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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第一章 斜陽。
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第二十四話 システム。




 歓声が舞闘場を包んていた。ここでの戦いが水紋の未来を決める可能性がある為、数多くのモルフが集まっていた。その全員がクウに歓声を送っていた。舞闘場には、クウ一人だけが立っていた。ロイもハクも他の皆も、舞闘場で死んだ。観客は立ち上がり、勝者に向けて拍手し、喜びを叫んでいる。黒丸は勿論、ロイの父の一文字もハクの父の渦翁も満面の笑みを浮かべて、その他大勢の観客と同じように拍手を送っている。ロイやハクは戦いに敗れたが、父親達は、それでも立派に戦った子供達に満足していた。


 「誇りに思うぞ。ハク。」


 セアカの溶解液に溶かされた瞬間のハクの苦痛を想い、渦翁は呟いた。一文字も心臓を貫かれたロイの苦痛を想い、同意して頷いた。一文字は渦翁の肩を抱く。観客は興奮していた。まだ輪廻転回の義(リーン)を終えていない子供達が、奇跡的にも暁王者を破ったのだ。これまでに一度も無かった事だ。万雷の拍手の中、クウは礼儀を守り、四方の観客と六角金剛、そして帝に手を合わせて……両手の指を伸ばし、掌底を合わせるのだが、右手は垂直に左手は自分方向に九十度倒して合わせるのが礼儀だった……お辞儀した。それが終わると舞闘場の端まで走り込み、下を覗いて叫ぶ。


 「二人ともー!元気ー?」


 舞台に上がる為の闘上石《とうじょうせき》に二人は戻っていた。疲れた顔でクウを見上げる。何事かを言っているが、二人とも力が入らず声が弱い。クウは聞き返したかったが、止めた。舞闘で死んだ後は、身体中が痛み、疲弊して何かを出来る状態では無い。クウは、仰向けに倒れたまま肩で息をするロイと、体育座りで俯くハクを見下ろしていた。彼等は生きている。死んでは居ない。舞闘場での死は、日常での死では無いのだ。死んでも、闘上石の上に戻るだけなのだ。舞闘場は誰も死なないと言ってもいいし、死んでも生き返ると言ってもいい。ロイのようにイドを貫かれても、ハクのように身体中を溶かされても……死んだかどうかは別として……日常が続くのだ。舞闘場から消えて、闘上石の上に戻るだけ。だから皆、舞闘場では手加減無しで相手と戦う事ができる。だからセアカはここでは強いのだ。死なない事がわかっているから、勝負に出られる。だが、狩猟では違う。狩猟でミスをすれば、敵対種《クリーチャー》に殺されれば、本当に死ぬ。その恐怖がセアカを硬直させて、彼の能力を衰減させるのだ。でも、とクウは想う。


 “舞闘場では死なない”ってどう言うこと?


 皆、実際に目の前で起こっている出来事であるから、“ソウイウコト”で済ませている。


 でも?


 とクウは想うのだ。


 (でも、舞闘場以外では死んでしまうのは何故?舞闘場で死なない事に何の意味があるの?誰がこの舞闘場を作ったの?神様?そしたら、世界中で誰も死なないように作れば良いのに……。)


 想いながらも、辛そうにする幼馴染みの傍に行こうと舞闘場から飛び降りかけたクウに声がかかる。


 「クウ!ダイガッパ様がお呼びじゃ!」


 「えー。」


 と不平を漏らしつつも、クウは諦めて帝の方に向かう。最後にちらりと二人を見たら、ロイが凄く辛そうにしていた。ハクが心配して、ロイに話しかけて居るようだった。すぐ戻るから……と想いを残し、クウは舞闘場を駆け抜ける。舞闘場の縁から大きく跳躍して、帝と六角金剛達がいる、特別席の前に着地した。


 「こんにちは!ダイガッパ様!お久しぶりです。」


 クウは快活に挨拶をして、手を合わせて深々とお辞儀した。大喝破は身振りで、余計な礼儀は不要だと伝え、話始める。


 「随分と修練を積んだようだな。クウ。来年の輪廻転回の義(リーン)が楽しみじゃの。さて、一つ話がある。疲れて居るところ悪いが、良いか?」


 勿論、大喝破のこの問いかけは、只の形式で、クウには断る事が出来ない。元気良く了承するだけだ。


 「あの術はなんじゃ?」


 クウは少し迷ったが、素直に応える事にした。後から黒丸に怒られなきゃ良いけど……。


 「あれは術のオーロウです。詳細はわかりません。霧宮でハクに見て貰ったんですけど、式《スペル》しか判明しませんでした。」


 「そうか。渦翁よ。お前は見てやったのか?」


 当然、渦翁は否定する。渦翁はそもそも初耳で、クウは居心地が悪い。ふむ。と大喝破は呼吸を整えてクウに伝える。非常に小さなモルフだが、彼が放つ胆力《マイト》は別格で、式神とは言え、帝の威厳十分だった。


 「お前の術はワシにも判らんだ。ワシの“彼岸”に似ておるが、明らかに違う。クウよ。成体《クラ》になれば、全てはっきりとする。それまであの術は多用するな。良いな?」


 帝に言われてしまっては良いも悪いも無い。これは命令なのだから。でも、クウはさらりと言う。


 「どうしてですか?危ないですか、僕の術。」


 帝の命を受けずに更に言い返すことなど絶対にあってはならない事だ。これは単なる儀礼の話では無く秩序の話なのだ。帝が最強であり絶対である事が法の根幹をなしているのだ。六角金剛達は動揺して、黒丸はクウを諫めようと前へ出たが、大喝破は笑った。


 「良い、まだ幼生《エイラ》じゃ。上も下も無い。それで良い。」


 冷や汗をかきながらも黒丸はその言葉に安心して、一歩下がった。


 「クウ。それが判らんのだ。そなたの術が安全なのか、そうではないのか。何に影響して、何を生むのか……奪うのか。だから、使うなと言うとる。今は、じゃ。わかるな?」


 素直に納得したクウは元気良く返事を……ハクの悲鳴が上がった。ロイの名を呼んでいる。クウは突然、辛そうなロイの顔を思い出した。舞闘の後、倒れ込み肩で息をしていたロイを思い出した。クウは慌てて舞闘場の下に飛び降りて、ロイの方へ走り込んでいく。その間もハクがクウを呼ぶ声が響いている。円形の舞闘場を回り込み闘上石まで戻った。倒れたままのロイの頭を膝に乗せてハクが必死に叫んでいた。ロイは顔面蒼白で……胸のイドが黒い光を放っていた。その光は多頭大蛇のようにうねり絡まり伸縮していた。クウの後を付いてきていた黒丸は叫ぶ!


 「渦翁!一文字!胆月!四神封陣じゃ!輪廻転回の儀(リーン)を行うぞ!クウ、ハク!ロイを連れて闘上石から舞闘場へ上がるのじゃ。」


 それだけ言うと、黒丸は大きく跳びあがり十メートル上の舞闘場に上がった。


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