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魔法はめちゃくちゃでした

「ごはんが…食べたい……!」

「食えば?」

「そのご飯ではなく…っ!」


住めば都、ではあるんだけどさ。こっちから来てずっと洋食ばっかり、たまには和食が食べたくなってきたのです、ご飯。マリエラでもパンとかパスタはあったけど白米は見かけなかったし、当然のようにお刺身を食べる文化もなく、納豆とかは影も形もないない。まぁ刺身とか卵かけご飯とかめっちゃ食べたいんだけど、衛生面が不安ではあるよね。

そこは仕方ないにしろ、せめてご飯。日本人のソウルフードをお腹に入れたいとおもうのはそろそろ仕方ないんじゃないでしょうか。


この世界、植物の名前とか微妙に違ってたりするので、お米も違う形で存在してるかもしれない。そんなわけで魔王様に拙い語彙で稲と田んぼについて話してみるとぽんっと手を打った。


「あぁ、あれのことコメって呼んでるのか」

「あ、あるんですかご飯!?」

「ストバイトだと作ってないな、気候が向かない」


つい前のめりになってしまった、恥ずかしい。でもそっか、気候に合わないなら見ないのも納得だよね。魔法使ってハウス農業くらいはやれるらしいけど、そもそもの天候が合わないなら無理してまでやらないよね。ここの地域、あんまり雨もないし一年通して温度もそんなに変わらないから。


魔王様はテーブルの上をさすって世界地図みたいなものを浮かび上がらせた。そして、ストバイト大陸からそこそこ遠い場所を指差す。


「確か東南の方だったな。他の大陸はあんまり行かないから詳しくない」

「え、なんか意外ですね」

「知ってることと詳しいことは違うんだぜ?サリバンってあの辺行ったことあるか?」

「俺とて土地に明るいわけではない。だが、ハナコと似た顔立ちの者がいたことは覚えている」

「えっ!?」


東洋人っていうか黄色人種ってことだよね、それ。サリィさんと魔王様はどっちかというと白色人種っていうかヨーロッパ系な感じ、あ、サリバンさんは褐色だけど。まぁ全員が全員そうじゃないよね、日本人にあたる民族みたいなのがいたって何も不思議じゃない。ただなんか感覚は不思議だよね、別の世界で元の場所と同じ国が見つかりそうっていうのはさ。


「…ファンタジー世界にも日本ってあるのかな?」

「その辺はライムに聞けば分かるんじゃね?あいつ一年で色々回ってたんだろ」

「一年で世界一周とかは出来ないと思うんですけど」


転移でどこにもビュンビュンいける魔王様感覚で話さないでほしい、いやこの世界の国がどんな感じなのかは詳しくわかってないけど。噂をすればという感じでお風呂上がりの九条くんが談話室前を通り過ぎようとしたので、魔王様が呼び止める。


「ライムライム」

「マイムマイムみたいに呼ぶな、何?」

「コメ育ててる国行ったことあるか?」

「…あぁ、あっちの方。日本に似てたから、興味本位で行ったけど」

「え!ご飯食べた!?」

「…まさか大事なのって、そこ?」


呆れた顔をされてしまった、そうです。だって、ほら、お腹ってどんな世界にいても空くし食に貪欲な国に生きてた身としては白米って恋しいものでしょう。もごもご言い訳すると一層渋い顔をされてしまった、ごめんなさい、もうちょっとノスタルジーとかそういう方面で食いつけばよかったですね。九条くんはきっとそういう意味で向かったんだろうに、なんか申し訳なくなってきた。


聞いてみたら、当然って言えば当然なんだけど現代の日本とは全然違うらしい。行く人みんなちょっと変わった着物で、海外からのお客さんを警戒したりしてるんだそう。鎖国してるってわけじゃないみたいだけど、外と交易し出したのが最近だから恐る恐るって感じなんだとか。九条くんはハーフってこともあってちょっと遠目に見られてたけど、やっぱり日本人ではあるからそこそこ歓迎されたみたい。よかった、似た国でよそ者めって扱いされるとちょっと心に傷を負いそうだもんね。一年前なら九条くんも色々揺れてた時期だろうし。しみじみ聞いてからほっと息をついた。


「ふーん、やっぱり違うんだね」

「映画村って感じだったし…行ったところで懐かしくもなかった」

「そっかぁ…」

「しかし、ハナコは気になるのだろう」

「ま、まぁ、どんなもんなのかな、みたいなのはあります」


そりゃね、お米を抜きにしても気になりはするよ。別に帰りたいってわけじゃないんだ、聞いた感じでも日本に近い国ってだけの話で、そもそもこの世界の国って時点で私達の日本ではないから。強いて言うなら、観光地に行ってみたいなって気分。なんか、たった一年なのに結構達観したかな、我ながら。まぁ、サリバンさんとか魔王様とか、あとは九条くんとか他にも色んな人がいてくれてるから心細さがないってだけなんだろうけどさ。なんとなく照れ笑いして頬をかく。


「あ、じゃあチラッと行ってくる?送迎くらいはしてやるよ」

「お前、いよいよもって自重する気が無くなってきたな」

「私が言うのもアレですけど、密入国ですよね?ダメですよ」


おかしいなぁーアルカディアとの制約があるんじゃなかったっけ、魔王様って理由さえあればどんどん破るタイプだからこっちが止めないといけないんだよね。もっとも嫌いな勇者のアルカディアだからこんな感じなのかもしれないけど、外からの人への警戒心がらしい暫定日本でそれは控えたい。マリエラの時は向こうも合意だからパッと転移に便乗させてもらったけども、これはアウトでしょ。本人が気にしなそうでも、魔王様タクシーにするのもかなりどうかと思うし。

そんな感じでサリバンさんと一緒にNOを伝えていると九条くんが若干顰めっ面で魔王様の肩を軽めにパンチする。


「前から思ってたんだけど、お前の転移めちゃくちゃ。何をどうしてんの」

「ライムだってできるだろ」


肩を軽く払ってから、魔王様は片目を指差すようにとんとんと人差し指で頬を突いた。ワンテンポ遅れて魔眼を使ってるんだって分かった、九条くんも似たものを持ってるってことなのかな。


なんでも、近いものの移動なら地属性と風属性を組み合わせて動かしたいものの座標をズラすだけでいいらしいんだけど、遠い場所に行く場合は遠見でその座標をマークしてから飛ぶんだそうで。うん、私でもそろそろわかるよ、前者の転移っていうのもだけってレベルじゃないんでしょ。だってほら、横で九条くんが魔王様の説明聞いて凄い顔してるもんね、カンストが引いてるってことは相当めちゃくちゃなんだろうな。薄笑いしか出ないや。


「そんなもののために遠見使ってたのかよ…」

「負担ひどいの?」

「…オレのは千里眼だけど、それでもあんまり使いたくない。ってか、酔う」

「ピント絞ってないだけじゃねえの?あとは慣れだ、慣れ」

「特別を自覚しろ、授かり尽くしの天才め」

「えー?なんでまた急に俺が悪いみたいな」


魔王様はちょっと口を尖らせて、味方のいない空間で不貞腐れる。昔は俺だって、とか言われてもめちゃくちゃを普通にしてしまう時点で、ねぇ。3人で見合ってやれやれと頭を振ったりしたのです。

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