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毒でした

「魔王様って、ヒトの作ったものは好きじゃないとかあります?」

「お前はそうやってすぐ俺を冷血漢扱いする…」

「えっ?あ!違いますよ!」


魔王様が本から視線を上げて、私をじっとりした半目でみてきた。聞き方が悪いのかもしれないけど、そんなに恨めしそうな顔で見ないでほしい。別に冷血漢とかは思ってない、かなりドライなところあるよなとは思ってるけど。


単純に、これだけ過ごしてて魔王様の好きなものがはっきり浮かばないのヤバイなって危機感を抱いただけなんだよね、知っておけば誕生日にプレゼントとか思いつくかもしれないし。だいぶ先だけど。でも困ったことに魔王様の好きってなんか独特だし、雲の上の人レベルで次元が違うお方だからいざ聞いて超強いモンスターの何かが欲しいとか言われると何も出来ないから、まずは手に入られそうなエリアでダメなゾーンを知っておこうってだけだったんだよ。魔王様の逆鱗について前聞いたのと同じことで、捻くれた意図はないのです。

それにこれ、実は九条くんに聞かれたことでもあるんだよね。少し離れた場所で座っている九条くんをちらっと横目で見る、この2人って多分仲良くなれると思うんだけどまだ関係が歪だし、そういうとこから知っていってみてもいいんじゃないかなって。九条くんのことはぼかしつつ、説明すると魔王様が納得したように頷いて本を閉じた。


「ははーん、なるほど。嫌いなものから攻めていく姿勢か」

「避けるっていうのも大切ですから」

「確かにな」


寝転がっていたソファから起き上がって座りなおすと、魔王様はちょっと考える顔をした。そしてあまり悩まずに口を開く。


「ヒトって気持ちよくなる為なら全力だし、娯楽に属するものは大体面白いと思うぞ」

「…おい、ちょっと、言い方」

「あー、でもアレは無理だ」


ただ嫌いなもの聞いただけなのに、なんでそんな生々しい言い方をされないといけないんだろう、気まずいわ。聞こえてないふりをしてた九条くんも口を挟んできたくらいには言葉選びがどうかしてる。だけど私たちのツッコミの眼差しには気が付きもしないで、魔王様は何もない空間を弄って薬草のようなものを取り出した、なんだろ、ハーブが無理ってことかな。中庭で薬草育ててるのにそんなわけないと思うけど。


そして、そっと机に置かれたものを覗き込んだら、一瞬疑問に思ったことが即座に吹き飛んだ。


「この草がカンナ、こっちがソムーニって言うんだが」

「待って、なんか凄いあの…既視感ある草なんですけど」

「うん?ハナコの世界にもあるのか。これな、ソムーニはこの丸いところに傷を付けると出てくる液が」

「ヤベーやつ、育ててんだな…」

「ダメ、絶対ですよ!?」

「俺一回しか使ったことないんだけど…」


カンナと呼ばれた草は緑色で、こう、シュッとした形の葉っぱをしてて、ソムーニって方は、こう、丸いものが茎の先端についてる、非常に、非常にみたことがあるものでありまして。そう、主に良くない方向で。戦争とか起こるじゃないかなっていう、アレ。


要するに頭がフワァってなるものが魔王様は無理なようで、いや、良かったよ。こっちの世界で麻…不思議な植物がどんな扱いされてるか知らないけどこれが欲しいから採ってきてとか言われたら嫌すぎるよ。横に来ていた九条くんの顔も心なしか引きつっているみたいでホッとした、冒険者界隈で痛み止め的に使われてたらどうしようかと。あ、うん、適切に使われてたらいいんですけどね。


「他にも薬とかあるけど、俺ああいうの全般ダメでさ」

「安心してますよ、今、ものすごく」

「…あー、なんかわかった。スキルか」

「そう、酒とかも全っ然。酸っぱくて苦くて、熱いだけだぞあんなの!」

「そんだけ揃ってたら、だけじゃないだろ」


薬って言葉に思わず微妙な顔になってしまう、結構幅広く試していらっしゃる。半神だからかなりのヤンチャしても大丈夫なんだろうけど、チャレンジャーにも程があるよ。っていうか大丈夫なの、あれって脳が溶けるとか聞いたことあるんだけど。


ハラハラしたけど、九条くんは何かにピンと来たらしく呆れつつも頷いている。それに頷き返してお酒もダメという魔王様にやっと理解が追いついた。状態異常無効化って、酔いにもアレな薬にも効くんだ、と。つくづく便利だけど、なんていうか逆に不便なような。でも無効化って本当に効いてるかどうかわかんないよね、この人見るからにザルっぽいっていうか。本当にスキルなのかな、ちょっと疑わしげにじっと見ると魔王様が少しだけムッとしたように眉を寄せた。あ、まずい、バレた。なんで鈍い時と気がつく時があるんだろう、ふっしぎー。


弁解を考えて視線を彷徨わせていると、廊下にサリバンさんの綺麗な金髪が見えた。私につられたように魔王様もサリバンさんを見て、何か思いついたのか片手を上げて呼び止めた。


「サリバン。ちょうどよかった。催淫剤とか持ってるか?」

「おま…」

「魔王様、流石にないです」

「…………俺を、何だと思っている。夢魔がそんなものに頼ると?」

「いや、あ、あの…ご、ごめん…」

「お前はよくよく俺を侮辱するのが好きらしいな」

「あ、謝ってるって…」


びっくりするほどの早足でやってきたサリバンさんが、絶対零度の眼差しで魔王様のほっぺを捻って抓りあげる。すごく痛そうだけど、痛くないんだろうな。これは0:10で完全に魔王様が悪いので、ダメージ通ってほしいんだけど。

しっかり伸ばされてから解放されて、特別赤くなってるわけでもない頬をそっと摩りながら魔王様はおずおずと喋りだした。


「こう、なんか…飲めば分かりやすくハナコにも伝わるかなって…」

「いらないですよ、なんなんですかそのサービス精神」

「…それならちょうどいいのが」

「お、何だ、いただきまーーゔぅゔぉえ!」

「吐いたぁぁ!?」

「ヒュドラの、毒…」

「世界最強クラスの毒だぞ、よく渡せるな」

「か、確認なしで飲むと思わなかったんだよ!」


魔王様がサリバンさんから逃げるように、九条くんが取り出した瓶をひったくる。面食らって驚いた顔をしてるのにも構わずに中身を煽って、その瞬間に勢いよく吐き出した。騒がしすぎる一連の流れに思わず声がでる、コントみたいなことを目の前でされると笑うどころじゃない。しかも魔王様の口の隙間からポタポタ垂れてる緑色のコレ、かなりの猛毒らしいし。え、もしかして疑った私が悪いの?そんな若手芸人ばりに体張らなくてもよかったんですけど。もっとも目の前の人はぶっ倒れることもなく、純粋に苦さだけに顔を歪めているようだったけど。


「おっええ、苦っ、まっず、こんなとこで子供の強さを再確認することになるとか…」

「え………こ、子供…?蛇が…?」

「あ、九条くん違うよ?本当に子供ってわけじゃないよ?」


そういえば九条くん、魔獣作る魔法は見たことないんだっけ、なんとなく毒を吐き出してる姿に吐血したとこが重なる。うーん、あれって毎年吐くのかな、普通に怖いからあんまり見たくないんだけど。行儀悪くマントで口を拭いて、魔王様は深く深く息を吐いた。顔色は悪くないけど、表情がとにかく悪い。どんだけ苦いんだろう、味わう前にぽっくり逝きそうだから絶対舐めたくないけどね。九条くんもちょっとした冗談のつもりだったろうに災難だなぁ。


「それにしてもこれじゃ失敗だな…毒が苦いとか毒って知らせるようなもんだ…くそ、効果を重視しすぎた、未熟にもほどがある…」

「あの、そもそも普通は毒って一気飲みしませんからね?」

「まったく、五味備えてる身として情けない…もっと味わいたい甘みとかにするべきだったな…」

「おい、ちょっと、聞け、無毒化されたんだよな?平気だからペラペラ喋ってるんだよな?」


魔王様はブツブツ呟いてその場に座り込み、薬草やら何やら取り出して、少し残ったヒュドラの毒?を弄り始めた。全然こっちの話を聞いてくれない、毒飲んだってこともあるから少し心配になってサリバンさんを見上げる。


「さ、サリバンさん?魔王様のあれは大丈夫なやつですか?」

「スイッチが入っただけだ、アレは突き詰めたいものを見つけるといつもああなる」


研究者気質なのかな、わりと真剣な顔で瓶に魔法をかけたり薬草を粉末にしたりしてて冷静そうには見えるけど周りが見えなくなるのはどうなんだろう。


「とかく、小僧。今ので分かったと思うがこいつは基本的になんでも口に入れる。今後妙な物は渡すなよ」

「わ、分かった…」

「赤ちゃんかな?」

「自分の無敵さを信じているこその行動だ。よりタチが悪い」

「それ九条くんというより魔王様が悪いですよね」

「あぁ。しかし、コレは基本的に納得しなければ自らの行いを変えない」


だから周りが気にしなきゃダメだと。うん、やっぱり赤ちゃんかな?でも、確かに。体は人間って本人が公言してるわりにはそんなに弱くないっていうか、目作り直せるくらいだし。無茶しても大丈夫って思ってる本人に何か言っても意味ないか。


それにしても、なんていうか、これ聞いていいのかな。


「…あのぅ、前から気になってたんですけど」

「なんだ」

「サリバンさん、九条くんに…その、あたりキツくありませんか…?」

「………そう見えるか」

「流石にオレでも分かるけど」


私のことは名前で呼んでくれるけど、九条くんは小僧呼びってどう見ても露骨。住むか決めるときだって結構かなり本気めで反対意見あげてたし。正直人の不仲に頭を突っ込みたくないんだけど、お城4人暮らしだからスルーするにも限度があるっていうか。サリバンさんはふっと目を逸らして、ゆるゆる頭を振った。


「…サリィは感情を隠すのが上手いからな、俺はどうも得意ではない」

「あいつのことで、って話?」

「いいや、単純にお前を初めて見た時から糞餓鬼だと思っているだけだ」

「はぁ!?」

「サリバンさん!?」


綺麗な顔から飛び出した暴言にびっくりする、辛辣なのは魔王様限定じゃなかったの。あ、でも、魔王様の時は楽しそうに笑って毒吐いてるけど九条くんには嫌そうな顔をしてる。あ、まさかバレてるなら取り繕わなくていいやって開き直っていらっしゃる?予想外の理由に九条くんさえ固まってるのをいいことに、わざと一つ一つの指を重そうに折って嫌がる理由を挙げはじめる。


「捻くれている、後ろ向き、鬱陶しがるくせに孤独が嫌い、多少はマシになったようだが糞餓鬼は糞餓鬼だろう」

「っ…なっ、喧嘩売ってんのか…!?」

「面倒な上に血の気が多い小僧だな」


掴みかかりはしないものの食ってかかる九条くんを、サリバンさんがツンと澄まして受け流す。なんというか、新しい一面を見られたといえば聞こえはいいけど、どちらかといえば静かで、あんまり表情を変えたりしないサリバンさんが見慣れなくて何度も瞬きしてしまう。


「えーっと…うん、嫌ってはない、のかな?」


まぁ、それなら、いいのかな。この人が本当に九条くんを嫌いだったら喧嘩もしないと思うし。というかそういうことにしておこう。


頭上の騒動なんていざ知らず、床に座り込んだ魔王様は楽しそうに色々弄り回していたのでした。

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