増えました
久々なのでもう1話も上げておきます
魔王様は2時間くらいで帰ってきた、きたんだけどやっぱりあの時と同じで傷だらけで帰ってきたし、またヘラヘラ笑ってるから私もサリィさんも一緒になって怒ってしまった。全然分かってない顔をしてたのが心底憎たらしかったけど糠に釘ってやつなので適当に切り上げたの。結局傷も治るだろうって思ってたから、うん、思ってたんだけど。次の日に見た魔王様にはなんか、とても似合わない包帯が巻かれていたのです。
「あ、あの、目の具合よくないんですか…?」
「あー、こっち今何も入ってないからさ、うっかり見せるとハナコギャーッて言うだろ?」
「は、入ってない!?」
「使い物にならないの入れてても毒だしな」
つまり九条くんの戦いの時につ、潰れたってこと、だよね。魔王様はなんでもなさそうに左目の包帯をちょいちょい突いてるけどなんでそんなノリが軽いんだろうか。手元ではなんか工作してるし、気にしなさすぎでしょ。あぁ、なんか隣にいるサリバンさんの目が非常に冷たい、もっとしおらしくしてくださいお願いだから。勝手にオロオロしていると、いつもよりちょっと低めの声でサリバンさんが魔王様に話しかける。
「…あの子供は?」
「さぁ?来るなら歩いてこいよって言ったんだけど、中々来な…お」
めちゃくちゃどうでも良さげだ、なんで?勇者の話とかする時はすぐにイライラするのに、目が無くなってることは怒らないの?謎すぎる。
空中に魔法陣を描いては消してを繰り返していた魔王様がまた昨日みたいに突然顔を上げた。流石に今日は誰が来たのか分かる。それから10分くらい経って、かなり控えめに談話室のドアが開いてかなり気まずい顔の九条くんがほんの少し顔を出した。
「よー」
「…なんで?」
「何が?」
「目、治ってないのか…?」
「嫌味かおい、お前がやったんだろ」
明るく片手をあげた魔王様に九条くんが目を見開いた、九条くんの身体はマントに隠れてるけど少なくとも顔に傷ってものはないし顔色が悪いわけでもない。だから多分、魔王様がまだ怪我してるってことに驚いたんだと思う。私も同じだから分かる、だってこの人一度は致命傷から完全復活したって話だし。きっとフェニックスさんがいれば目は綺麗に治ってたんだろうな。
九条くんの反応に魔王様は呆れ顔をして、ちょっと大げさに肩を揺らして袖をまくった。もちろんそこには擦り傷ひとつない。
「肌は治る、骨だって治る、だけど臓器とか神経系は治らねえの。一応身体は人間だからな」
「そ…そんなの…分かるわけ…」
「お前…俺なら何しても戻ると思ってたのかよ、怖えな」
そんなのは奇跡でもなきゃ無理だって、奇跡みたいな人が言う。あからさまに狼狽える九条くんに魔王様が半目になって雑に頭をかいた。
魔王様に欠点とか弱みがあることに安心していたくせに、こうして傷がそのままなのに傷付いている私はなんて勝手なんだろうか。魔王様の弱点なんてずっと突かれないまま、無神経で無敵な人でいてくれたらよかったのにな。なんとなく俯いて、下唇を噛む。
「はぁ、なんでハナコもライムも変な顔するかな。被害者俺なんだけど」
「……わ、悪、かったよ」
「何が?戦いに良いも悪いもないだろ」
本気で何言ってるかわからないみたいな顔して魔王様はまた魔法陣を描く作業に戻った、話題転換も思いつかなくて気まずい気持ちのまま黙っていると、魔王様が急に仰け反って大きな舌打ちをした。
「だー、無理!」
「お前は先程から何を弄っている」
「んん。目作り直そうと思ってるんだけど、無理っぽい」
「神のモノが再現できてたまるか」
「…え、ええ!?作り直せるんですか!?」
「出来る出来る、まぁ片目でも全然問題ないんだけどな」
なんと魔王様が作ろうとしていたのは新しい目だったらしい、なんでも視神経に繋ぐだけなら簡単だけど例の神の魔眼っていうのは多機能すぎて性能を全部載せるのは無理らしい。
いや、そりゃそうだよ、サリバンさんの言う通りだよ。でも諦めないで出来る限り再現しようとしてたってことだよね。あのどうでもいい態度は、なんとも思ってないってわけじゃなくて代わりがきくからだったのかも。というかそうだったら嬉しいな。机の上に昨日の宝石が転がってるのは素材にってことなんだろうか。
「…なんていうか、魔王様が魔王様で安心しました」
「斬られたら普通にムカつくしちょっとキレたけど、致命傷でもなんでもないからな」
「……」
「ホッとした?」
「し、して、ない」
ほ、と息を吐いた九条くんに私もホッとする。昨日はなんだか怖かったけど、毒気が抜けたっていうか、やっぱり普通の男の子みたいな面もあるっていうか。仲がいいってわけではないけど、同じ境遇の人間として流石に未成年で殺し合いして楽しんでほしいとは思わないからね、うん、よかった。
「…それで、何をしにきた」
「あ、そうそう。再再戦なら目作ってからにしてくれ、お前だってつまんないだろ」
「ち、違…!」
ちょっと空気が緩んだところで、まだ若干不機嫌そうなサリバンさんが九条くんの方を見もしないで冷たく言った。なんか珍しい、サリバンさんがピリピリしてるのって。あ、いや、サリィさんが九条くんに前会った時もそんなに好意的ではなかった気はするけどその比じゃないっていうか、やっぱり魔王様が傷つけられたことが不愉快ってことなのかな。なんだかんだでサリィさんもサリバンさんも魔王様のこと好きなんだろうなぁ、ちょっとだけ見えた気持ちが嬉しいけど、ギスるのは、うん、困るな。
魔王様のお断り理由に九条くんは若干食い気味に否定した、その勢いで一歩だけ談話に足が入る。それに気が付いてどうしたらいいかわからないように目をうろうろさせて、ぼそぼそと喋りだす。
「オ…オレにも、分かんないけど…なんか、来てた、っていうか…」
「…九条くん」
「な、何」
「九条くんも、お城に住みたいんじゃない?」
「は!?な、そ、そんな厚かましくない…」
びっくりしてこっちを見る顔は、完全に不意打ちを食らった顔だった。まぁ、私も完全に当てずっぽうだけど、もしその気が一ミリでもあるならここで過ごしても悪くないんじゃないかなって思うんだよね。前に会った時ちょっと寂しそうな顔してたし、今も仲間みたいな人連れてないし。あと単純に私が九条くんとちゃんと話したいってのもある。慌てる九条くんの方を見て魔王様は小さく首を傾げた。
「ライムここ住みたいの?いいよ」
「おい、お前」
「なんだよサリバン、お前ハナコの時は反対しなかったくせに」
「ハナコとあいつでは話が違う…!」
「まー、まー、いいじゃん。俺だって暇にならずに済みそうだし、な?」
露骨に嫌な顔をするサリバンさんに魔王様は両手を合わせて苦笑いする。もしかして、あれかわいこぶってるつもりなのかな、可愛げって再三言われてるけどそういう態とらしいあれじゃないんだけど。
サリバンさんは冷や汗気味の魔王様をじっとり睨みつけて、やがて諦めたようにソファにもたれかかってそっぽを向いた。
「…一番遠い部屋にしろ、でなければ認めない」
「なんで拗ねてんだよ、分かった分かった」
「ちょ、おい!勝手に…!」
「九条くんは嫌?」
「い、いや、だって…!オレは敵で、そんな、目だってオレが…」
「魔王様がああいってるからいいと思うよ」
というか、ここで断ったらサリバンさんの好感度がさらに下がっちゃうと思うから頷いてほしいなぁ。
唖然と口を開きっぱなしにして九条くんはフリーズした、若者らしく冷めた子かと思ってたんだけど意外と感情豊かなのかな。予想外過ぎて気持ちが追いついてないのかもしれないけど、面白いのでよし。九条くんの次の手を待ってじっと見ているとはっと私の視線に気が付いて思いっきり顔を逸らされてしまった、残念。
「…オレ一応、Sランクの冒険者で」
「う、うん?」
「仕事とか引っ張りだこだし、そこは辞めるつもりない、し、帰ってくるかどうかも、わかんない」
「そ、そう」
「…そんな感じで、居着かない、と思うから」
Sランクっていうのは、アレだよね冒険者ギルドが付けてる最高ランクの人達だよね。九条くんいつのまにかそこまで登りつめてたんだろう、いや実力的に妥当だと思うけどもびっくりする。要するにこれって、中々帰らないから気にしなくていいよって言いたいのかな。うん、でもこのお城だとそれは通らないんだよね。
しみじみ一年前を思い出していると視界の端で見覚えのあるものが横切った。小さなアクセサリーのようなものを九条くんはしっかりキャッチしてそれからまた驚いて目を丸くした。
「なっ…こ…これ転移具!?なんで!?」
「元祖製作者は俺だからな、血がある限り無限に作れるぞ」
「は!?」
「一秒で帰宅可能だから、好きに帰ってこいよ、ライム」
分かってたけど私よりこの世界のこと知ってそうな九条くんがびっくりしてるってことは、やっぱり転移具って相当貴重なんだろうな。腕に嵌めてる自分の転移具が急にずっしりした気がするよ、はは。
「…意味わかんねえ!」
そして九条くんは最終的にヤケになって叫んだのでした。
お城の空き部屋はまた一つ、不定期に埋まるみたいです。




