更地にしてました
「へえぇ…闇カジノってほんとにあるんですね……」
「ええ。お恥ずかしいことに」
当たり前ですが、魔王様がいくらフランクかつ自由かつ引きこもりであってもこの世界ではド級のVIPなわけで。正直、王様なんか目じゃないレベルなんだよね。全然実感湧かないけど、こうやって大きめの国の王女様がわざわざ畏ってご挨拶に来てくれるのでちょっとおおってなっちゃうよなー、という気持ちです。魔王様のお誕生日が近いという話で、なんとロクサーナさんが直々にご挨拶に来てくださいました。
……うん、ロクサーナさんはいい人なんだけど、あんまり来ないでほしいなぁ。魔王様への淡い初恋みたいなものをなるべく熟れさせてほしくないんだよ。まったく、全然、嫉妬とかでは無くて、普通にロクサーナさんの将来が心配なので。
ロクサーナさんが持ってきてくれたプレゼントは魔王様リクエストの普通の服。こんなものでいいのかって恐縮しきりだったけど、魔王様の方は相当嬉しそうだったので安心したみたい。そりゃそうだよねぇ、とんでもない偉い人に誕生日リクエストでなんでもない普段着欲しいって言われたら戸惑うよね。しかも生地をいいやつに、とかも許してくれないガチの普通の服だよ。私が今着てるグレードのやつ。普段よっぽど嫌々グウェンドリンさんの服着てるんだろうな……。たくさんもらっても普通の服着ていいの誕生日一日だけなのに、って言ったらパジャマにするみたいです。おいっ、プリンセスのプレゼントをそんなことに使うなっ。私としては失礼な、って気持ちだけどそれ聞いたロクサーナさん含めメイドとか護衛とか諸々の方は逆にホッとしていた、あれ、これ私の感覚が変?
そんなこんなでそれなりに空気も打ち解けてきた中で最近どう?みたいな話になり、今はお悩み相談のフェースでございます。
ロクサーナさんは本当に申し訳なさそうに目を伏せて、疲れたように溜息をついた。うーん、サリィさんでも思うけど、やっぱり美人さんって悩んでても絵になるな、真剣に悩んでるとこ失礼だと思うけど、お姫様だからか所作が一つ一つキレイで見惚れちゃうんだよねぇ。超イケメン、超絶美女、美人さん、で構成されるこの空間、割と辛いな。一般人的にはピンと来ない大きいお悩みに私がふわふわ別のことを考えていると、ロクサーナさんは躊躇いがちに小さく話を続けた。
「我が国は文化の発展に力を入れる国。ですので、娯楽に関しても他国よりも栄えていると自負をしておりますが……このように、問題が起こることもあり……本当に、お恥ずかしいですわ」
「ギャンブルも適度ならな。競馬とか馬の育成にはいいし」
「え。競馬こっちにもあるんですね」
「うん、馬人族とかは自分で走るらしいけどな」
知らない獣人族の話だ。ちょっと聞いてみたら私の知るところのケンタウロス?所謂射手座の人みたいな外見らしい。ほぉー、流石にファンタジー。
競馬かー、私のおじさんが好きだったんだよな。ギャンブルではあるけどレース見るようなものだから自制がきくならそんな悪くはない、のかな。全然わかんないや。偏見だけど、こう、おじさんたちの趣味みたいな感じだし、気持ちとしてはパチンコ行く人たちを見る感覚に近いというか……うーん、でも競馬があるから馬が絶滅してないみたいな話もどっかで聞いたことあるし、やっぱりそれ自体は悪じゃないのかな。ギャンブルの知識が全くないせいでこれもピンとこない私が首を捻っているとサリィさんも同情したように薄く笑った。
「カジノも健全であれば息抜きにはいいけれど、大金が塵のように舞ってるところにそんな理性期待しちゃダメよね」
「えぇ……ですから、法整備も整えているところですがうまくはいかず……いっそ賭博を禁止しようかと思いましたが、そうなると国内の猛反発が……」
「あー。そこはギャンブラーにとっては致命的ですしねー」
「他の国ではマリエラほど賭場が栄えてないものね、酒場の賭け事じゃもう満足できないんでしょう」
サリィさんはカジノの空気知ってるんだ、こういう大人で綺麗なお姉さんがそういうところにいると絵になるだろうなぁ。こう、体のラインが出るようなドレスとか着たりして、うわ、想像しただけでも似合いすぎ。
にしても、賭け禁止かあ。実際どうなんだろ。パチンコとかも実際違法ギリギリなんじゃなかったっけ?法整備したらしたでその穴を突く感じでずるくやってくんじゃないかな。難しいよなあ、運がある人にとっては楽してお金が手に入る場所で、経営者も人を煽れば煽るだけ儲かるわけで。ロクサーナさんは辛そうに項垂れてぽつりと溢す。
「……こんな瑣末ごとに対応できないのは、私が王女として未熟だからですね」
「即位まだなんだし、責任を感じるべきは国王だろ。それに最初から賭博禁止にしても地下で育ってたとは思うぜ」
「そう、でしょうか」
お、魔王様と同じ意見。なんかちょっと嬉しいかも。
というかそもそもロクサーナさんって歳九条くんと同じかそこらだよね。こう思い詰められるくらい悩んでると、段々見てるほうが辛くなるなあ、現代の価値観で見れば高校生に国の未来背負わせてるわけだもの。こっちではそれが普通かもしれないけど、私よりしっかりしてるといってもまだまだ若い女の子なのになあ。なんとなく場が静かになると、気まずさとか感じてなさげな魔王様がクッキーを一口齧って、軽い調子でとんでもないことを言いだした。
「うん。友人の悩み事だ。せっかくだし助けてやるよ」
「えっ」
「は?」
高いところの荷物取ろうか?くらいのノリだけど、絶対その程度で済んだりしない。だって魔王様だもの。とんでもない解決法取るに決まってるんだよね。三者三様に魔王様をみると、まるで自覚がない最強さんはぱちぱち呑気に瞬きしている。
「え?何?ダメ?肩入れしすぎってわけじゃねぇだろこの程度」
「……あの、魔王様手加減できますか?」
「潰すのに手加減って必要あるか?」
「あ、あの、流石にこんなことで魔王様のお手を煩わせるわけには」
「いーっていっーて!てか、最近に始まったわけじゃないけどめっきり暇なんだよな、カジノって空気も一回くらい味わっときたいし」
本音そこかーい。要するに暇つぶしなわけですね、把握。そんなことだろうと思ってました。
一応魔王様、魔性の中でも別格の存在なので基本的にヒト個人とか国に肩入れしちゃいけないっていうやんわりした取り決めがあるらしいんだけど、それを破ったら神様のお仕置きがあるってわけじゃないらしい。あくまでやめとこうね、くらいのやつ。同じ三大始祖?のガルム様も普段住んでるところの山をバリバリ食べたりふとしたことで大地震起こしたりすることもある手前、その大陸には弱い恩恵を与えていて、そこに生きる人達はみんな体が強くて人間も結構寿命が長いんだって。へぇー。もうほぼ神様じゃん。もしかしたらノル様より凄いのかも……って、いやいや、失礼なこと考えちゃダメだ。
えーと、まぁ、つまり。どう考えても贔屓じゃん!っていわれるようなことはダメなんだって。ロクサーナさんと文通してお忍びでお祭りに遊びにいくのはいいけど、魔王が直々にこの国と仲良くしてますとか宣言しちゃうのはダメだし、戦争とか大災害を助けたりするのもダメ。でも、カジノはたまたま遊びにいった先でたまたま魔王様が勝った、みたいな処理で見逃されるみたい。えー、それ許したらもうなんでも言い訳通るんじゃない?あんまり釈然としない私を置いてサリィさんはやや冷ややかな目とともに魔王様に尋ねる。
「貴方、何するつもりなの?」
「そんなの勝つだけでいいだろ、ベットはミスリルでオールイン」
「バカね、国が建つわよ」
「いや、潰すんだよ、城を」
「そういう話じゃないわ。ね、王女殿下。大丈夫なのかしら?それ」
「……え、ええと、大丈夫かと言われると……」
当然ダメですよねぇ!魔王様がギャンブルで負けるとは思えないし。確か透視とか予知とかできるんじゃなかったですっけ?イカサマもいいところだよ。ディーラーがかなりあくどいイカサマしてやっとハンデになるくらいの相手でしょ。おろおろしだすロクサーナさんに断っていいんですよと言おうとしたけど、ロクサーナさんは、はた、と何かに気が付いて決心したように顔を上げた。
「……いえ、却っていいかもしれません。そこで彼らに一度真剣に反省してもらいましょう」
「え、だ、大丈夫なんですか?その、マリエラの経済とか……」
「問題ありません。賭博に対して経済救済措置は発揮されませんから。そのために、借金まみれになった民が喘いでいるわけですし……」
痛ましげに目を伏せるロクサーナさん。治安の悪化を気にしてるのかと思ったけど、そっちを気にしてたんだ。うーん、悪質なところでカモられたのは可哀想だけど、ギャンブルに手を出したのは自業自得ってやつじゃないのかな。王女様となると、そういうところも助けないといけないのか。難しい話だね。庶民の私はついていけないままだったけども、話はあっさりまとまってしまったようで。
「お願いいたします、魔王様」
「よし、任せとけ」
その自信満々な顔に部外者ながらいや〜な予感。キリッとした顔で頭を下げたロクサーナさんには悪いけど、こういう時の魔王様って大体とんでもないことになっちゃいがちな気がするんだよねえ。そして基本的に、魔王様にほどほどって結果を期待してはいけないわけで。マリエラのちゃんとした方角はわからないけどそっとその闇カジノとやらに心の中でそっと合掌。
……あっ、このいちじくのタルト、すっごい美味しい。わー、さすがロクサーナさんのお眼鏡にかなうだけあるなー。わはは。
「……え?それで更地にしたんですか?」
「あぁ、文字通り更地にした」
「あれだな、所謂差し押さえってヤツだな」
「いや、その場で解体工事までするのはロクサーナさんも予想外だと思いますが」
思い立ったら吉日が魔王様。というか、予定が基本ないからすぐ動けるのが魔王様。早速昨晩カジノに出かけていっての朝帰りでございます。なんか疲れてるのかいつにも増して色っぽいサリバンさん曰く、魔王様は宣言通りカジノを徹底的に潰して、物理的にも潰して、綺麗な更地にしたそうです。なんで?
「だってカジノの蓄えだけじゃ勝ち分に足りねえし、まるごと貰うしかないじゃんな?あ、流石に手加減したぜ、解体費用は俺のサービス」
「こわぁ……」
「全くだ、めちゃくちゃだったぞ」
「でもサリバンさん、止めなかったんですね」
「同伴はサリィだった。止めたところで意味はなかったろうがな」
遠い目をされてこっちもあぁ……って感じになる。ミスリルはさすがに勝負仕掛ける前に出禁にさせられるってことでサリィさんがストップしてくれたらしいけど白銀貨でもカジノの人達とちょうど遊んでた皆さんがビビりまくってたそうな。そりゃそうですわ。魔王様はミスリルじゃないしいいだろって顔してるけど、金貨だって庶民には目が眩むものなんですよ?もちろんそんなものを倍にされちゃたまらないから、カジノの人もすっごいイカサマしてたらしいんだけど、魔王様にはどんな魔法使ってもバレるし、どんな手札かも見えちゃうし、ダメな手札にしようと細工しようものなら逆にやり返されるしで、あっという間に搾り取られて試合終了。わぁ、可哀想に……。
で、魔王様がやらかした……もとい、遊んだゲーム自体はちょっとだけだったらしいんだけど、それでもカジノの持ってるお金は掛金マイナスになってしまったらしく、その場でルーレット、スロット、カード、メダル、みたいな備品は当然、テーブル、スツール、施設諸々、要するにカジノそのものごと押収してしまったそうな。
やりすぎ、流石にやりすぎ。ていうかカジノオーナーの方も何かけてるの?大金じゃらじゃら出してくる超絶美女同伴のイケメンとか絶対絡んじゃいけない相手じゃない?お金絡むと本能も麻痺するのかな、人間って。
私やサリバンさんの視線をものともせず、魔王様はあっけらかんとそんな面白くもなかったな〜とか言っている。そりゃ魔王様くらいお金に困ってなくてさほど物欲もない人がギャンブルやったらそうなるでしょうよ。全てを失ったオーナーも浮かばれないよ。なんだろう、悪いのは闇カジノのはずなんだけど、面白半分に顔突っ込んだ人が凶悪すぎたよね。そんな私の微妙〜な視線を受けて、魔王様は若干拗ねた風に口を少し尖らせた。
「マリエラって珍しく人身売買禁止なんだぜ、それ考えたら相当良心的な結果だって」
「……ちなみに、売れてたらお金払えたんですか?」
「ん?借金付きの奴隷に決まってるだろ」
「わーコワイなー異世界ー」
そのワードがするっと出てくるのは魔王様が魔性だとかわりと冷たい人だとかが理由じゃないんだろう。だって、珍しく、人身売買禁止、なんだもんね。なんかマリエラってすごく平和なんだなって思う。この物騒な人近づけてよかったのかな。私はそっとサリバンさんと目を合わせて、ほぼ同時にやるせなく首を振った。その中心で、よくわかってないなりにやや不満そうな魔王様。うん。なんていうか、やりすぎた勧善懲悪って、可哀想だよね、というか。
なお、貰ったけどいらないからあげるってカジノまるっと貰ったロクサーナさんは卒倒して、二度と魔王様にお悩みごとを打ち明けないようにかたーく心に誓ったそうですよ。うむ、何より何より。




