街歩きしました
お茶会の席でのこと、あとこんなトラブルで呼び出したことについてはマリエラの王様から深ーい謝罪があった。王様って踏ん反り返ってるイメージだったけどここの国限定なのか、やたら腰低かったなぁ。魔王様怖いのかな。困ったお嬢様と王子様にもお灸が据えられたのでもう問題はないってことで私達は無事マリエラを観光できるようになったのです。あ、警護の人つけるかですったもんだはあったけど魔王様が負ける相手がいたら世界危機だからね、お断りしたよね。なんていうか普通の人にあの人付き合わせるの酷。
服を着替えて、サリィさんを呼びに行けば、とても…その…色っぽい、なんだ、ネグリジェっていうの?そのままベッドの上に寝転んでいた、きっちりしてるサリィさんにしては珍しい。
「サリィさんいかないんですか?」
「ごめんなさい、やっぱり朝は眠くてダメなの」
「えー、残念です…」
「それに、顔を普通にするっていう変装するのって嫌なのよね」
「アッハイ」
サリィさんレベルの美女は顔面偏差値を落とすことから始めないといけないですよね、騒ぎになるもん。それは美人の美意識に反するということですね、口は挟めませんね。まぁサリィさんと出掛けられないのは残念だけど、魔王様もいるし無理強いはできないよね。そんなことを考えていると背後に人の気配がして振り返る、そこには普通すぎて印象に残りそうにない茶髪の男の人が立っていた。
「よ、ハナコ」
「……あ、魔王、様?」
「サリィ、行ってくるけど土産なにがいい?」
「そうね、私に似合うものを見つけてきて頂戴な」
「りょーかい」
見知らぬモブは魔王様だった、サイズと声はそのままだったから分かった感じ。そしてサリィさんが行かないことはわかってたみたいで軽く部屋を覗き込むだけで済ませてしまった。今日は2人で行くのが決定らしい、つい全然顔が違う魔王様を見ているとしっかり目が合った。
「ん?どうした?やっぱ変?」
「違います。やっぱり変装出来るんだなって…カロン村にもそれで来てくれたらよかったのに」
「あれはハナコにバレなかったらつまんないじゃん」
「故意!」
分かってたけどわざと騒ぎ起こしてたんかい、いや父兄参観に変装した親がいる方が嫌かな…どっちにしろあの薬草のこと考えると人集りできそうだしそれなら俺ですって自己主張してもらえた方が気が楽になるかも、なるかな。過ぎたこと考えてもどうにもならないけどね。
見た目についてはむしろ変なところが何も無さすぎて不安になる、目も普通だし。魔王様の目ってなんかびっくりするくらい黄色ってのもあるけど、ちょっと人間離れしてるんだよね。実際人間じゃないんだけどさ、こう、猫とか蛇みたいな動物っぽい感じっていうか瞳孔が細い。ノル様は普通の目だったから神様の目ってわけじゃないんだろうな、お父さん似なのかな。普通なら観察してるうちにイケメン加減に目が疲れてくるんだけど、今日は目に優しい魔王様なので十分ガン見可能、そんな私の様子が珍しいのか魔王様はちょっと前髪をいじったりなんかしつつ首を傾げている。
「なんか気になる?」
「魔王様って髪一部だけ赤いじゃないですか、アレってなんなんだろうって思って」
「あ〜アレね。フェニックスに致命傷治してもらった時に染まった」
「器用な毛根ですねぇ」
「なんだそりゃ」
生まれつき赤いのかと思ってたけど、地毛は黒なんだなぁ。ちょくちょく話に上がるフェニックスさんは瀕死の魔王様を治すために生まれてすぐ全ての力を使って消えてしまったらしい。不死鳥なのに、儚い存在だなぁ。まぁ世界にたくさん不死鳥がいたら世の中のバランス崩れるから良かったのかもしれないけど。ちなみにその時の傷は肩口からお臍のあたりまでバックリいってたんだとか、なんでそれで瀕死なの。即死でしょ普通、呆れて物も言えないわ、物理ダメージに弱いとか言ってたけど全然強いじゃん。
「多分魔力って髪に伝わりやすいから、そういう感じだ」
「なんかそういうのハッキリさせたいタイプだと思ってましたけど、案外ぼんやりしてるんですね」
「血とか目と違って特に影響ないしな、どうでもいい」
興味ないことには冷めてるんだよな、この人。突然吐血したり色んなもの見えたりするのに比べたらそりゃどうでもいいでしょうけど、髪染まったら気になるもんじゃないのかな。そういえば結構経つけど魔王様の髪の長さって変わらないな、もしかして新陳代謝ごと成長止めてたりする?手入れとか面倒がるだろうし想像しやすいなぁ。
と、あんまり魔王様の神秘について考えるのはよそう、キリがないから。いつまた観光ができるか分からないんだし遊びに行くのを楽しまないとね。
「あ、ところで魔王様、お金持ってるんですか?小銭的な意味で」
「ふふん、舐めるなよ。両替してもらった!」
「…白金貨ですよね?ミスリル貨じゃないですよね?ていうか白金貨でも大変でしょ!そんなお金使うんですか!?」
「大丈夫、9割はもう使ったから」
「なにが?!なにに!?」
あの物欲のない魔王様が9割大金を使うって一大事では、聞いてみても珍しく内緒とかいって教えてくれないし。え、魔王様に足りないものって何なんだろう。もやもやした気持ちのまま、私は魔王様を追うようにお城を出たのでした。
異世界でも食べ歩きって文化があるのは嬉しい、そこらにポイ捨てさえしなければいいわけだしお店と違って中の混み具合を考えなくても気軽に食べられるのが魅力だよね。すっごい行列のところは流石に萎縮するけど。で、まぁ気軽なところはいいっていったんだけどさ、私みたいに女だとカロリーとか気にしちゃうわけで、気になったものをポイポイ口に入れるような真似は出来ないわけですよ、横でドーナツを齧ってる魔王様と違ってね。この人この前にホットドッグのようなものとか、アイスキャンディとか、色々食べてるから通算6個目です。私はさっき飴みたいなお花を買ってもらいました、飴細工とかじゃなくて自然に生えるものらしくてファンタジーだなってしみじみ。そしてそろそろ八つ当たりとともに魔王様の暴食を責めていいと思う、横から毎回美味しそうな匂いさせないでほしいよ。
「魔王様は太らないんですか?」
「その分使ってるから平気なんだよなぁ」
「ムカつくな〜。あ、そういえば前食べなくてもいいってこと言ってませんでした?」
「あぁ、なんつーか嗜好品みたいな扱いになるかな。ヒトみたいに栄養とか考える必要もない」
「いいなぁ、好きなもの好きなだけ食べられるってことじゃないですか」
「俺、好きな食べ物とかないぞ?」
「えっ」
毎月ロクサーナさんにおねだりしておいて、好きじゃないってどういうことなの。私の顔はかなりわかりやすいらしくて魔王様はいつもの言ってなかったな、という顔をする。残りのドーナツを口に押し込んで指先を軽く舐めて、満足って風に頷いた後に口を開けた。
「興味と好意って別だろ。甘いものって存在が面白いから気にしてるだけ」
「えっ、えぇ?二回食べたいと思ったものとかないんですか?」
「シュークリームはリベンジしたい」
あー、食べるの下手だったもんなぁ、私もたまにやらかすけど魔王様がやると面白かった。人の失敗を笑っちゃいけないけどどうしてもね。
曰く、糖分なんてお菓子食べてまで取らなくていいのに多種多様な感じで存在してるのが面白いんだって。いや、たしかにね、フルーツとかでも糖分は取れますけどそうじゃないんだよなぁ。スイーツにしか癒せない疲れってものがあるんですよ、あの多幸感はクリームとかチョコとかじゃないと出なかったりするんです、ピンと来ないだろうけども。
「それにさ、なんかしら頼んでおかないと向こうが萎縮しそうだろ。そりゃ最初は純粋な興味だったけど、今はちょっと政治的なリクエストだ」
「魔王様も意外と考えてるんですね…」
「決めた、もう買ってやらねぇ」
「ごめんなさい!魔王様ったら頭いい!素敵!」
情けない話だけど今日のお財布は完全に魔王様頼りなので、ここで離れられるとかなり困る、各地からいい匂い漂うし、食べ物の通りじゃなくて服とか小物とかも見てみたいし。せっかく文化面で栄えてる国なんだからしっかり回らないとかなり勿体ない、そっぽを向く魔王様に素早く頭を下げて首元から垂れてきたペンダントにはた、とうっかり忘れていたものに気が付いた。
「あ、サリィさんのお土産何にする予定なんです?」
「それが悩んでる。ハナコも買うんだろ?」
「悩んでます」
お土産の話を出すと魔王様は困ったように頭をかいた、言われた時は何も考えず頷いちゃったけど難しい。職場のお土産じゃないんだからマリエラに行ってきましたせんべいとか買うわけにもいかないよね、というかないか、そんなの。あたりを見回してみたけど、どんな食べ物もサリィさんに喜んでもらえそうにない、要らないとは言われないけど普段生活する上で必要ないものもらっても困るよね。私の食事には話し相手として付き合わせちゃってるから、あんまりヒトに寄せたお土産はしたくない。押し付けるみたいでこっちが申し訳ない。
「あいつは飾ったりしなくても美しいから、装飾とか買ってもなんだよな」
「そうなんですよー…なんなら魔王様以上に食事に興味ないですし」
「思った以上に難問だな…俺あいつの好きなもの知らないし」
「は?え?冗談ですよね?長い付き合いでしょ!?」
「ん、んん…その…すみません?」
「も〜じゃあ一緒に考えましょ」
1000年暮らしてて好きなもの知らないってどうなんだろう、コミュニケーション足りてなさ過ぎ。あっ、いやその………サリィさんにとって本物の食べ物の好き嫌いなら知ってるかも……しれないけど……用意できそうにないし、誘拐および殺人罪に問われる。ダメ絶対。割としょうもないところで役に立ってくれない魔王様と、常に特別役に立たない私とであーでもないこーでもないと議論を重ねて店を回って、くたくたになるまで考えて。
「それで残ったものがコレなの?」
「ごめん…」
「ごめんなさい……」
結果、選ばれたのはポプリでした。なんかこう最終的には夢魔といえば夢という安眠グッズ的な方向で、ね、攻めていったんですけどわざわざ贈る必要があるほど睡眠で不自由してる感じないし。買った後、妥協感がすごくて魔王様と一言も喋らなかったし帰り道が気まずいのなんの。お互いこれで良かったのかとか言ってみたいけど勇気が出ない状態だった、我に返って考えてみたらポプリなんかよりサリィさんの方がよっぽどいい匂いするんだよね。思わず2人でなんとなく正座などしてみたりして、しっかり目が覚めたサリィさんの顔を伺う。がっかりした様子もなく特別喜んでる感じもなく、不思議そうな顔でポプリの袋をじっと見つめている。今までにない緊張感に唾を飲み込むと、小さく吹き出されてしまった。
「いいわ。過程を大切にしてあげる」
「ははーっ」
「ありがたき幸せ!」
今度もし何処かを観光することがあったら、夜に出掛けて今度こそ3人で何かを買って歩こう、そう思う私だった。




