277 筆頭聖女選定会 三次審査 2
天幕を出ると、騎士たちが聖女を待っていた。
私はクェンティン団長と組むんだったわよね、とまっすぐ団長のもとに向かうと、元気よく挨拶される。
「フィーア様、本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします」
私はクェンティン団長にぺこりと頭を下げた後、騎士たちに視線をやった。
団長が連れていたのは第四魔物騎士団の騎士たちだったけれど、私を見ても誰一人戸惑う様子を見せない。
どうやら私が聖女の振りをして選定会に参加していることを、前もって知っていたようだ。
私の予想を肯定するかのように、騎士たちが次々に声をかけてくれる。
「フィーア、お前も大変だな! 第一騎士団は王族警護だから、オレたちみたいに汗まみれになって魔物と戦うことなんてないだろうと羨ましく思っていたが、とんでもなかったわ!」
「シリル団長はサヴィス総長の特別業務を受け付ける窓口だからな! そのせいで、時々、恐ろしい業務が転がってくるって話を聞いたことがあったが、ここまで酷いとは思わなかったぞ!」
「聖女様の振りをして選定会に参加するなんて、最悪の役目じゃないか!!」
騎士たちが大きな体をぶるりと震わせ、心から同情するとばかりに見つめてきたので、あら、こういう反応になるのねと目を瞬かせる。
なるほど、騎士が聖女の振りをして選定会に参加するというのは、普通に考えたらとんでもない仕事なのだわ。
そんな仕事を二つ返事で引き受けるなんて、私ったら忠誠心が高いじゃないのと自画自賛していると、騎士の一人が緊張した様子で尋ねてきた。
「フィーア、……これは絶対にないと思うが、万が一の中の万が一の質問だ。その……お前は現在、選定会でトップだよな! 噂じゃあ、お前が好成績を収めることができるよう、王城の宝物庫に納められていた神アイテムを借りて、選定会に参加したって話だが本当か?」
知らないうちに、そんな噂話が流れていたのねと思いながら、私は考えを巡らせる。
シリル団長は私が聖女でないと思いながら、選定会に参加するよう依頼してきた。
というのも、私はサザランドの民から聖石をたくさん譲渡されたから、それらを使えば何とかなるだろうと団長は考えたのだ。
そんなシリル団長の考えと騎士たちの噂話は、ほぼ一致しているから、ここで肯定しても問題ないわよね。
そう考えながら頷くと、騎士たちはそわそわと落ち着かない様子を見せた。
「そ、そうか」
それから、騎士たちは緊張した様子ながらも、さらに質問してくる。
「そ、それで、この選定会の結果に従って……国王陛下は筆頭聖女と、サヴィス総長は次席聖女とご結婚なされるんだよな?」
「まさかのまさかとは思うが、お前を見初められた国王陛下が……あ、あるいはサヴィス総長が、お前と結婚したくて、神アイテムを持たせて選定会に送り出したんじゃないよな!?」
騎士たちの落ち着かない様子を見て、私はぴんとくる。
あっ、もしかして騎士たちは、私がサヴィス総長のお妃様になることを期待しているのかしら。
私はサヴィス総長にぴったりのお妃様を見つけてくると本人に約束したけれど、騎士たちの望む相手はまさかの私だった!?
「ああー、『青い鳥』の童話が現実になっちゃったわ! あの本は、幸福の青い鳥を探していろんな地を巡ったものの、見つけることができずに落胆して家に戻ったら、ずっと飼っていた鳩が青い鳥だってことに気付いたってお話だったわよね。ということは、私が騎士たちの青い鳥なの!?」
大きな声で独り言を言うと、騎士たちから聞きとがめられる。
「青い鳥!?」
「それは、お前が肩に乗せていた最弱の魔物のことだろう!」
「確かにあれくらい弱い魔物なら、お前に捨てられたら後がないと、部屋でずっとお前を待っているんだろうが、今はその話じゃねえ!」
そうだった。魔物騎士団の騎士たちは、ザビリアのことを最弱の魔物であるブルーダブと思っているんだったわ。
でも、私の強くて可愛いお友達が最弱の魔物だと誤解されるのはいただけないわ。
そう思った私は、久しぶりに思わせぶりな態度を披露する場面が来たわと、意味あり気な表情を作る。
「昔から、虎の子を猫と見誤るなかれと言いますよね。猫に見える私の従魔は……」
「お前の従魔は、猫になんて見えねえよ! あれは鳥型の魔物だ!!」
「ブルーダブはブルーダブだろ!」
取り付く島もない騎士たちを見て、ダメだわこれは、恐ろしいものを恐ろしいとイメージする力に欠けているわとがくりとする。
項垂れる私の周りでは、騎士たちが元気に騒ぎ始めた。
「そんなことより、話をズラすんじゃねえよ! 今問題にしているのは、お前の身の振り方だ! 言っておくが、サヴィス総長のお相手は、オレたちが納得するような強力な従魔を持つ騎士じゃないと認めないからな! あるいは、本物の聖女様だ!」
「フィーア、総長がお前と結婚してみろ! オレたちは朝から晩まで、お前の尻拭いをさせられるに決まっている! そんな生活、絶対にお断りだ!!」
騎士たちの反応を見て、あれれ、サヴィス総長との結婚を熱望されているのじゃなかったのかしらと首を傾げる。
「あれえ、皆さんは私のことを、サヴィス総長にぴったりのお妃様だと思ったんじゃないですか?」
疑問に思って質問すると、全員が真っ青な顔でぶんぶんと首を横に振った。
そのため、彼らの心情を誤解していたことに気付く。
まあ、私は騎士たちの青い鳥ではなかったのかしら。
いずれにしても、これほど全力で拒否してくるのはあんまりよね。
私は前世で王女だったから、王家に嫁げるくらいのマナーは身についているし、今のところ選定会で一位の聖女なのに。
そう思った私は、騎士たちをちょっとばかりやきもきさせようと、悩まし気な表情を作ると、両手で胸元を押さえる。
「皆さんの気持ちは分かりました。しかし、サヴィス総長が私に恋心を抱いているとしたら、私ごときが拒否できる話ではありません」
うつむいたまま、ほうっとため息をつくと、騎士の一人が冷静に指摘してきた。
「いや、総長がお前に恋心を抱いているわけがないだろう! その想像自体が図々しいわ!!」
あらあら、何言っているのかしら。元はといえば、騎士たちが言い出した話じゃないのと、私は顔を上げてぱちりと手を打ち合わせる。
「そういえばこの間、総長から二人きりの晩餐に誘われたのだったわ」
「何だって?」
「あの晩は、記憶がなくなるほど総長に飲まされたので、何が起こったのか覚えていないんですよね。ほほほ、総長ったら、私を酔わせて何をしたかったのかしら」
「せ、説教だ! 総長が個人的にお前としたい話といえば、間違いなく説教だ!」
「そ、その通りだ! 総長はお優しいから、人前で叱ってお前に恥をかかせることがないよう配慮してくださったんだ!!」
間髪をいれずに言い返してきた騎士たちの言葉が、恋愛とは真逆のものばかりだったので、なかなか手ごわいわねと言葉を続ける。
「それから、つい先ほど、総長から『この話を他人にするのはこれが初めてだ』と前置きして、秘密の話を教えてもらったのでした。うふふ、話が終わった後、総長から『世界中でお前だけだ』なんてセリフを言われたんですよ」
敢えて誤解されるような部分だけ切り取って話しはしたものの、嘘は1ミリも言っていない。
それなのに、騎士たちは正面から嘘だと決めつけてきた。
「うっ、嘘をつけ! 総長がお前にそんなことを言うわけがないだろう!」
「そうだ! そんなとっておきの話をお前にするはずがない!」
「嘘だよ、な、な? 頼む、前言を撤回してくれ!!」
いや、違うわね。
騎士たちは発した言葉とは裏腹に、私の言ったことを信じているみたいだわ。
さすが私。日頃の行いがいいから、皆が私の言葉を信じたわよ。
私は大仰な手付きで首にかけていたネックレスを撫でると、意味あり気に答えた。
「サヴィス総長は足場を固めてから告白するタイプだと思います。それなのに、まだ何も決まっていない段階で、これほど色々なことを仄めかされたというのは、私への気持ちがとんでもなく大きいということですかね」
当然のことながら、私がサヴィス総長から望まれたという事実は一切ないのだけれど、騎士たちからこれっぽっちも望まれなかったことへの仕返しを込めて、何かありそうな雰囲気を醸し出してみる。
すると、その場の全員が私の言葉に敏感に反応し、信じられないとばかりに目を丸くした。
「マジか!!!」
「フィーア、お前……マジか!?? あの完全無欠で天下無双のサヴィス総長のお好みがお前なのか??」
「そんな馬鹿な! 選びたい放題の総長の選択がこれのわけがないだろう! あああ、極上の女性たちを見過ぎた総長だから、フィーアみたいな珍品が新鮮に見えたのか!?」
酷いわね。全員揃って私を貶しているわ。
そのことに気付いた私は、ぎろりと騎士たちを睨みつける。
すると、彼らははっとしたように動きを止め、即座に私を褒め始めた。
「いや、フィーアさんは素敵だと、オレは前から思っていました!」
「オ、オレもフィーアさんは最高だと思っていました!!」
「あの、もしものもしも、万が一サヴィス総長がフィーアさんを好きだとしたら、フィーアさんの悪口を言ったオレたちは処罰されるので、絶対に言いつけないでください」
全く調子がいいんだからと呆れながら、私は神妙な顔で返す。
「もちろん、私は仲間を売るような真似は決してしません。そして、皆さんの気持ちも分かりました。歓迎されない場所に嫁ぐことは誰にとっても不幸ですから、サヴィス総長に求婚された暁には、皆さんの態度を理由にお断りすることにします」
俯きながら悲しそうな声を出すと、騎士たちはぴしゃりと体を硬直させた。
「なああああ!」
「ダ、ダメに決まっているだろう!!」
騎士たちは信じられないとばかりに大声を上げると、すぐに猫なで声を出し始める。
「フィ、フィーアさん、オレは心からあなたのことを世界で一番素敵な女性だと思います!!」
「オ、オレもです!」
「そんなフィーアさんは、総長にぴったりです!!」
私は理解を示すようにうんうんと頷く。
「そうですか。皆さんのお言葉は心に留めておきます」
そう言って話を締めくくり、総長の求婚を断るという発言を撤回しなかった私を、騎士たちが心配そうに見てきた。
ちょっとばかりかわいそうになったものの、彼らは私と一緒に行動するから、私が選定会の途中で抜けることはそのうち分かるだろう。
それに、選定会を途中で棄権するというのは、今ここで言うことではないわよね。
そう思いながらクェンティン団長を見上げたところで、事務官が第三次審査の開始を宣言した。








