱してしまった。
(……強い。)
三度、ハクが揺らぎ消えて切り裂きを残してロイの背後を取る。苛立つロイはしかし。
“放電爪”
ハクの爪先から強靭な放電が行われた。ロイは仰け反って、片膝を付く。舞闘場が観客の声で揺らぐ。ロイはギギを予測してしかし、タロン・ザップを喰らってギャップに崩れる。畳みかけるかと思われたがハクは、ロイの目の前で腕組みをして見下ろすだけ。にっこりと微笑む。会場は観客の歓声が揺れて揺らぐ。
「参ったね。ほんと。強くなったね、ハク。」
「あら、随分と上から。昔っからあたしの方が強かったもん。」
言って、ハクは飛び掛かった。ギギとタロン・ザップを織り交ぜる彼女の攻撃は不可避で、ロイを徐々に刻んでいく。彼の分厚い装甲はまだ一ヶ月はハクの攻撃に耐えそうだったが、それ以外はもう、一分も保たない。
……やられた。ハクは俺の関節を狙ってる。
ロイは遅蒔きながら気が付いた。ギギに混ぜてタロン・ザップを放ちロイの体力を奪う作戦では無く、タロン・ザップに混ぜてギギを関節に打ち込み、行動を押さえ込む作戦だったのだ。気付いたその時は既に手遅れで、ロイは再び膝を付いた。今度は両膝だ。彼の関節を巡る筋が断裂している。ロイの硬い装甲も関節の全てを覆う訳ではなく、僅かな隙間がある。そこからロイにとっての神経や血管とも言うべき電気やオイル系の配線が見えている。ハクはそれを狙っていたのだ。ロイの脚や腰の関節からオイルが零れ、配線が垂れている。ロイは既に禄に移動出来ない状態だった。だが……。
「そう来たか。」
ハクは感心した。ロイは冷静だった。身体を丸め右腕を庇う姿勢を取った。ハクは一旦、ロイとの距離を取る。ハクは理解していた。ギギやタロン・ザップではロイの装甲を破壊することが出来ない事を。逆にロイは腕の一振りでハクを倒す事が出来る。回避出来なくともハクの攻撃を耐えきり、破裂する鉄拳を打ち込めば、それで逆転だ。ロイはにやりと笑う。
「ハク。勝負だ。ハクの技で俺の装甲か関節を削り切れば、ハクの勝ち。その前にドーバーガンを当てられれば俺の勝ち、だ。」
「嫌よ。どんな勝負をするかはあたしが決めるもん。」
ハクは少しむくれた振りをするが、直ぐに笑ってしまう。じゃぁ覚悟してね、とロイに一言かけると、誰にも真似できない速度で、ロイの背後に回り、射程ぎりぎりから放電爪を放つ。ザップは正確にロイの筋を襲う。ハクはロイの破裂する鉄拳を警戒して距離を保ち高速移動しながらの放電爪に切り替えた。切り裂きでは零距離まで近づく必要がある。至近距離でのドーバーガンは回避が困難だし、忘れてはいけないのが、ロイの白死だ。跫音強光を発するロイの極技……技や術は神官によってランク付けされる。技であれば小技、技、大技、真技、そして最高ランクの極技。極技を使いこなせるのは“隈取”クラスしかいない。ロイはその極技を行使出来るの……だ。白死を喰らうと一瞬、失神状態になってしまう。白死からの破裂する鉄拳のコンボがロイの切り札で、未だにこれを回避出来た者は居ない。敵対種を含めて、だ。
……ロイのコンボを受けたら負けちゃう。“受けたら”だけどね。
ハクは白死に注意しながらも、ロイの周囲を飛び回り放電爪を打ち込んで行く。ハクが放つザップにより、ロイは徐々に帯電し始め、体内に入り込む電撃が、ダメージを重ねていく。ハクは身体中の柔らかい毛を逆立てて、攻撃を続けた。ロイはダメージの限界を測っていた。ハクが隙を見せなくとも、自分の体力の限界が来る前に攻撃を仕掛ける必要がある。ロイはハクの攻撃に耐えながら、最後のチャンスを待っていた。




