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夢は見ませんでした

なんか新年あけてたらしいです、といってもあけましておめでとうなんて2人に言ったら全く意味がわからないって顔で見られましたけどね、はは。まぁね、ここは文化の違いだからね、仕方ないね、具体的に私も何が明けたのかよく分かってないもん。

で、おせちもお餅もお年玉も新年特番もないなら話題は一富士二鷹三茄子、やっぱりこれでしょ。せめて気分だけでもとあったかい談話室でオレンジ食べながら切り出してみたのでした。


「なんで野菜?」

「さ、さぁ…」

「人気なのか」

「そ、そんなには…?」


ここも文化でしたわぁ、困った顔してるよ。私も自然に受け入れてたけどなんで茄子なんだろ、なす…成すこと成すぞ!的な…?

っていうか2人にとっては山も鷹もピンとこない系だよなぁ、この振り方は失敗したかもだ。とりあえず縁起の良いものを夢に見るといいんですよ、と無難に伝えておくと曖昧に頷いてくれる。あ、私の初夢?覚えてないよ、そんなもんだよね実際。スマイルカットされたオレンジにかじりついている魔王様は微妙な顔で私の方を見てきた。


「お前の世界って験を担ぐっていうの?そういうの好きなんだな」

「そこはどっちかというとお国柄ですね、言い出したらきりがないですよ」

「ふーん、ヒマな話」

「魔王様には分からないと思いますけど!魔法のない世界っていうのはおまじないでもなんでも縋りたくなるものなんです!」


年越しそばの話も可哀想なものを見るような目で見られたんだよなぁ、分かってますよ、私だって太く長く生きたいし、どっちかというとうどんが食べたい。でも多分こういう食べ物とか習慣っていうのは、こじつけでもなんでもしてまた来年頑張ろうねって思う為のものだと思うんだ。いちいち細く長く生きられますように、とか考えて食事なんてしないけどなんとなく大晦日にお蕎麦を食べると今年も一年色々あったなぁってしみじみできる、そういう雰囲気的なあれでいいのです。


さてと。初夢について振ってはみたけど反応がめちゃくちゃ薄いんだよね、もしかして食事必要ないみたいなノリで意味のない夢を魔性は見ない、みたいな性質があったりするのかも。


「夢とか見ないんですか?」

「ロクな思い出ねぇな〜」

「何故俺を睨む」

「白々しいんだよお前は」

「……さ、サリバンさんは夢とか見ます?」

「眠れば見る、夢に入るのとは別にな」


魔王様も頷いてるしここはヒトと同じっぽいね、よかった。


ちなみに、サリバンさんのアレソレは厳密には夢に入り込んでいるわけじゃなくて、夢を見ていて無防備なヒトの意識に入り込んでいるんだって。意識と無意識の間の凄い微妙な状態になるのが眠っている時だからだとか。普通の夢魔さん達はその曖昧な世界で生きてるんだってさ。寝てる時に昔のお仲間さんに会ったりしないのか聞いてみたけど、ヒトの領域にしか住んでないから大丈夫らしい。なんか凄いな夢の世界、種族別に居住区あるんだ。


「夢占いとかはこっちにはないんですか?」

「はぁ?脳が整理のために見るもので占い?」

「それ神様が夢枕に立つ世界の人が言うんですか…」

「あれはまた違うぞ」


占いはあるんだけどこっちでは夢はその材料にならないらしい、いや、確かに夢の原理はそういうのだって聞いたことありますけどもそこマジレスするのね。


流れで予知夢とか正夢について聞いてみたけどそこは未来視が出来る人の専売特許らしい。とはいっても未来って右足から歩くか左足から歩くかくらいのことでも変わっちゃうらしくて、予言したことが次の日には全く別のことになってるっていうのもザラだからあんまり信用されない上に下手なこと言って人を怖がらせちゃいけないってことでそういう人は能力を持っててもほとんど使わないんだって。

じゃあ何に使ってるのかっていうとギャンブルとかで役に立つらしい、なんか俗だなぁ、あとズルイ感じ。未来のことがわかるなんて凄いし、なんか神聖なイメージもあったんだけどガラガラと音を立てて崩れていくよ。決まってないことを知ったってどうにもならないってことなんだろうか。


で、私がノル様に会ったりする夢っていうのはどういうものかといったら神界からのビデオ通話みたいなものなんだとか。衝撃の事実、あれ対面してるから錯覚するだけで目の前にいるように思えるあの姿はホログラム的なものらしい。昔色々あったから神様がヒトとか魔性と直接触れ合うのはNG行為なんだって。うーん、心当たりあるなー、目の前でオレンジ食べてる人とか絶対当事者な気がするんだよなー。いや、あえていうまい、確認する必要のない事実なので。ふっと目を逸らして次の話題を考えてみる。


「えーと、じゃあ現実的な夢とかは…」

「え、難しい事いうな…目標とかじゃなくて?」

「俺はこいつを負かすことだな」

「平和な方向でお願いします」


サリバンさんが魔王様を雑に指差すのに半目になって首を振る、分かりやすいのはいいことですけどそういう殺伐とした話が聞きたいんじゃないんですよね、正月だぞ。魔王様はというとさっきみたいにサリバンさんを睨みはしなくて、顔をしかめて腕を組んでいた。初夢と同じで気軽に聞いてみたんだけどかなり悩んでいらっしゃる。前に嫌なこと聞いた時もこんな感じだったなぁ、思い当たることそんなにないのか。7割くらい本能で生きてそうな魔王様だし、やりたいことの1つや2つありそうなものだけどそっちだと目標になっちゃうのかな。


「…ないな、夢。我ながらびっくりしてる」

「えぇ…なんかしたい事とかないんですか…」

「正直な話やろうと思えば全部できるからな…」

「カンスト野郎はこれだから…」


沈痛な顔で告げられても、その内容が自慢にしか聞こえないんだよね。そうじゃないって分かってるし、むしろ将来へのなんかしらの展望がないっていうのも気の毒だなって思うんだけど、こう、言い方が。やってみたいことについて聞いてみたい気持ちはなくもないんだけど、ロクなことじゃないんだろうな、この人たまに幼稚園児みたいなメンタルで行動するしな。

溜息をついて魔王様が顔を上げたかと思うと私の方を指差して首を傾げた。


「ハナコはなんかあるのか?」

「ええっ、私ですか?」

「話ふってきたのそっちだろ、ないの?」


確かにそうだけど。とは言っても夢、夢かぁ、無責任なことに答えを用意してなかった、振ったくせに本当間抜けだ。


夢を考えてたのはいつまでだったっけ。いつからか夢なんてものより進路を考えなくちゃいけなくなって、それから先は将来に安定しか求められないようになって、そのくせ楽しくて刺激的な日常が欲しいとか頭の片隅で思ったりなんかして。でも周りは安定の道を歩くだけの夢のない私をつまらないなんて気楽に哀れんだりする、いい子ちゃんにしたのはそっちなのにっていい子ちゃんにしかなれなかった自分を棚上げしてどうしようもない気持ちになったことがある。異世界に来たからってそんな私の後ろ向きさは変わりようがないんだ、どんどん暴走しそうな考えを軽く笑って誤魔化しておいた。


「……ないです。少なくとも何かしらの形でお2人に恩返しはしたいですけど、それじゃあ目標ですもんね」

「…恩返し?」

「何の話してんだ?」

「…えっ、いや、もう長い間ここ住んでるんですよ!?」


そりゃ恩返しくらいはしたいと思うのが人情ってものでしょう、目処は全くたってないけども。え、どうしよう、私そんな恩返しもしなそうな失礼な女に見えてたのかな。自然にぽろっと出ちゃうけど言葉気を付けなきゃダメかも、怒られないからって言っても甘えちゃいけないよね。ついビクついて2人を見ると両者ともによく分かっていない顔をしている。あ、これは私の考えているようなアレではない、一応安心。


改めていうのも恥ずかしいけど、来た時に介抱してもらって私を食べるわけでも殺すわけでもなくお部屋をずっと提供してくれて、話し相手にもなってくれて寂しさってやつを忘れさせてくれてる魔王様とサリバンさんには感謝しているんですって伝えてみると、柔らかく美しく微笑んだサリバンさんとは対照的に魔王様は信じられないものを見るような顔で私を見てきた。


「お前、まさかずっとそんなことで敬語使ってたわけ!?」

「な、何で驚くんですか!?」

「単純に恐れているのだと思っていたんだろう」

「こ、怖くないわけじゃないですけど…失礼じゃないですか、お2人にタメ口なんて」


今更敬語外すのもなんか違う感じするんだよね、目上って感じではないけどほら、物凄い年上だしね。大家さんというか、先生というか、そういうとこもあるし。気にしなくていいのにと言いたげな魔王様からそっと目を逸らしていたら、いつのまにか移動して来ていたサリバンさんが私の隣に座っている。


「恩を返したら、ハナコは何処かに行ってしまうのか?」

「え!?え、えぇ…わ、私、出来ればちゃんと自立したいですけど…特別なこと出来なくて…その…情けないですけど…」

「それでいい、もう俺はお前なしを考えられそうにない」

「え、え、はっ…ええっ……?!」


サリバンさんがソファの背もたれに手をついて私の顎をそっと持ち上げる。えっ、待って、無理、この美の化身に私は今壁ドンに近い事と顎クイをされているの?えっ?なんで?

妖しく輝く赤い目が私を見るので、こんなシチュエーションに耐性があるはずもない私の頭はどんどん真っ白になっていく。危険信号はしっかり出ているのにやめてとも言えそうになくて、しっとりとしたサリバンさんの唇がゆっくり動くのに視線が釘付けになって。


「お前ほどのツッコミ役はいない」

「……………あの、サリバンさん。魔王様に毒されたりとかしてませんか?」

「本気で口説いてもいいならするが、されたいのか?」

「おーい、放置するな俺を」


茹で上がりそうになっていた思考がさっと冷えてホッとするやら、悔しいやら。でもこの人に口説かれる=死なのでこれでいいんだ、ちょっとヒヤヒヤするスキンシップってことでいいんだよね、多分。サリバンさんはデリカシーのある人だからわざとやってるんだろう、喪女を弄んでほしくはないけど許すしかないよね。そしてまた自然に魔王様を貶してしまったとむくれる顔を見ながら思う。

うん、直すのには時間がかかるかも、頑張れ私。


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