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サプライズでした

今日も今日とてバイトの日。休みは定休日だけだから週休1日制なんだけど、労働時間は9時〜3時の6時間だから日本にいた頃と比べるとだいぶ楽だ、残業は普通だし運が悪いと休日出勤もあるし、ブラックではなかったと思うんだけど満員電車に揺られてそんな生活を送るのは辛かった。こっちだと寝坊しても転移具で一発だから余裕があるし、何より日が高いうちに帰れるっていうのが最高だよね。ただ、お店のことを考えたら夜までやったほうがいいと思うんだけど、それ言ったら2人にめんどくさそうな顔をされただけだった。曰く酒は酒屋、夜にご飯なんて出したら酔っ払いの巣窟になって大変って話、ついでにそんなに働いたら体に悪いって怒られた。24時間営業に慣れてたけど交代する人もいないし、作るのはヨハンさんだけなんだから私が言ってたことはひどい非常識なんだよね、反省。

ちょっと思い出して凹んでいると店に行くまでの道に人が溢れていた、カロン村はまあまあ活気のある村だけどいつもはこんなにガヤガヤしてない。市場はもうちょっと向こうだし何だか変だ、人混みを覗くように爪先を立ててあたりを見回しても中心は見えなかった。


「なんだろ…?」

「おやハナコ、おはよう」

「あ!おはようございます、これ何の騒ぎなんですか?」

「気前のいい冒険者が来てね、いい薬草を破格の値段で譲ってくれてるんだ」


突然肩を叩かれ振り返るとそこにはアンナさんがいた。どういうルールかわからないけどこの人混みは一応並んでいるらしく横に案内された、並ぶなら真っ直ぐにならんでほしいよね。野次馬も混ざってるだろうし見分けつかないよ。

薬草は一応この世界でも需要がある、魔法で病気を治そうとするにはただでさえ上級の治癒魔法っていうのを極めなきゃならないらしくて一般的じゃない。そういう人たちは治癒師って呼ばれてて総数が少ないからお金持ちの専属になるんだって、そうすると普通のヒト達は治療方法がなくなっちゃう。なのでこの世界で病気とか怪我をしたら薬師とか医者にかかるんだそう。こっちはちゃんと勉強して魔法の力無しで治療する普通の病院ってこと、簡単な病気だったら民間薬っていうのかな、家で薬草を煎じて飲む事もあるんだって聞いた。技術面じゃ日本というか私の世界には遠く及ばないと思うけど、何でも魔法魔法じゃないってちょっと安心するよね、もっともどの仕事でももぐりってのはいるみたいで詐欺の被害も多いらしいからどの世界も変わらないんだなぁ。

それにしても薬草を売るってこういう行商みたいな感じなんだ、そうアンナさんに聞いてみたらちょっと違うらしい。


「普通は冒険者ギルド経由で売るんだけどね、鮮度がいいうちにって言ってくれて争奪戦さ」

「アンナさんも参戦するんですか?」

「勿論!薬草を使った飯もあるからね」


薬膳ってやつかな、それかバジルとかローレルが薬草カウントとかそういう感じ?まぁそれなら私も見ておこうかな勉強になるかもしれないしこれもお仕事のうち。始業時間は近いけどこの人混みじゃお店はがらんどうになるだろうから大丈夫、それにぴったり時間通りに営業しなくたって全然文句言われないしね。

並ぶこと15分、意外に列捌きは良いらしくてどんどん前に進んでいく。この周りの人は何なのか聞いてみたら野次馬と購入者が帰らずに見ているんだって、それは流石に仕事しなよ。何でも薬草も上等だけどこれを逃したらもう見られないくらいの美形が売ってるとか。大袈裟だなと私は肩をすくめてみた、私だってちょっと前なら興味を持ったかもしれないけどサリバンさんにサリィさんをみた後じゃ大体のヒトがカボチャって感じでそそられなくなったんだよね。うーん枯れてる、でも実際あの2人より綺麗なヒトいなそうだし仕方ないよね。そんな事を考えていたらついにアンナさんの番が来た、そしてその冒険者を見た私は絶句してしまう。


「チッス」

「何やってんですか!!!」

「端金ほしさに…」


魔王様がシャツと皮の鎧とズボンっていう旅人スタイルで立っていたのです、うん。確かに美形ですね、あの2人の次くらいにね!働きたい働きたいっていってたけど本当にやるとは、完全に油断していた。思わず食ってかかるとアンナさんが驚いたように目を丸くしている。


「おやハナコ、知り合いかい。随分男前じゃないか!」

「やめてくださいよ!そういうのじゃないですから」

「どうだかねぇ」


私の必死の否定にアンナさんはニヤニヤ笑った、いかん、必死すぎて逆にそういう感じに見えないこともない。でも本当に無いんです、何故なら相手は魔王でついでに凄いイケメンなので私のようなモブとそういうことになるわけないんです。そんな言葉には出せない理由をぐっと飲み込んで元凶に一歩近付いた、野次馬達も私達の会話を聴き逃すまいって感じに耳を傾けている。


「大体なんでカロン村に来るんですか!働くなら他のところで働いてくださいよ!」

「いやぁ、先の舞踏会で顔がまあまあ割れてて」

「あぁ…いや嘘付けぇ!それくらい変装できるでしょ!」

「おっ、鋭い」


私の指摘に魔王様は楽しそうに指を鳴らしウインクした、完全な思いつきでやって来たみたい。勘弁してほしいと溜息をついた。アンナさんは後ろを一度振り返ってこれ以上立ち話はいけないと思ったのか簡素な木箱の上の薬草の一つを指差した。


「色男、そこのを1束おくれ」

「ハナコの知り合いなら銅貨30で」

「ありがたいけどあんた、よそで騙されないように気をつけなよ?」

「ははっ、お前は店やってんだって?あとで寄っていいか」

「サービスするよ」


瑞々しい薬草を売ってもらったアンナさんの顔は晴れやかだった、さて私は従業員としてついていくべきなんだけどこの人何するかわかったもんじゃないしな。不安げに魔王様を見ているとアンナさんは昼までに来ればいいと耳打ちしてくれた。なんて有難い、深々とお礼をして私は魔王様の横に立つことにした、第2窓口ってやつです。その後もサクサク列は掃けていき1時間後には並んでいた全員にいきわたり薬草は一つもなくなった。まるで最初から誰が何を選ぶか分かってたみたいだけどいくら魔王様でもそこまで凄くない…よね?空になった木箱を見て魔王様は伸びをした、周りの人々、特に若い女性は話しかけたそうにしていたけど魔王様がチラリとでも見るとさっと視線をそらしてしまう、緊張する必要なんてないんだけど仕方ないのかも。下手したら並みの女の子より睫毛長いからなこの人は。


「完売御礼!」

「もー…あれ中庭のですよね?」

「そうそう、正規ので売ったら金貨5枚は下らないぞ」

「この村めちゃくちゃにする気ですか」

「まさか。何のために通りすがりの冒険者装ったと思ってる、村だけで使い切ってくれるさ、駄目押しにまじないもちょっとかけてあるからな」


シレッというのが怖い、まじないって漢字で書いて呪いなんだよなぁ。まぁ魔王様に限ってそのまま殺すってことはないだろうしおまじないの効果が薄いこともないだろう、と無理に納得する。お城の中庭は私が以前野菜畑の申請をして却下された場所でどちらかというと薬草園みたいなことになっている。見たこともないものも生えていたけど、サフラン、カモミール、バジル、ローレル、ミントなどなど見覚えのあるものがあったので料理を作るときにたまに拝借してる。もちろん質の良さは折り紙つき。すぐに育つから痛くもかゆくもないんだろうけどお金があるんだから稼ぎに来ないでほしいんだよね、宝物庫だっていっぱいなんだし。


「そういえば宝物庫に色々増えてましたけどあれは何なんですか」

「あれは褒賞。問題を片付けたら神から貰えるんだよ」

「下請けみたいですね…」


三大始祖は神様のお願いで厄介ごとを解決するらしい、勿論そのご褒美があってガルム様は10mはある宝石やら山やらをもらっているんだって、スケール感が凄いな。でも魔王様には物欲というものがないらしくいくらあっても構わないものって申請して結果宝物庫は溢れているんだとか。そろそろいくらあっても困るものになるんじゃないかな。


「ところで飯食おうぜ、奢るから」

「私これからバイトなので、運ぶ方です」

「じゃ連れてってくれ」


調子のいい魔王様に呆れたけどこの人が自由気ままなのは今に始まったことじゃない、ちょっと前までは優しいなって思ってたけど随分扱いがぞんざいになってきている。大恩人なんだけど、どっちかというと感覚が友達よりなんだよね。ため息をついてまだ残っていた人の群れから魔王様を連れ出した。







「よ、アンナから聞いてるぜ。安くしとくから寛いでくれや」

「悪いな、じゃおすすめ作ってくれ」

「あいよ」


ヨハンさんの店には既に魔王様待ちと見られるお客様がいた、アンナさんと、というか私と話し込んでいたからこっちに来るんじゃないかってあたりをつけてたんだろうね。私の顔モブだけど雰囲気が違うからこっちだと目立つし他の店のお手伝いをすることもあるからカロン村ではそこそこ名前を知ってもらえている。いい人揃いだしサリィさんのいう通りここに来てよかったな。

魔王様がテーブルに着いたのを確認して私も仕事を開始する、先客に出された料理を手に配膳作業。魔王様はすっかり村人に囲まれてあれやこれや話している、それはいいんだけどどこに運んだらいいかわからないからあんまり移動しないでほしいなぁ。盛り上がる魔王様のテーブルをジロリと見て次のものを運ぼうと厨房へ向かうとアンナさんに腕を掴まれてしまった。


「ハナコ、あれとはどういう関係なんだい?」

「それまだ続いてたんですか!?全然違うって言ってるじゃないですか、私みたいなのが魔王様となんて釣り合いませんよっ!」


おばちゃんって恋バナ好きだよねえ、アンナさんに悪気がないのは分かるけど勘弁してください。うんざりした顔でアンナさんを見つめ返すとなんだか怪訝な顔で私を見ている、あ、しまった、私今魔王って言っちゃった。さっと全身から血の気が引く、ついでに背後からもお前何言ってんのオーラが届いている気がする。


「魔王…?」

「マ、マオ様っていうんですよ!!名前!!」

「なんで様付けなんだい…?」

「そ、それは…」


ちら、と背後を伺うと半目になっている魔王様と目があった。自分でなんとかしろって顔ですね、魔王様は普通に優しいけど全く過保護ではないし自分のやったことは自分でっていう筋の通っている人だった。唾を飲み込み頭をフル回転させる。アンナさんの耳に顔を寄せて少しだけ小声がちに話しかけた。


「その、これは極秘なんですけど…」

「お、いいね、聞かせとくれ」

「…マオ様はですね、めちゃくちゃ強い冒険者の方なんですが、事情があって隠れているんです。私がこっちに来た時偶然会って命を救ってくださった恩人なんですよ」

「へぇ!ヒョロッとしてるけどねえ」

「じゃなきゃあんないい薬草持ってないと思いませんか?」

「なるほど、そういうことかい」


めちゃくちゃ強いのも事実、カンストしてるし。事情があるのも事実、大暴れして世界滅ぼしかけたし。命を救ってもらったのも事実。うん、一言も嘘は言ってない完璧な言い訳だね。アンナさんは事情持ちって説明からそれ以上踏み込む事もせず探りを入れる事もなく仕事に戻ってくれた。あっさりした態度的に、私と魔王様がそういう関係じゃないってことも多分薄々察してたんじゃないかなって思う。ヨハンさんに呼ばれたので厨房に向かうと羊肉のシチュー、魔王様が頼んでおいたオススメが出来上がっていた。ちょっとだけお肉が多いのはサービスのつもりなんだろう、少し嬉しくなって人だかりの中へ向かう。私が近寄るとお客様はさっと避けてくれてテーブルまでの道を作ってくれた、こういう事をされると怒れないよね。苦笑を返してシチューを魔王様の前に置く、きっとこれも魔王様が作った方が美味しい事になるんだろうけど余計なことだけは言わないでほしいな、ちょっとだけ目を細めてにらんでおく。


「来るなら次からちゃんと言ってください」

「もう来ないって。散歩ついでだったしな」

「そうなんですか。えっと魔、マオ様はお金集めて何がしたかったんですか?」

「内緒」


もう来ないという言葉に反応したお客様方は不満の声を漏らし1人は魔王様に肩を組むようにくっ付いた。どうやらここの村人に好かれたらしい、薬草目当てかもしれないが全体的に魔王様を見る目は親しみを感じた。囲っている相手が本物の魔王だなんて知ったらこの人達どんな反応するんだろう。この優しい人たちに優しい人が怖がられているのは見たくないかもな、惜しんでいる人には悪いけど来ないという言葉に安心している私がいる。そして内緒だといたずらっぽく笑った魔王様にちょっとだけ不安になったのでした。





「ケーキ!!!」


お城に帰った私を待っていたのは小さなホールケーキだった、3人で食べたらすぐに無くなってしまいそうだったけど久々に見るスイーツに私は大はしゃぎしてしまった。魔王様の内緒の答えは、今マリエラ王国って国で活発になっているお菓子だった。マリエラは文化的なところに力を入れているらしくて製菓もその一つで、この間大量に持ち帰ってきたアイスもそこのものだったとか。そこでケーキの話を聞いて買ってみたくなったのでお金を稼いだっていうわけ、やっぱり甘いもの好きなんだなぁ。分かる分かる、しみじみ頷き綺麗な真っ白いクリームを見つめた。この世界で食べられると思ってなかったな、3人で食べるケーキは少しだけパサついていたけれど思わず頬を抑えてしまうくらいに美味しかったのでした。


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