275 普段と異なる3人
カーティス団長と並んで歩きながら、私はサヴィス総長のことを考えていた。
それから、シリル団長のことを。
2人と別れる際、サヴィス総長はいつも通りの表情に戻っていたけれど、きっと心の中は様々な感情が吹き荒れているに違いない。
シリル団長であればそんな総長を静めることができるんじゃないかしら、と考えながら視線をやったところ、シリル団長は顔色を悪くして立ち尽くしていた。
その姿は、サヴィス総長よりも遥かに体調が悪そうに見えた。
青ざめた顔を見たことで、以前、シリル団長と交わした会話を思い出した。
『……物事というのは、単体で発生しているように見えても、実際にはつながっているものなのです。「サザランドの嘆き」さえなければ、コレットの件は起こらなかったかもしれませんから』
その言葉を聞いた時、私は驚いたのだ。
『サザランドの嘆き』は解決した話だと思っていたのに、まだ続きがあったのかしら、と。
色々な事実が判明した今なら分かる。
多分、シリル団長のお母様が亡くなったことが全ての発端だと、シリル団長は考えているのだ。
コレットが長い眠りについたことも。
サヴィス総長が隻眼になったことも。
『誰よりも力の強い聖女だった』シリル団長のお母様が亡くなったことで、ストッパー役がいなくなり、王太后は暴走し始めたのだと、シリル団長は考えているに違いない……
私は回想から戻ってくると、カーティス団長を見上げ、へにょりと眉尻を下げた。
「カーティス、サヴィス総長の大変な告白を聞いてしまったから、総長が心配になるけど、同じくらいシリル団長も心配だわ。別れ際に見た時、倒れそうな顔色をしていたもの」
カーティス団長は一拍遅れて返事をした。
「……そうですね。シリルは筆頭聖女選定会の警備責任者になっていますから、選定会が終わるまでは気が休まらないのでしょう」
カーティス団長にしては珍しく、状況を把握し損ねているように思われたため、そうではないと首を横に振る。
「いえ、そうではないわ。もちろん、選定会の警備責任者というのは大変なことでしょうけど、シリル団長の顔色が悪かった原因は、それではないと思うわ。多分、シリル団長は『サザランドの嘆き』以降に起こった出来事の多くを、自分のせいだと考えているんじゃないかしら」
カーティス団長が無言で見つめてきたので、私は説明を続けた。
「コレットが眠り続けている件や、サヴィス総長が隻眼になった件について、シリル団長はご自分のお母様が発端だと考えているんじゃないかしら。王太后よりも力が強かったお母様が亡くなったことで、王太后を止める者がいなくなり、王太后は暴走し始めたのだと。そうして、団長自身が罪悪感を覚えているのだわ」
カーティス団長は何も言わなかったけれど、何かに耐えるように奥歯を噛み締めた。
その表情は、なぜそんなことに気付くのかと、不満に感じているように見えた。
「……フィー様、サヴィス総長もシリルも立派な大人です。辛いことがあったとしても、一人で乗り越えることができます」
カーティス団長が言わんとしていることを、言葉にして質問する。
「カーティスは私があの2人を放っておくべきだと考えているの?」
「はい。フィー様は他人の心配をするよりも、第三次審査に集中すべきです。お尋ねしますが、選定会で優勝されるつもりですか?」
カーティス団長が話題を変えてきたのは分かったけれど、質問されたので正直に返す。
「いいえ。頃合いを見て、途中で抜けるつもりよ」
「それはよかったです」
カーティス団長が安心したように詰めていた息を吐いたので、これが普通の反応よねと思う。
私は昨晩のシリル団長の様子を思い出しながら、首を傾げた。
「昨日の晩餐の時から、シリル団長は少しおかしかったのよね。今と同じように、第三次審査の途中で抜けるつもりだと伝えたら、なぜか残念がられたもの。それから、『あなたはこのまま上位の席次を取って、高位貴族と結婚してもいいのですよ』なんて冗談を言われたわ」
「冗談……ですか」
カーティス団長が真剣な表情で呟いたので、私は茶目っ気を出して、昨夜言われた言葉を披露する。
「ええ。『次席聖女であれば、私と結婚していただくことになります』とも言われたもの。本気のはずがないでしょう」
カーティス団長は笑い出すかと思ったのに、予想に反して一切笑わなかった。
それどころか、カーティス団長は目つきを鋭くしたので、どうやらこういう冗談は好きではないようだ。
そういえば、カーティス団長は昔から男女関係に潔癖だったから、間違っても結婚という話題を冗談にすべきじゃないと考えているのかもしれない。
そのことに気付き、慌てて真剣な表情を作る。
「あ、安心してちょうだい、カーティス! 私はちゃんとシリル団長の冗談だと分かっていたから。というか、シリル団長は私が偽聖女だという秘密を守り通すために悪いことをすると言ったから、きっぱり拒絶したわ」
私は素早く方向転換すると、己の潔癖さを主張した。
すると、カーティス団長は私を称賛するような、あるいはシリル団長に同情するような複雑な表情を浮かべる。
「……そう、ですか」
カーティス団長の表情が少しだけ緩んだので、どうやら潔癖作戦を取った私の判断は正しかったようだ。
そう確信した私は、さらに言葉を追加する。
「ええ、そうよ! 私は清く正しく生きているから、安心してちょうだい!!」
きっぱり言って胸を張ると、カーティス団長はやっと少しだけ微笑みを浮かべた。
そのため、私はほっとする。
王太后の話が原因なのかは分からないけれど、サヴィス総長も、シリル団長も、カーティス団長も、今日は普段と少し違っていた。
そして、そのことは彼らにとっていいこととは思えなかった。
だから、少しだけいつも通りになったカーティス団長を見て、私は胸を撫でおろしたのだった。








