ついに会いました
「は、はじめまして…」
「汝が異世界の者か」
「は、はい…田中花子と申します…」
「我が真名明かすこと能わず。故、ギアナと名乗る」
私の目の前にはなんというか彫刻のようなものが立って、いる?
あ、なんで疑問形なのかって?床から生えてるんだよね、急に地面が盛り上がったと思ったらそこからニョキニョキと伸びてきたというか。それは立ってるって言わないでしょ、多分。
話だけは何回か聞いていたギアナ様はなんというか独特な雰囲気、まず腕がリボンみたいにヒラヒラ解けてて顔に当たる部分はのっぺらぼうっていうか何も無い。輪郭が用意されてるぶん視線向けやすくてありがたいのかなぁ、声もなんかこう脳内に響く感じでこれ以上ない人外アピール。
こうして説明してると結構怖いんだけどなんていうかな、雰囲気が神聖。抽象的な彫刻を見てる気分になる。心が穏やかになるっていうか、静かになるっていうか…上手く言えないけど、これは慣れとかじゃないと思う。こっちに来て受け流すことは覚えたけど、どんなものにも衝撃は相変わらずあるからね。
「ギアナ様、此度はこのようなことにお力を割かせてしまい申し訳ございません、平にご容赦のほどを」
「不要。我は受諾した」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
サリバンさんは胸に手をあてながら優雅に一礼した、いつもは涼しげな横顔はちょっと緊張で張り詰めているみたい。サリバンさん、基本的に神様とかガルム様とか目上の人?に対する礼儀が正しいよね。ギアナ様への態度も格別って感じ。その丁寧な挨拶を断ったギアナ様はそのまま何かを言うこともなく停止している、本当に微動だにしない。沈黙が痛くて思わず私はサリバンさんを仰ぎ見る。
「えーと…?」
「…ギアナ様は寡黙な方でな、気にするな」
「あの、一ついいですか?」
「いいぞ、何でも言え」
「魔王様はバカなんですか?」
「あぁ、馬鹿だ」
なんでこういう偉いお方がお城にいるかっていうと、魔王様が神界に行くにあたっての対策をお願いしたからです。
なんか…もう…バカ!マジックアイテムでなんとでもできそうなもんでしょうが!バカ!
あ、いけないいけない、落ち着こう。ビークール。魔王様はお城の色々を任せるには魔法にかなり詳しい人じゃなきゃいけないと思って、この際魔力そのものといってもいいギアナ様に頼んだんだって、いや、そんなオーバースペックの代理ある?このお城ただでさえ過剰なくらい魔法じかけなのにどこを目指そうとしてるんだ。比べるスケール間違えてるけど1DKのセキュリティに自衛隊連れてくるようなものでしょ、それ。しかも魔王様より年上で強い人でしょ?それをそんな、帰省するから友達に猫任せるみたいなノリで。サリバンさんも遠い目をしてるし、あの人の考え本当に分かんないよ。
「ギアナ様も忙しいですよね!?ダメでしょこんなことさせちゃ!」
「否、我が身は一つにあらず」
「あっ、あ、そ、それは…ありがとうございます…?」
「ハナコ、落ち着いてくれ」
急に話しかけられてぼんやりした答えを返してしまった、ギアナ様は顔が無いから、気まずい。肩に置かれたサリバンさんの手がなんか染みる。また訪れた静けさの前に、私はどうしたらいいかわからず目を泳がせた。
「え、えーと…ご、ご不満などはございませんでしょうか…?」
「無い」
「よ、よかったー…あ、はは…」
え、無いの。こんなこと頼まれてるのに何も?まぁ、ありますっていわれたところで私に何ができるか分からないけど、むしろ解決できない可能性の方が高いです。ぎこちなく笑ってみたけど空気が悪化するだけだった。いや、気まずくなってるの私だけかもしれないなぁ。どんよりと肩を落とすとギアナ様の不思議な声が頭に響いた。
「無知、恐怖へ育つ。夢の徒、語るがいい」
「…承りました、浅学の身故恥を晒すことになりましょうがお許しください」
ギアナ様は何も分かっていない私を哀れに思ったのか、サリバンさんに説明するように話してくれた。すみません、お手数かけます。
ギアナ様は大聖霊って呼ばれる精霊の長なんだって。この世界では精霊は魔力を大地に円滑に流すために働いているんだそう、それを統括してるのがギアナ様。
魔力っていうのはどこでも流れてるものなんだけど、乏しいところとか属性が偏ってるところがあったりするんだって。火山の近くの土地なら火属性が強くて水属性が弱い、みたいな感じね。そこは別にいいんだけど、その土地で火山が噴火したりすると水属性が完全に消えちゃってその土地の植物とか動物とかが死んじゃうらしい。そんな状況が長く続かないように修復するのが精霊のお仕事なんだそうだ。うわぁ、めっちゃ偉いお方だぁ、何してんの魔王様は本当に。
精霊ってファンタジーといえばな存在だし、ちょっとした好奇心でギアナ様以外にも聞いてみたんだけど、精霊はあくまでこの世界のシステムのようなものでしっかりした身体もなければ心もないし話もしないみたい。ギアナ様は始祖に選ばれたから言葉を使えるようになったんだって。ぎこちない話し方なのはそういうことなのかな。
「どうだ、分からない点はあったか」
「えっと…どうして心がないんでしょう?」
「無用。感情は流れを乱す」
「い、いや、そんな…」
「ハナコ、昔の魔王が何をしたか忘れたのか」
「ごめんなさい、私が間違ってました」
「…それに、被造物に心を与えたとして、それを感動的だというのは与えた側だけの主観的な考えに過ぎないぞ。必要のない重りを付けられたモノはその処理の仕方がわからないというのに、勝手に与えられた心の痛みに誰がその責任を取れる?」
「返す言葉もございません」
よくロボットとかが「これが心…?」っていう作品あったから自然に受け入れていたけど、そうだよね、人間側の勝手な押し付けだよね、作り物だから好き放題していいってわけじゃないもんね。心がないものを作ったくせに後付けでそれを押し付けるのは傲慢ってものかもしれない。
とはいえ魔王様の爆発は最悪のダメな例えであって、どんな人でもそうなるわけじゃないと思うんですけど。まぁ魔力管理してる人がストライキ起こしたりしたらたまったものじゃないんだろうな。ちょっともやっとしつつも反面教師がいる手前完全否定も出来ないので、私は小さく肩をすくめた。
「だが、心がないとはいえギアナ様が心を理解していらっしゃらないわけではないぞ」
「え?そうなんですか?」
「俺がこの城に住むことにした時、ギアナ様は俺が精神的な疲労で参らないかと心配してくださってな…」
「彼奴、酷く幼い。対して夢の徒は聡い、衝突は必至」
「うわぁよくわかってらっしゃる!」
「道徳無き、危うい存在。賢しら故愚か、そして孤独。不安あれども、寄り添う者は貴重」
うーん、ギアナ様のお言葉ちょっとわかりにくいけど、魔王様がボロクソ言われてるってことはわかる。なんかあの人他人からの評価が凄い低いよね、褒められてるとこ全く見たことないんだけど、人望とかその辺大丈夫かな。もっとも人からなんか言われたところで拗ねるだけだし、言われるだけの理由があるから気軽にフォローも出来ないんだよね。サリバンさんはしみじみ頷いているけど、ここで全員一致で肯定するのはちょっと私の心情によろしくないのでしどろもどろに口を挟むことする。
「魔王様は、えっと、優しいと思いますよ。デリカシーはかなりないですけども…」
「ハナコは優しいな」
「ちょっと!茶化さないでください」
「すまない」
「…汝にも期待する、招かれし者」
「え」
「御子は手を広げぬ、緩怠は罪に近しい」
「え、えっと…?」
ヤバい、いよいよどういうことか分からないぞ。サリバンさんにヘルプのサインを出すなどする。つまり私はどういう期待をされているのでしょう、御子っていうのは魔王様のことでいいんだよね。するとサリバンさんはちょっとだけ目を逸らした、え、何、嫌な予感しますけども。
「アレを人間にしろとまでは言わないが、急に暴発しないよう情緒教育をしてほしい、ついでにものぐさを直してほしい、と」
「無茶振りじゃないですか!無理です無理無理!だってサリバンさん無理だったんですよね!?」
「あぁ、今の状態に持って行くまでに1000年かけた」
「アレで!?アレでバージョンアップしてるの!?私に何が出来ると思ってるんですか!?」
「一緒に頑張っていこう、ハナコ」
「想望」
「まって!?」
やや疲れたような顔をしながらサリバンさんが私の手を取って見つめてくる、その顔で圧かけるのやめて、抗えないです。というかなんでそんな私に対して期待値高いの、私本当に何も出来ない無能なモブなんですが!
相変わらず何を考えているかわからないギアナ様とサリバンさんを交互に見て私はかなり泣きたい気持ちになった。荷が重すぎます、本当に。




