勇者と再会しました
「や〜俺の子供はいい子だなぁ」
「うーん…魔王様って身内に対してはちょろいですよね」
「ちょろいどころじゃないわ、チョロ甘よ」
魔王様はご機嫌に鼻歌なんて歌いながら宝石を大切そうに磨いている、当然宝石が好きなんじゃない。持ってる宝石は日本にいた頃を考えたらかなり凄い大きさだけど、お城の宝物庫にはアレより大きいのゴロゴロ雑に転がってるからね。いやぁ、麻痺するわ、あれ換算したら億どころじゃないよ絶対。
玉座に座ってやってるもんだから、金目の物が大好きな人みたいになってるけど、実際は全然興味ないもんね。
じゃあなんでご機嫌かというと魔王様の大好きな魔獣さんが魔王様の目に似てるからってお土産に持ってきたんだそうで。確かに綺麗な黄色、いやなんていうかゴールド?とにかく綺麗なことは変わりないね、さっきからずっと目にそっくりなそれを明かりに透かして、磨いてを繰り返している。うーん、あんなに擦ってたら減りそうなものだけどなぁ、宝石だから流石にないか。若干半目がちにその様子を眺めてとんだけど急に一瞬静かになって、ふっと扉を見つめた。
「サリィ」
サリィさんがすっと私の前に出たと同時に謁見の間のドアが乱暴に開かれた。またラヴィニアさんなのかな、グウェンドリンさんならお城の前で阻止されてるし。でもそれならサリィさんが私を庇う理由なんてないし、そう思いながらサリィさんの綺麗な背中からそっと扉の方をみるとそこにいたのはどっちでもなかった。
「おいコラ、せめてノックしろ」
「…する必要あるか?」
「マナーは大切って習わないのか?」
魔王様は呆れたように溜息をついて、宝石をどこかにしまうと男の子の方を向いた。
男の子は不機嫌そうに魔王様を睨んでいて、腰には剣が吊るされていた。ど素人の私が一目見ただけで分かるくらいには高そうで、強そう。着てるものだって、なんだかカジュアルな感じの衣装だけどRPGとかで強い人が着てそうなやつで、なんかファンタジー感がすごい。だから、かなり思い出すのが遅れちゃった。
「…九条、くん?」
「威勢がいいこと、結界を破ってきたのね」
「やりすぎってくらいで引いたけど、ぶった切ってやった」
「スゲーじゃん、ま、もう直したけど」
前にあった時はシャツにズボンっていうかなりラフな服だったから変わりようにびっくりした、しかも魔王様特製のガルム様も一発ならセーフっていう結界を剣で斬ってきたらしい。いや、なんか、凄い。チートか?漫画の主人公?ちょっとでもいいからそのヤバめな力分けてほしかった、なんて思ったけど言い出せるような雰囲気じゃない。
魔王様の様子はいつも通り気怠げだけど、九条くんが出してる雰囲気が、いがらっぽいっていうか、チクチクするっていうか剣呑、みたいな。もしかしてこれ殺気ってやつなんじゃないのかなって、そう思ったらじわじわ足元が寒くなってきた。
「で?一年ぶりに何しに来たわけ?」
「勇者が魔王城に来た意味なんて、1つだけじゃないのかよ」
九条くんが手慣れた仕草で剣を抜いた、その音に自分でも驚くくらいに怖くなって一瞬目を閉じてしまう。なんか、おかしい。だって九条くんは一応高校生だったはずで、人なんて一年でそんなに変わるはずないのに別人みたいで。何よりも怖いのは私以外の誰も当たり前みたいな顔をしてることだった、こんな時でも、私はモブだ。
「リベンジマッチだ、クソ魔王」
「へー、結構真面目なんだな、一年も頑張ってたってこと?俺の為に」
「違う、オレの為」
魔王様はなんていうか面白そうに笑っていたりする、剣を向けられてるのに少しも気分を損ねた様子もない。
魔王様のことを同じ世界の人だなんて思ったことはなかったけど、血塗れで帰ってきた時だって、ダンジョンで敵を殲滅した時だって何だかんだ安心できたのに今は全然安心できない。サリィさんの後ろでびくびくしながら2人の会話を見ていたら、魔王様がこっちを向いてちょっと冷や汗が出た。
「サリィ」
「分かってるわ」
「助かる」
話しかけた先がサリィさんでよかったと思う、今話しかけられたら、多分声が震えちゃうから。でもサリィさんに頼んでくれたのが私のことだっていうことはなんとなくわかる、だって、ここに守る必要があるのなんて私しかいないもん。
魔王様は九条くんと一緒に謁見の間を出ていってしまった、多分ここじゃダメだからって外で戦うことにしたんだと思うけどそんな配慮なんかより戦わないでほしい。心細くて2人がいなくなった場所を静かに見つめているサリィさんに声をかけてしまった。
「あ、あの…」
「気になるかしら」
「そ、そりゃそうですよ…あの、2人は…戦いに、行っちゃったんですよね?」
「男って、本当馬鹿よね」
呆れた口調のわりに、サリィさんは心配してる感じじゃなかった。それが羨ましい。
私は心配で怖くてたまらない。だって魔王様は優しいけど戦闘狂だし、戦ったらかなり容赦がない。それで九条くんは私と同じこっちにきた人間なのに、まるで別人みたいに殺気まで出してた。一年前に鍛えたりとかすればいいんじゃないかって、無責任に言った自分を殴りに行きたかった。だってもしかしたら、ただの高校生だった九条くんが変わった原因は私かもしれないんだ。それでもし、魔王様が死んだり九条くんが死んだりしたら私はどんな責任を取ればいいんだろう。私は何も関係ないくせに最悪の頑張れを言っちゃったんじゃないかって、嫌な想像がぐるぐる頭を回った。
普通ならこんな不安にならない、でもあの2人は両方カンストしたチート同士だ。ふとしたきっかけでヒートアップしちゃうことだってありえなくない、だから、怖い。魔王様が九条くんがってよりは自分のせいでこうなってるかもっていうのが一番怖い、私ってほんとひどいやつだ。
「あの…心配、じゃないんですか?」
「えぇ、だって、彼が負けることはないし、あの坊やもきっと死にはしないもの」
後ろ向きに突進していく考えを振り落としたくて、サリィさんをそっと見上げた。サリィさんは私にいつも通り綺麗な顔で笑ってくれて、もう誰もいない部屋を見てから談話室に行こうって誘ってくれた。私はまだ不安だったけど、不安じゃなくなるフリをしてサリィさんの優しさに甘えたのでした。
地を蹴る、空を蹴る。最早戦場にならない場所はない。魔王が放った雷撃を来夢の斬撃が霧散させ、来夢の剣を魔王は氷の盾で止める。2人の力は拮抗していたが、それを理解できるものなどどれほどいるのだろう。この猛者の争いは衝撃で地を変え、風を起こすけれど、常人に視認できる速度からはすでに遠かったのだ、一合、二合、十合、重なった音は1つとしか判断できない。
今度こそ魔王の転移にも来夢は対応し、現れる場所、消えるタイミングを完全に合わせて攻撃を続けていた。それに魔王の口角が上がっていたのは久方ぶりに真っ当な戦いをする猛りゆえか、そしてそんな尋常でない衝突を繰り返し、ついに魔王の炎が来夢の足を焼く。肉の焦げる匂いと呻きに勝った、と思った瞬間、頬に熱い衝撃が奔る。
「……起点、は、目だろ」
「…この、クソ、ガキ………ッ!」
それが痛みだと思い出すのに時間はかからなかった、そして自分が罠に嵌ったのだと理解して魔王は苛立ちに顔を歪める。切り裂かれた左目を片手で覆って残る片手を虚空に伸ばした。
魔王の行う魔法の大部分は脳内のイメージを現実に出力するもの、あの場所にあれがあればいいと思えばその通りになる。だからこそ自然と攻撃の際にコンマ1秒よりもさらに早いその一瞬、先に視線が向いてしまう癖がある。それに気がついた来夢は、魔法の発動をズラす為に片目を斬った、のだが。怒りを滲ませる魔王の様子に少し面食らう。
「アラディアッ!」
片手に握られたのは赤黒い刀身を持つ美しくもどこか悍ましい剣だった。ついそちらに意識を逸らした来夢はその1秒後斬撃とともに中空から遥か下の地面に落とされる。風に千切れる自分の血を見ながらあまりにも痛いと痛みを感じないのだななんてことを考えて、強かに地に身体を打ち付けられて、息が数秒止まった。復帰する時間もなく、喉元にあの剣先が突きつけられる。ゆっくりと視線を動かせば氷よりも冷たい目で、こちらを睥睨する黄金の片目が見えた。
「おい、なんで止めた」
「…………」
「言え、じゃねえとこのまま殺すぞ」
「…やめたく、なかった」
「あ?」
確かに、攻撃の手が止まったのは事実だ。剣で斬り付けられた時とて魔力を使って空に留まる事だって出来たはず。だが来夢にそれは出来なかった。そんなことをしたらきっと台無しになる、と。魔王は不愉快そうに眉を潜めて剣を持つ手に更に力を込める。
「やめたら、終わる、そんなの、嫌だ」
「…何が?」
「お前を、殺したら…きっと…つまんない」
「おい、調子乗んな。負けてんのお前なんだよ」
「違う」
「違わねーわ」
やっていたことは誰がどう見ても殺し合いだっただろう、しかし殺したらもう2度とこの楽しさを味わえない。この世界に来て、来夢は頂点とも呼べる圧倒的な力を身に付けた。それは嬉しかったし、単純にいえばわくわくした。魔王にさえ関わらなければなんでも出来るくらいには来夢は強すぎた。
そして、強すぎる力は時として退屈を呼び出すのだ、楽なことは多い。圧倒的な力で全てを斬り倒すのは爽快感がある。しかし爽快感は慣れるとやがて作業に変わっていくのだ、殴れば倒れる、当たり前。斬れば死ぬ、当たり前。自分よりも強い相手はこの世界にどこにもいない。それは誰も知覚できないという空虚さをはらんでいく。
この力は疎ましくない、だが人間はわがままなのだ。だからきっと思い通りになってほしいくせに、思い通りにならない楽しさで自分達を翻弄してほしいと思うのだ。そのたび現実の与えてくれる感動の少なさに絶望して、空想の世界に都合のいい希望を託している。
生まれ変わって、空想の世界に辿り着いたというのなら、楽しいことをこの一瞬だけにして終わらせるのはあんまりにも勿体ない。そう来夢は思った、2度があってもらわなくては困るのだと。
怒りが少しばかり引いた魔王の目を見返しながら来夢はやっと身を焼き出した痛みに眉を顰めて、それでもはっきり口にした。
「…お前、を、殺そうとしてる、時が、一番、楽しい。だから、やめたくなかった、終わらせたく、なかった」
「お前さ。もうちょい前向きな生き方すれば?」
魔王に説教されるのはかなり複雑だ、視線だけで来夢の胸中は伝わったのか魔王は鼻で笑うと剣を下ろして無防備にも後ろを向いて歩き出した。
「今度は持ってかないから、歩いてこいよ」
何が何だかわからないが、あれほど膨らんでいた殺気が収まるということは来夢の返事は及第点だったのだろう。こちらをまだ甘く見ているような態度に切り掛かりたくなるが、体力も魔力も今回復している最中だ。向こうも同じだろうし、次の機会にそれは回すことにする。
けれど、このまま立ち去る背中を見るだけも悔しくて、来夢はそっとその中身を鑑定した。
【名前】ルキウス
【ジョブ】調停者
【種族】デミゴッド
【レベル】999
【体力】99999
【魔力】99999
【スキル】鑑定
神の魔眼
物理防御強化(極)
魔法防御強化(極)
状態異常無効
ウェポンマスタリー
マジックマスタリー
オートリカバー
創造神の加護
覗き込んだそれに呆然と息を吐いた。
「…あいつ、ルキウスっていうんだ」
魔王という名前しかないと思い込んでいたのは、来夢自身名で呼ばれる機会が減っていたからか。なんだか当たり前のことをずっと通り過ぎていた気がして笑えてきた、少し笑ったら胸に入った傷が痛くてやめてしまったが。
あぁ、言葉にはしにくいけれどここに来てやっと楽しいことを見つけた気がする。取り敢えず今は痛む傷を癒す為にもここで寝てしまうことにしよう。そうして九条来夢はゆっくりと目蓋を閉じた。
お久しぶりです。一方の連載が無事完結したのでこっちも再開です!またよろしくお願いしますね




