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衣装係に会いました

「あの…」

「あーー聞こえない、あっ、あーー、なんっか耳詰まってるなーーこれはダメだなー!」

「見苦しいぞ、首をくくれ」

「そこは腹って言えよ」


魔王様の現実逃避はなんというか子供っぽい、やろうと思えば完全に逃げられるだろうに現場に留まるっていうのは一応偉いのかな。でも玉座の上で膝を立てて耳塞いでるのはなんていうか、やっぱり子供。で、なんでこんなことになっているかというと珍しいお客さんが原因。


「こーんにーちはー!ちょっとー!ねぇ!!開ーけーーろーーー!!」


謁見の間の上空ではお城の扉を叩く女の子が映し出されている、監視カメラの映像を見ているよう。耳が尖ってるからきっとエルフなんだろうね、結界を突破して扉の前に来てるってことは完全に関係者なんだけど魔王様は全力で無視したがってるね、彼女も彼女で全力で扉殴ってるからちょっと可哀想になってきた。


「あんなにドア叩いて痛くないんですかね…入れてあげましょうよ」

「ごめん、あと5分待って、気持ち作るから」

「5秒で済ませろ」

「無理」


耳から手を離して魔王様は渋い顔で溜息をついた、映像の女の子はついに火の玉を撃ち出して扉を破ろうとしている。アグレッシブだなぁ、お城の扉少しも焦げてないからいいけどそんな殺人的なノックこの世にあるの?女の子は息を切らして髪が少し乱れているけど、かなりの美少女だった、流石エルフ。暴力的なところが嫌ってことはないだろうし、魔王様の見ないフリには事情があるんだろうな。


「あの…彼女はどういう?」

「俺が滅ぼした村の生き残りだな」

「すいません、それ一言で済ませないでもらっていいですか?」

「あ、私怨とかじゃないからな?ちゃんとした仕事だったからな?」

「本当だぞ」

「そうなんですか」

「なんでサリバンの言葉は信じるんだ…」


軽い気持ちで聴いたら重いパスが返ってきました、人外はこれだから。まぁ、この人が私怨で動いたら生き残りなんて作るはずないよね、サリバンさんの言葉に胸を撫で下ろしつつロビーへ向かう道すがら話を聞くことになった。


出会いは100年くらい前のことらしい、なんでも彼女の住んでいた村では不老不死の研究がされていたんだって。永遠の命を手に入れることは許されないことで禁忌の一つなんだそう、魔性がいるのに不思議だなって思うんだけどそんな簡単な話じゃないみたい。魔王様でいえば身体が傷付けば死んじゃうし、サリバンさんなら食事を摂らなかったら消えちゃう。死なない存在っていうのは神様だけなんだって。

で、その研究っていうのはほとんど村ぐるみで行なっていたから、極少数を除いて処刑することになったんだそうだ。なんとも不幸なことに不老化の魔法だけは完成してしまってたらしい、だから情状酌量の余地はなかった。不死が成立しちゃったら神様の手にも負えなくなっちゃうから確実に魔法の存在も研究していた人達も消す必要があった。

魔王様は禍根を残さないように全員処刑するべきだって主張したみたいだけどガルム様達から言い伝える人達も必要だって言われて引き下がった。その残されたうちの1人が彼女、グウェンドリンさん。なんていうか…色々と、難しい話だなぁ。


「…で、まぁ、後処理も仕事のうちだから支援申し出たんだけど、そんなのはいらないって言い出して」

「誇り高いんですね…」

「そうじゃない、全然違う」

「え?」

「ふ、ヒトといえど侮れんな」

「……はぁ、入れてやるか」


ロビーまで来ると、魔王様は面倒くさそうに扉を見つめた。その途端あんなに堅かった扉があっさり開いて火の玉が目の前に飛んできた。思わず目をつぶってしまったけど熱かったり痛かったりは全くない、恐々片目だけ開けると火の玉どころか焦げ跡の一つも無い。魔王様が消してくれたんだろうってホッとした、ありがとうございます。そしていきなり扉が開いたことにグウェンドリンさんはびっくりした顔で一瞬固まってたけどすぐに目を吊り上げて早足で魔王様に近づくと、人差し指をびしっと魔王様の鼻先へと突き付けた。


「ちょーーっと!魔王ちゃん!!ノック100回くらいしたんだけど!!」

「悪い、寝てたわ」

「長すぎるお昼寝は身体に悪いんだからね!」


まさかのちゃん付け。一応仇なんだよね?

しれっと嘘をつく魔王様に可愛らしく頬を膨らませたかと思えばグウェンドリンさんは魔王様に抱きついてすんすんと鼻を鳴らした、え、なんか嗅いでる。


「よし!この匂いはちゃんと着てくれてる匂いだね!」

「うん着てる着てる。だからな?別に毎年新しい服を持ってこなくてもな?俺は困らないんだよな?」

「はぁ〜?あたしのデザインした服が着れないってこと!?契約違反っ!」

「そ、そうは…言ってないだろ…」


ふわふわとした黄緑のショートボブを揺らしながらグウェンドリンさんは魔王様に詰め寄っている、それに連鎖して魔王様の顔と背は仰け反って変な体勢になっていく。うん、倒れないのは流石の体幹。あの魔王様がかなり押されている、やっぱり勢いには弱いよね。そんでもってデザインとか服とか聞いて、ちょっと前に聞いた話を思い出しつつ納得する。これが嫌がる理由ってわけだね。


「魔王様の服って…?」

「その通りだ」


あの微妙に似合わない、顔の良さだけで誤魔化してる若干アンバランスな服を作ってるのはこの女の子だということだ。


「あの…だからさ…あんまりゴテゴテの服着ると動きにくいっていうか…」

「やだ!絶ッ対マントは譲れない!ってか譲らないよ!今思い出してもあの時の光景は最高なんだから!」


ぼそぼそと小声の抵抗をする魔王様にグウェンドリンさんはなおも詰め寄り、ついに頬を指で突いた。かと思えばパッと離れてくるくると二周ほど回って、両手を組んでうっとりした表情で虚空を見つめている。


「みんなが死んでいってあぁ、あたしの番なのかって思った矢先フードの下から炉端の石でも転がすような目が見えた時の衝撃がわかる?あたし、あなたっていう絶望の化身を飾るために生まれたんだって確信したの!より恐ろしく、冷たくっ、そしておどろおどろしく!これぞ魔王って服を作りたいの!」

「あっヤバイ人だ」

「反応が遅かったな、麻痺してきたのか」

「やっと突っ込み入れる心の余裕が生まれたって感じです」


エルフが美意識の高い種族ってことは聞いてたけどこんな感じに作用するのか、凄いな。何よりも美を取るんだね。何度も聞いた話題なのか魔王様はやる気のない生返事だけを返している。つまり、この人は支援を断って魔王様の衣装係に就任したというわけか。

彼女の着てるワンピースは清楚系で可愛くてよく似合ってるし、センスはいいんだろうけどどうして魔王様にはあぁなるんだろう。グウェンドリンさんが何かを呟くと途端に空間に穴が開いてそこそこ重い音を立てながら新しい服が零れ落ちてきた、あ、そういえばエルフも魔法得意なんだっけ。火の玉の時は衝撃で忘れてた。


「というわけで!今日も真っ黒に作ってみたよ!何パターンかあるから試着してほしいな!」

「あぁ…そう…じゃ一番動きやすいので…」

「試着して!」


ほとんど諦めた顔で魔王様はその中の何着かを引きずり出して重い足取りで部屋へと戻っていく、こういう時は転移使わないんだね。どんだけ嫌なの。ってか何なら一瞬で着替えられましたよね、あなた。

主人が去ったロビーはいきなり静かになる、どうしたものかと視線を彷徨わせると今度はサリバンさんの前に詰め寄…いや膝をついて祈るポーズをするグウェンドリンさんだった。この人よくわからないテンションしてるな。


「くはーっサリバン様!ご機嫌麗しゅー!今日も今日とてお美しいですっ!」

「あぁ、グウェンもな。お前、そろそろアレに似合う服を縫ってやるつもりはないのか?」

「無いですよ?礼服なら用意しますけど!趣味と復讐を兼ね備えたことなので善行はしません!」

「それはそれは。頼もしい限りだな」


どうやら崇拝対象らしい、まぁ、サリバンさん美の化身みたいな感じだもんな。エルフ的には気にせずにいられないか、様付けまでしてる勢いだし。キラキラとオレンジの目を輝かせてグウェンドリンさんはいい笑顔で似合わないことを言う、今、復讐って言ったよね。それを咎めるでもなく仕方なさそうに笑うサリバンさんと彼女を何度も見ていると、ようやく美少女は私の存在に気が付いたらしい。


「あ?召使い雇ったんですか?」

「そんなものこの城に要らないだろう、友人だ」

「ふーん?パッとしないんですね!」

「ウッ」

「枝毛あるし、髪の艶ないし、目も小さい。肌もちょっと荒れてるし、何より体型絞れてないね!あとあと!」

「くぅっ…!」

「やめてやれ」

「あ、はい?はーいはい!」


召使い扱いもキツかったけど、それよりも鋭い事実が私の心を遠慮なく抉ってきた。イケメンと美男(美女)に挟まれてると私の普通コンプレックスも逆に麻痺してきて気にならなくなってたけど、現実を指摘されるとやっぱ辛い。胸を抑えてよろめく私をサリバンさんが可哀想な目で見ながらグウェンドリンさんを諌めてくれる。悪意がなかったわけじゃないんだろうな、よくわかっていない顔で彼女は首を傾げている。そしてじっと私の顔を見たかと思えば今度は変なものを見るような目になった。


「キミ、物好きな人だね?ここにいて怖くないの?」

「えっ…そ、それはお互い様なのでは…?」

「えぇ!?あたしはあの死神と住めって言われたら無理!あ!これは比喩的な死神だよ?本物は絶対優しいもんね!」

「は、はぁ…」


明るい口ぶりとさっきまでの態度は変わってないからなおのこと不思議、どうやらグウェンドリンさんは魔王様のことが特別好きってわけじゃないみたい。むしろ怖がってる?テンションが高いからよく分からないけど、ラヴィニアさんタイプじゃなさそうだ。戸惑う私にため息をついてグウェンドリンさんはほんの少しだけ目を細めた、なんだか温度が下がった気がする。


「あれ、ヒト殺しだよ?きっと魔性だって殺してる」

「そ、それは…」

「あたしはあたしにできる精一杯の復讐をしてるだけ、まぁ着飾りたいってのは本心なんだけど。普通に暮らしてるなんて信じらんない」


その言葉でわかってしまった、好きなんかじゃない、むしろこの人は魔王様が嫌いだ。当たり前のことかもしれない、周りの人が悪いことをしていたとはいえ村を滅ぼした張本人なわけなんだから。きっと、衝撃を受けたって話に嘘はないんだと思う、でもそれ以上にグウェンドリンさんは魔王様のことを許せないんだ。だからわざと、ちょっとズレた服を縫って渡してる。立ち向かっても勝てない相手にできる唯一で精一杯の復讐ってことなんだろう。


意識しないようにしてたけど魔王様は確かに酷いことをしてきた人だ。優しいけどいい人じゃないし、グウェンドリンさんみたいな人がいるのも当たり前のことだったんだ。でも、それには頷きたくなかった、私は単純で無責任な人間だから。スカートを掴みながら震えそうになる声をひねり出す。


「わ…私は、この世界の人間じゃありません」

「え!そうなの?」

「それに…ひ、ヒトを、殺している、っていうなら、貴方が尊敬してるサリバンさんも…なんじゃないですか?」

「………」


わかってる、グウェンドリンさんは魔王様がヒトを殺したことがあるから嫌ってるんじゃない、身内を殺されたから嫌ってるんだ。この復讐に私が否やを挟み込む権利なんてどこにもない。だけど、あの人は私の恩人でもある人だから、そのままにしておきたくない。今日の夜、きっと猛烈に反省することにはなるんだろうけど。


「酷いこというと思います、私は余所者だから余所者の言葉でしか話せません、まだ2人の怖さだって、しっかりわかってるわけじゃないです。でも、2人は私を助けてくれた恩人で、2人の生活もお仕事も2人だけのもので、私は口を出せるほど偉くないです。も、文句なら、よく、言っちゃいますけど…」


あぁ、何言ってるんだろうな、私。


グウェンドリンさんの目は冷たくて、私が何か言ったところであの人のことを好きになってくれるわけじゃないのに。ついに目を合わせられなくて床に視線を落とす、虚勢を張っていた声もついに震え出している。隣に立つサリバンさんの顔ですら今は見られそうにない。


「私は自分が生まれる前に起こった殺人とか、知らないところで起こってる殺人に怒れるほど、優しくないんだと思うんです、自分に関係がないうちは…ちょっと怖い、で済んじゃう酷い人間なんです」

「…あ、そ」


日本にいた頃だって、ひどいニュースみたところで怖いな、で終わる人間だった。それは今もそう、自分が安全圏にいるから適当に怖がって、また適当に1週間も経てば恐怖心を忘れてしまう。自分は絶対無事に過ごせるなんて、保証されたわけでもないのに安心しきってるズルい奴なんだ、私。

目の前で色々な事が終わっていった彼女にこんなことを言うのは本当に最低だと思う、でも仕方ないんだよ。怖くないのかって聞かれたら「怖くない」って答えられる。それは私が殺される理由のない人間だから。


私の要領の得ない答えに、グウェンドリンさんは静かに立つだけで何も言わない。彼女は軽く言っただけなのにこんな重くて馬鹿っぽい答えなんな渡されても困るよね。指先が、とても冷たい。そのまま何秒か、何分か、いくらか経って目の前の空気が緩んだ気がした。


「うん…わかった!キミは磨いても光らないけど面白い子だね!」

「んグゥ」

「だからやめてやれと」


結局顔はあげられなかったけど、多分いい笑顔だったんだろうって私は思ったのでした。



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