お客さんは続きました
「誠に申し訳ない」
「謝って済むなら抑止力とかいらないわけ、言いたいことわかる?」
「ん…まぁ、その…うむ」
「血送ってあげるから城に押しかけるのやめてって伝えて」
「それはちょっと………」
残念美少女を追い返した次の日の夜、魔王様と違って黒マントの似合うロマンスグレーな紳士がお城に訪ねてきました、言わなくてもわかるけどラヴィニアさんのお父さんですね。真っ赤な裏地のマントといい首元のヒラヒラした燕尾服っぽい衣装といい、どうしてヴァンプは期待を裏切らないのだろう、めちゃくちゃ律儀。魔王様はどこにでもいそうな軽さなのにね、見習ってくれ。
ラヴィニアさんのお父さんはクロードさんっていうらしいんだけど、昨日の娘の粗相を謝りに来てくれた。いいお父さんだなって思ったけど娘を止めることは出来ないらしい、この世界の父親子供に弱すぎないかな。困った様に眉を下げてもぞもぞ言い淀むクロードさんに魔王様は若干イライラした調子で、指先で玉座の肘置きを鳴らしている。行儀が悪いって叱りたいけど、クロードさんの方が多分年下なんだよなぁ。
「何がそれはちょっとだよ」
「教育ちゃんとしておかないと後々大変なことになるわよ」
「わかっておる!わかっておる!!あれでもマシになったのじゃ」
「えぇ、嘘…」
あの高笑いと上から目線、極め付けに5歳児かと思う駄々のこね方。アレでマシになった方なのか、魔王様になんか…あれ…うん、なんか鉄の匂いがしそうなことをされた時許してって絶叫してたけど、あれ言えるだけで成長したってことなの?いやそんなまさか。ごめんなさいが言えないとかいくらなんでも。サリィさんも呆れた顔でため息をつく中、クロードさんは苦々しく顔を歪めると頭を深く下げた。
「わしでは最早抑えきれぬ!そなたに躾を頼む事は出来ぬだろうか…」
「は…はぁっ!?え、えぇ〜…いや………一無礼につき十殺でいい…?」
「すぐ残機がのうなってしまうわ!」
「じゃあ一無礼につき骨一本で…」
「1時間と保たぬ!」
ヴァンプの命って残機制なの?というかクロードさんの言い方娘に甘いんだか厳しいんだから分かんないよ。そしてここまで慌てる魔王様初めて見るな、よっぽど嫌なんだろうな。でも引き受けるあたり、あの態度を是正したいとは思っているみたいだ。どうしても定期的に押しかけてくるんだったら妥協点探す方が楽だよね、そんなわけで魔王様はクロードさんの家に泊まりに行くことになった。
そしてサリィさんと2人きりになってなんとなく察していた事実を知ることになる。実はヴァンプは味覚がない種族なんだとか、ラヴィニアさんは美食家って言ってたけどそれは嘘。まぁ当の魔王様はたまにはそういう変な個体もいるよね、でさらっと受け流してしまったから取っ掛かりを感じる事もなく美食家で片付けているらしい。前々から思ってたけどちょっとは疑わないのかな、興味、なかったのかな。
で、そんなヴァンプが1人の血に拘るって言うのはその相手が好きって事。ヴァンプを殺したいなら恋をさせればいいなんて格言もあるくらいで、その人以外の血を受け付けなくなり、その人が死んでしまうとヴァンプもひっそり死ぬんだって。いや、だから、なんで期待を裏切らないんだヴァンプ。ファンタジーのお約束を一気に引き受けてくれてるの、ありがとう、夢を壊さないでくれて。そしてクロードさんがラヴィニアさんを止めないのは娘の恋を助けてやりたいという思いなんだろう、いいお父さんだな。でも相手が悪すぎないかな、なんて言っても完全に昨日の行動完全に退治だったもん。
「あの、サリィさん」
「何かしら」
「ラヴィニアさんってあんなボコボコにされても魔王様が好きなんですか…?」
「……ヴァンプは、その、電撃的な出会いに弱いのよ…」
確かに電撃的だけど、電撃的ならなんでもいいのか。そのうち変な趣味に目覚めたりしないだろうな、具体的に言うなら鞭とかロウソク的な。遠い目をした私にサリィさんが取り繕う様に手を叩いて微笑みかける。
「ほら、ポンコツと王女様よりはポンコツとアホの取り合わせの方がこっちもいくら気が楽じゃない?」
「ひどい言われ様」
まぁ純粋そうなロクサーナさんが振り回されるよりはラヴィニアさんがしばきまわされてた方が見てて安心するのは確かだね、昨日会ったばっかりだけど私も大概彼女の扱いひどいな。それにしても、今更気が付いたけど、魔王様の知り合い女の子が多い気がする。まだまだ知らない人もいるはずだけど、なんとなく偏りがある様な。でもハーレムとは思わないのはあの魔王様だからだ。
「魔王様って男友達いないんですか?」
「うーん、そうね。私の知る限りガルム様とサリバンくらいしかいないわ。あの性格でしょう?恋に浮かされた乙女か変人しか寄ってこないのよ」
サリィさんはこのお城に住んで1000年経つそうだ、スケールが違うので私は反応に困りながら曖昧に頷く。そしてその年月出会った魔王様の友人は9割が女性だという、可哀想になぁとその女性にこそ同情してしまう。そしてその女性陣、さぞサリィさんが羨ましかったに違いない。まぁどんな人が来てもサリィさん以上の美女なんていないと思うけどね。
「えっと、サリィさんは負けて悔しかったからここに住んでるんですよね」
「そうね…でも、今は建前なのよ。それ」
ふぅっと軽く息を吐き出して窓の外を見つめるサリィさんについ息を飲む。もしかして、ずっと一緒にいることで悔しい気持ちが愛しい気持ちに変わっていったんじゃ、あれ、でもサリィさんってサリバンさんでもあるわけだしこの場合どうなるんだ。いやどっちにしろ報われない気がするけど、どうせなら2人に魔王様の手綱を握っていてほしい。
「あ、そういうのじゃないから勘違いしないで」
「あ、はい」
そんな顔に出てたのかなぁ、バッサリ両断されてしまった。サリィさんは言葉に悩む様に腕を組んで目を彷徨わせていたけれど、ゆっくりと話し始めた。
「あいつ、1人っきりだとなんていうか…無になるのよね」
「…今もわりかし無な時ありますよね?」
「その比じゃないの。予定外のことがないと、ルーチンを常に繰り返すのよ、1秒のズレもなく毎日毎日同じことを。ゾッとしたわ」
奇行ばかりの今の魔王様の姿からは考えられない話についぼんやりしてしまう、でも魔王様ならありうるかもって気持ちも薄っすらある。ちょっと煽れば怒ったり拗ねたりもする魔王様が、サリィさんや私がいないだけで機械みたいに動くのを想像するだけでなんだか寂しくて、スルッと想像できちゃう自分が悔しい。それに、きっとそんな作業みたいな毎日を送ったとしても寂しくないんだって確信するのもなんだか悔しい。無駄とか面倒くさいとかが口癖でものぐさなあの人は、そういう無駄なものがなくちゃろくにまともな生活が出来ないんだろう。サリィさんは緩く目を細めて私に微笑みかけた。
「本当にしょうがないヤツだから、話し相手になってやるくらいはしたっていいかなって思ったの」
「……………ヒモにハマる女みたいなこと言ってますよ」
「言わないで」
茶化さないとその笑顔が綺麗すぎて泣きそうになったなんて、言えるだろうか。鋭いサリィさんには分かっていて拗ねたふりをしてくれたのだろうか。誤魔化すように目を逸らして、思うのは今頃ラヴィニアさん相手に頭痛を堪えている魔王様のことだ。もうちょっと、周りに関心持った方がいいんじゃないですかって気が向いたら言ってみたい。
1週間ほど忙しい時機が続くので少し休みます。




