第七話 決戦。1
「さぁっ!いよいよだ!舞闘会決勝の始まりだ!先ずは彼女から、紹介しよう!情熱のオコジョ!ファル家の主、六角金剛渦翁の一人娘にして、無敗の白姫ハクの登場だ!」
司会役のシャウトはいよいよ煽動的に叫び、観客達の興奮に拍車をかけていく。ハクは無敗のまま階層を“昏”の第五階層まで上げていた。今はその王者だ。今回の舞闘会で優勝すれば、更に階層が上がり“隈取”となる。隈取は第四階層と第三階層に分かれ、それぞれ“若隈”と“老隈”と呼ばれていた。この階層は街の中枢組織の長達が名を連ねる。街の外敵を倒す狩猟隊の精鋭部隊“十爪”の長である駝鳥のモルフのグワイガや街の治安を護る“四牙”の長の狼のモルフのサカゲ等は“若隈”に位置付けられており、六角金剛達は“老隈”に位置している。今日、舞闘会で優勝すれば“若隈”に昇格だ。ハクは金や名誉には興味が無かったが、隈取に与えられる権力が欲しかった。街のルールを作りたかったのだ。彼女は今のモルフとファンブルを分けて考えるキリマチのルールが嫌いだった。そもそもこの零鍵世界が輝いていたのはそこにある多様性が光を放っていたからだ。最もシンプルなモルフとファンブル、この二つの違いすら許容できないようでは、世界はすでに滅んだも同然だ。ハクは、多様性を取り戻したかった。漂泊者や歩む者がこの世界を闊歩していた時のようなその輝きを。その時代は自分以外に同族が居なかった、自分と同じ姿をした者はいなかったとさえ言われている。ハクはその美しい多様性に包まれた世界を取り戻したかった。だから、ルールを作る事が出来る評議会の事務総局長……つまりはフラウの立場……に彼女はなりたかった。それには、今日の優勝が必要だ。
「悪いけど、やっつけちゃうからね!」
ハクは、舞闘場でしなやかにストレッチしながら、対戦相手を睨む。対戦相手が舞闘場に現れる。シャウトはべらべらと話したい事を叫ぶ。
「さぁ、遂に登場だ。無敗の白姫の相手としてこれほどまでに相応しい相手はいるだろうか?いや、いない!一年前の輪廻転回の義の直後、六角金剛と戦い倒し、特例の“若隈”となった街の英雄!今最も勢いのある舞闘者、現統治者の息子、機甲虫のモルフ、ロイ様の闘場だぁ!」
歓声が爆発して会場が揺れた。ロイは三メートルの身長になっていた。四肢は太く力強い。全身を黒い装甲に覆われており額には長くて立派な一本角が生えている。甲虫のモルフである父の一文字にそっくりだか、大きく違う点があった。それは“機”甲虫であること。ロイは昆虫と機械の合いの子のモルフだった。太陽の光や熱、電気をエネルギーにして活動する特殊なモルフだった。百年の昔、まだ、ドラフやウィウと呼ばれる旅人達が世界を闊歩していた頃に存在していたモルフだ。機甲虫のモルフは開闢と朧が現れて以降、存在した事は無かった。だが、ロイは機甲虫に輪廻転回した。街人の中には既にロイのことを次の帝として見る者さえいた。最後の子同士の舞闘であることに加えて、世界でただ一人の機甲虫のモルフの舞闘であることから、皆、この時を待ち望んでいた。成長した最後の子達の戦い。最速の白姫のスピードが勝るのか、最強の機甲虫のパワーが勝るのか、皆、噂に噂を重ねていた。オッズも対等で、どちらかが秒殺しない限りは、儲けにならなかった。シャウトは叫び語り、戦いへの期待を盛り上げていく。ロイは白死で目眩ましをして、破裂する鉄拳と黒玄翁の二つの技で相手を圧倒する戦法だ。ハクは放電爪と、切り裂きで場をかき乱し、誰もが到達出来ない速度の中で戦いを決するのだ。そして、ハクの一番の強みは手の内を見せていない事だった。モルフ達は通常、三つの術や技を使う。ロイであれば、白死、破裂する鉄拳、黒玄翁の三つだ。だが、ハクはこの一年間、放電爪と、切り裂きの二つしか術を見せていない。どのような術を行使するのか不明なのだ。恐らく、実力ではロイが上回るだろう。だが、手の内を見せていないハクにも勝機はある。最後の術が不明であることのアドバンテージは計り知れない。シャウトの絶叫が突き抜けて、開戦の銅鑼が打ち鳴らされた。歓声が世界を包む。が、二人は動かなかった。徐々に会場は異常に気付く。
「しかけないの?ロイ。」
「俺の台詞だよ。それは。」
ハクはふふふ、と笑う。ハクはどうしても勝ちたかった。万全に万全を重ねて挑むつもりだ。ロイは、はははと笑う。彼もまた、どうしても勝ちたいのだ。二人ともこの一年、大人の立場からキリマチを見て来た。ハクはモルフとファンブルを繋げたかった。ロイは最初にやらかした失態を取り返したかった。可能な限り早くそれを達成したかった。二人ともこの舞闘には絶対勝ちたかった。見つめるだけの二人に対して、ヤジを飛ばしていた会場も少しずつ静まり、完全な静寂が訪れた。シャウトでさえ、何も言えない。それは、誰かが落とした紙切れだった。ハンバーガーのソースに汚れた口元を拭こうとして、その紙切れは風にさらわれ食いしん坊の手を離れた。ふわり、ひゅるりと風に舞ったその紙切れは舞闘場に踊り、ハクとロイの間に……二人の目線の間に……入り込んだ。
それが合図となった。




