ちょっと引っかかったのでした
正直こっちに来て思ったことはチートがないなんてあんまりだ!だし転生とかで美少女になってもいいじゃん!とかそれなりに身勝手な願いだったと思う。でもカンスト魔王に保護されて、目が潰れるくらいの美形と暮らすことになってその考えは今遥か彼方の方にある。なんていうかもう、平穏に生きたい。めっちゃでかいドラゴンと軽口叩ける自信ないし国を滅ぼす気もないし、天寿を全うできたらそれだけでいいです。そういう感じ。余計な事に首は突っ込まず慎ましく生きていく覚悟です…けど、まぁ周辺に世界のトップがいると疑問は湧くんだよね。
「三大始祖ってどんな基準で選ばれたんですか?」
「長生きで強い、以上」
「ざっくりしてるなぁ」
日本だったら三大始祖って名称こっぱずかしいにも程があると思うけど、するっと言えるようになったのは私も成長したよね。温泉でサリィさんから聞いたのはガルム様と魔王様とあと誰かで纏めて三大始祖って言われるって話。ガルム様が魔王様より強いらしい事、2億生きてる事から強くて長生きってことは言われなくなもわかるんだよ。若干不満な顔で談話室のソファでダラダラしてる魔王様をみるとちょっと驚いたように目を丸くした。
「急にどうした、お前そういうのファンタジー怖!とか言ってあんまし突っついてこないくせに」
「だって、よくわかんないですし」
「簡単に言えばヒト同士の争いで戦争以上のやばいことがあったら神の代わりに介入するのが俺たちだな」
「なんで戦争には手出さないんですか?」
「国が滅ぶのもヒトが死ぬのも自然淘汰の一種だからな、運命的に」
「は、はぁ」
魔王様って優しいわりにドライなんだよなぁ、人間嫌いってわけじゃなさそうだから単純に価値観が人外ってことだと思うけど普通の人間代表としてちょっと寂しく感じる。あとファンタジーにはまだしっかり憧れありますからね。怖!っていうのは物騒なあなたに対してですから、とはとても言えないかな。
多分始祖さん達には何とかしてって神様が夢枕に立ったりしてそれで動くんだろうな。そしてご褒美がミッションクリアでゲットできるみたいな。直近で言えば私達の異世界問題がそれだったってことだ。ご迷惑かけます、と小さく礼をしておく。
「で、神が介入できるのが魔性がしでかしたトラブルとか世界の破滅とか、ヒトにどうしようもできない問題だ」
「…そこなんですよねぇ」
「何だよ、惑星の寿命が尽きなきゃおかしかないだろ」
「だって魔王様ガルム様にも神様にもメッてされてないじゃないですか」
ずっと気になってたのは魔王様が昔に黒歴史ってレベルのやらかしをしてるのに、今は神様のお手伝いをしている側にいるってこと。昔やったことの償いって感じにも見えないし、条件的にも世界の半分だなんてヒトになんとかできる範囲の問題じゃない。一応魔王様は魔性カテゴリに入るらしいけど、人間の女性から生まれたはずだし介入するべきは多分ガルム様達だ、だっていうのに神話の結末はポッと出の勇者の何年か越しの成敗で理屈が合わない。異世界騒動の決着が早かっただけに腑に落ちないんだけどもしかして魔王様以外はお仕事に積極的じゃなかったってことなのかな。ふと顔を上げて魔王様を見てみると何故か能面のように固まってて、サリィさんは唇を噛んで笑いを堪えていた。
「んふっ、も、ダメ、あははははははっ!」
「笑うなサリィ!!お前も細かいところ気にしやがって!!」
「え?え?」
「あはっ、いい?ハナコ、どんな世界でもね、親は子供に甘いのよ?ふふっ」
爆笑するサリィさんに困惑しながら言葉をよく考えてみる。親は子供に甘い、まぁ魔王様も魔獣の話するとき親バカだったもんなぁ。全員じゃないけどそういう親が多いのはこっちの世界でも日本でも同じなんだろう。つまり、魔王様は親御さんが庇っていたから始祖さん達が手を出せなかったってことだよね…でもお母さんは死んじゃってたしだとすると。
「え!?魔王様って本当に神様の子供なんですか!?」
「ムカつくことに神話はほとんど実話だよ!!」
「そもそも人間の身体でこんな長生きなわけないじゃない、なんだと思っていたの?」
「え、あ、悪魔…?」
「いないわよ」
えーウッソ、その辺いかにもって感じだからお伽話ならではの脚色だと思ってたんだけどそうじゃないんだ。びっくりしている私に魔王様は死にそうな顔で舌打ちをしてだらけていたソファに座りなおした。誤解してればいいのにとかぶつくさ言ってるのが聞こえたけど私をなんだと思っているのか、レベル1の雑魚ですか、そうですか。勝手にいじけてみる。
ちょいちょいはぐらかされていたけど魔王様の種族はデミゴッド、この世界にたった1人しかいない半神なんだそう。だから7000年くらい普通に生きるし外見だって歳をとらない。その上魔王様の血の一滴はエリクサー、ゲームで絶対残しちゃいそうなアレよりも更に凄まじい効果がある上に望むものを好きに生み出せるという。魔獣を作ったのもその血だし、私がサリィさんやサリバンさんに心を奪われて廃人になることもなく過ごすことが出来るこの赤い宝石のペンダントは魔王様の血の塊で出来ていたんだって。えー、ルビーじゃないのはわかってたけど血、血かぁ…2人のチョーカーとお揃いで嬉しかったんだけど血って。いや装飾もしてあるし不潔とは思わないけどね!それにこれがないと私大変だから投げ捨てたりはしませんけど、ちょっとそれ知りたくなかったな。ちなみに世界を混乱に陥れた時代、魔王様はその血をコントロール出来ていなかったらしくて暴走、結果大惨事。お父さんが誰か知らないけど甘過ぎるのもダメではないですかね。
「えーと、お父様はどの神様なんですか?まさかその…やらしい神様ではないですよね?」
「7000年前まで神は一柱しかいなかったのよ、今の多神教を生み出したのは殆どこの人が原因なの」
「うるせえ、俺が全部悪いみたいな言い方しやがって」
「あら、じゃあ全部良かったの?」
「…そうじゃないけど」
がしがしと頭を掻く魔王様の目は真剣で本当に申し訳なさそうだった。本当は、村の人間だけ殺してこの人は落ち着いていたのかもしれない。だけどどうしようもなくて神話の通りになってしまったのかも、なんて部外者らしい無責任な想像をした。人口の半分が消えてしまって怖がる生き残りはこの事態を解決してくれる他人を、神の存在も願ったんだという。結果色んな神様が生まれてこんな感じになったんだとか。あれ、そうなると魔王様のお父さんって、恐る恐る魔王様を見てみるとこれまた思い溜息をついていた。
「…創造神だよ」
「………めちゃくちゃ大御所じゃないですか!!」
「一柱しかいなかったからな、やりたい放題だったんだ」
それで生まれた神様達に怒られたってとこかな。まぁ結局は偶々いためちゃ強い勇者に先を越されたっぽいけど、凄いな勇者。
「でも…確か魔王様って創造神信仰ですよね、じゃあ仲は良いんですか?」
「いや…?」
「えぇ…」
「覚えてない?神話で魔王は神なんて知らないってくらいの大暴れをしたのよ」
「あっ」
単に創造神様しかいなかったから信仰がそこになってて、村の教会の教えを守ってただけってことだ。でも話し口を見るに敬虔っぽくもなさそうだしなあ、魔王様はどんな祈りをしているんだろ。ちょっと気になる。
「言っとくけど、別に俺は創造神嫌いじゃないよ、好きでもないけど」
「知ってます?魔王様、好きの反対は無関心って言うんです」
「言い得て妙だな。まぁ無神教ってなると色々面倒だから一応信仰はしてるんだ」
「レベル1になったりとか…ですか?」
信仰することで加護が与えられるっていうんなら魔王様のわけわかんない強さだって加護の可能性があるのでは。いやガルム様もカンストしてるっぽいけど経験値ログボ的な感じかもしれないよね、なんせ2億歳だし。おまけに魔王様やらかしてるんだしいくらお父さんが甘くても没収沙汰になってもおかしくないんじゃないかな。
「何言ってんだ、俺が21の時だって200レベルはあったぞ」
「キモッ、じゃあ面倒ってなんなんですか?」
「夢に出る、神が」
「えっ」
「特に何を言うでもなく捨てられた犬みたいな顔で夜の間ずっと見てくる」
「それは…面倒ですね…?」
「だろ?」
生まれた時からカンストじゃなくて安心したけど21で達人クラスの100レベル飛び越えてるのは気持ち悪いよ。取り繕うのも忘れちゃったけど魔王様はもはや気にもしてなかった。どっちかというとげんなりした顔で創造神様を語っている。うーん、嫌悪っていうの感じないから純粋に面倒くさがってるなぁ。それにしても創造神様って思ってるよりも子供に甘いみたい、そういう性質が魔王様の親バカに引き継がれちゃったのかもね。私はノル様の信徒だから会う事もないけどもうちょっと段階踏んで歩み寄ったらいいのにな。
「う、うぅ…」
「そ、創造神様!?」
「聞いてくれ……癒しの神よ、今、今息子が我の話をしてくれた……」
「そ、それは…良かったのでは?」
「でも、でも、面倒って言われた…」
「…………」
「いつか父上って言ってもらえないかな…気軽にパパでもいいのに…」
「それは、御子様に直接おっしゃってください」
「言えたら苦労しなぁ〜い!」
よもや神界でそんな情けない叫びが轟いていたとは魔王城の住人は知る由もないのであった。