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孫は危険でした

「えぇっ、九条くん、親舞台女優なの!?」

「日本じゃないけど」

「なお凄いよ!?」


なんとなく家族の話になって、衝撃の事実をくらってしまった。私の方平凡を絵に描いたような家庭だから、先に出しといてよかったなぁ。


九条くんがハーフっていうのは前に聞いたけど、まさか俳優とか…で、お父様は日本人だけどその専属メイクさんだそうで、あぁ絶対凄腕なんだなって思う。で、親御さんがそんな感じだから九条くんって基本的に一人暮らしみたいなものだったんだって。お金持ちでもあったらしいので、家事とかはお手伝いさんにやってもらって暮らしてたらしい。いるんだなぁ、そういう人。向こうでの仕事が多いなら向こうで暮らせばいいのにって思うけど、人の家庭に口挟むのは失礼だよね。


「なんか…凄いね、本当にゲームの主人公みたい…」

「褒められてる感じしないんだけど」

「ご、ごめん…」


そうだよ、もうちょっと表現あるでしょ私のバカ。言葉選び雑なの魔王様のが移ったのかな、いやあんなに生々しくない、はず。ぶんぶん頭を振って嫌な想像を吹き飛ばす、そんな私を九条くんはなんとも言えない目で見てきたけどこの際無視です。


「九条くんはホームシックになったりしない?」

「…あんまり。あんたはどうなの」

「うーん、私もならないな、死んじゃったのはこっちの世界のせいじゃないもん」

「意外と淡白だよな、田中サン」

「え、そ、そう?」


生きてるところを引っ張られてきたらそういうのもあったと思うけど、死んでたらどうしようもならないもん。これって薄情なのかな、うぅ、でも九条くんもそこまでホームシック起こさないって言ってるし私が麻痺してるわけじゃない、よね。


言われたことをもだもだ考えていると談話室のドアが開く。そっちを見ると魔王様が自分のフォークを口に咥えながらケーキを持ってやってきてた、行儀悪いなぁ。サリバンさんはちゃんとワゴンに乗せて運んできてくれたというのに、なるほど、今月のスイーツはレモンタルトか。


「何の話してんだ?」

「九条くんのご両親の話です、凄いんですよ」

「俺の方が凄い」

「神の子が張り合うな」


わぁ、神様と人間のハーフが乱入してきた、ムキになってとかじゃなくて自然にマウント取ってくるからカチンとも来ないよね。最近はいっそ爽やかさすら感じてたりするよ、慣れってすごい。

私達の前に綺麗な黄色のタルトと紅茶が置かれて、2人もいつもの定位置に腰掛ける。この中でちゃんと食事が必要なのって私だけなのにみんなで食べられるのが嬉しいな。魔王様はタルトをフォークで切りながら、九条くんの話を聞き直してふーんとかへーとか気が抜けた調子で頷いている。対照的に隣に座るサリバンさんは特に聞いてもいなさそうだった、なんか九条くんとサリバンさんってやっぱり微妙な溝があるよね。


「そういえば…サリバンさんにご両親っているんですか?」

「いいや。魔性であればさほど珍しい話ではない」

「自然発生型なんだよな、こいつヘソないんだぞ。ほら」

「捲るな」

「すまんすまん、じゃ俺の見る?」

「誰が見るか」


いきなり魔王様が片手でサリバンさんのシャツを掴んで引っ張りあげたからびっくりした、見せられたお腹は言われた通りおへそがなくて変な感じ。


曰く、魔性には普通に親から生まれてくる種族と突然フワッと生まれる種族がいるんだそう。でも、その2つってあんまり変わらないらしい。なんでかっていうと、魔性の親ってヒトほど子供に頓着しなくて師弟関係みいになっていくからなんだとか。だから、サリバンさんも先生みたいな相手がいて、それで充分だったみたい。


うーん、全然感覚が分かんないや、そりゃ先生も人生に色んなアドバイスくれると思うけど、親と教師ってやっぱり違うよね。サリバンさんならまだしもちゃんと親がいる魔性でもそんな感じっていうのは何か不思議、愛情がないってわけでもなさそうだけど、ここはヒトには分からないやつなのかな。ヴァンプだけは特別っていうのがほんの少し切ないような。


「魔王様…は、えっと、創造神様と順調ですか」

「父上?順調も何も会わないけど」

「あ、はい」

「寧ろ俺はさぁ、俺が親、の感覚が強いっていうか。実際子沢山だし」

「…気になってたんだけど、魔法で作ってるものは子供って言わないんじゃねーの」


うわぁ九条くん、私がずっと思ってて言えなかったことを、怖いもの知らずだなぁ。勝手に気まずくなりつつゆっくり首を動かしたら、言われた魔王様はきょとんとした顔で瞬きしていた。それから戸惑ったようにお腹をさすって首を傾げている。いやいや、そこ何もないでしょ、無いよね?この人が相手だとやけに不安になってくるなぁ。


「子供って臓器的に産まないとダメなのか?」

「い、いやそうは言ってないですけど」

「だろ?養子だって子供だし、別の動物が産んだ子供を育てる動物もいる。血の繋がり無くても愛情あれば子供なんだったら、血の繋がりがあって愛情がある俺達はしっかり親子」

「そうじゃなくて…誰だって一人から生まれてこないだろ」

「だ、そうだぜ、サリバン」

「俺に何を言えという」


魔性で親がいなくても不思議じゃないって話を聞いてすぐでも、九条くん理屈は理解できる。自然発生じゃなくてちゃんと子供として作るんだったら、魔王様っていうお父さんだけじゃなくてお母さんも必要なんじゃないかな。だって自分の血だけで作ってたらそれって、マジックアイテムと変わらないわけでさ。

もちろん、魔獣さん達と魔王様の関係を疑ってるわけでもないし、父母揃ってなかったら親子じゃないなんて言う気もないんだけど。


ちょっとふざけてはいるけど、魔王様も九条くんの言いたいことはわかってるんだろう。サリバンさんに冷たい目で見られると、ちょっと肩を竦めて足を組み直した。


「冷静に考えてみろって、神の血持ってる奴が増えたらヤバイぞ」

「あ…そっか」

「あと単純に俺が偉大すぎて胃が痛くなると思う」

「お前の自信はいっそ見事だな」

「自信?事実だろ?」


凄い不思議そうな顔してる、実際マジックアイテムの基礎作ったり功績は残してるんだけど、そういうのは7000年前から目を逸らさない方向でお願いできないでしょうか。実際偉大だけどそっちの過去の過ちのことで胃が痛くなるんじゃないのかな、なんでこの人っていつも自己肯定感凄まじいんだろう、いっそ安心する。


半目でそんな魔王様を見ていると、ふと気まずそうな顔になって頭をかいた、なんだろう、流石にみんなの呆れた視線に気が付いたのかな。


「あー、でも、子供ってのがどうなるか気になるけど作りたくはない、かなぁ」

「え?なんでですか?」

「お前…父上に孫が出来たらどうなると思う?」

「あっ…」


絶対溺愛どころの騒ぎじゃない、魔王様でさえこんな感じなんだからお孫さんなんて出来てしまったら、また世界がやばいことになっちゃうのかも。

居心地悪そうに顔をそらす魔王様、私と同じで青い顔になるサリバンさんを、ただ1人創造神様の親バカ加減を知らない九条くんが不思議そうに見ていたのでした。


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