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気まずい話を聞きました

疲れた様子の魔王様が謁見の間でかなりだらけていた。ここ最近なんかふらふらどっかに出かけてはイライラしながら帰ってくるんだよね。そういう時には甘いものっていうし、優しい私はシロップ漬けをお裾分けしてみたのでした。ふふ、そう、お砂糖も果物も買える程度には生活に潤いが出てきたのですよ。まだケーキとかジャム作るほどの余裕はないけどね。シロップ漬けを食べた魔王様はちょっと驚いた顔をした後に神妙な顔で呟いた。


「俺も働こうかな」

「……気になってたんですけど、魔王様はもしかして無職なんですか?」

「もっと言い方ないか?いや、無いか……」


宝物庫見るにわざわざ働く理由なんてないんだと思うけど、使えるお金が無いんじゃ何の意味もない。とはいえ魔王様にぴったりの仕事って何なんだろう、大体どれも成功して大きいお金が増えるだけの気がするし、バイトって似合わないにもほどがあるし…小銭稼ぎが難しいってどういうことなんだろう。

この世界、ファンタジーに相応しく冒険者ギルドっていうのがあって流れの人たちが薬草集めたり魔獣とか山賊を倒したりして資金を稼いでるんだって。高ランクになる程報酬は高いけど常に生死が関わるってやつ。いやぁ、レベル999の魔王様じゃ大体ぬるいだろうし、魔獣は倒せないだろうし薬草集めかな…いや薬草集める魔王ってどうなんだ?


「そういえばサリィさんは何かお仕事してるんですか?」

「んー、痛い話されちゃったわね。私仕事から逃げてここに住んでるみたいなものなの」

「え、ブラックだったんですか!?」

「ブラック…というのがどういうことか分からないけれど、とにかくつまらなかったのよ」


意外。夢魔って悠々自適にその…自由な生活送ってるイメージだったんだけど、それも偏見だったんだね。反省。

サリィさんは遠い目でストバイト大陸と海を挟んで東にあるナイシェン大陸にある小国フィーについて話しはじめた。けどフィーは国として独立したわけではなく周囲の国が被害を免れる為に国境を制定したんだそう。どんな凶悪な国なのかと思ったけどそこに住んでいるのは魔法に優れたわけでも武術に優れてもいない兎人族という話、前に濁された獣人だね。

で、何故兎人が危険なのかというと………非常に………盛んなのらしい。何がとは言わないけど、赤ちゃんがよく生まれるんだそう、何故かはいわないけど。そういう系の犯罪者でもフィー送りにすると泣きながら大暴れして全力で拒むレベルだとか。うん、なんというか衣食住、原始的な欲求以上のものを望まないマイペースで人の話を聞かない種族だから周りが巻き込まれたくないんだって。凄いなぁ、無力なはずなのにな。というかそれで成り立つのかな、社会。


「言ってなかったけれど、私達夢魔はね、兎人族を間引く為に作られたの」

「え!?」

「あぁ、夢魔のやり方で、よ?」

「……に、妊娠させるとか、ですか?」

「え?…あ、そっか、そういう風に伝わってるって事ね」

「あ、違うんですね!?ごめんなさい失礼な事を!!!」

「違うわ、そんなことしたら増えるだけっていいたいの」


話題が話題なだけに言葉選びに困るよ!恥ずかしいよ!頭悪いことに事実だから余計意味わかんない!混乱する私を遠くの玉座に座る魔王様がぬるい眼差しで見ている。今なら分かります、濁された理由。うさぎ好きなのになんか裏切られた気分だよ…え、見た目は基本的に極上?そっか、でも中身で台無しじゃないかな、うん。


「私達の仕事はね、やつらを廃人にすることよ」

「…………あ、もっと過激なんだ」


サリバンさんが夢魔はヒトの…そういう欲を食べ物にするって言ってたけど私がイメージするレベルじゃなかったんだね、食い尽くす感じなんだね。兎人は原始的な欲求に弱いから、それを失ってしまうとなると普通のヒトよりも深く絶望して廃人になってしまうんだって。まぁ兎人は凄く自堕落な生活をしているから長生きはしないんだけどそれでも人間よりは長生きだし、どんどん若者が生まれるからそういう介入でもしないとすぐにフィーに収まりきらなくなるんだそうだ。聞いてるうちに夢魔がトラブルシューターというか事務職に見えてきたな、淡々と仕事処理してる感じの。


「もう、本当に辛かったの!例えるなら脂肪しかないステーキを毎秒食べさせられるようなものよ!」

「う、うーん、胸焼け起こしそうですね」

「本当にそう!だから脱走して人間の国に来たってわけ。食べ物は多いもの」


まぁそりゃそうだよね。勝手に適当な種族だと思ってた私が申し訳ないよ、夢魔って辛いんだなぁ。こっちの世界にはなんていうか都合のいい解釈で伝わってるんだね、まぁ廃人にされちゃたまらないけど…あれ、待って?サリィさん達の食事がそういうもので、でも兎人が嫌になって出てきて、人間の国がフィーよりマシだけど食べ物が多いって、えー、あんまりこの予想当たってほしくないんだけどな。複雑な表情でサリィさんを見ると困ったように微笑み返されってしまった。


「この世界では人間は兎人に次いで変態なのよ」

「…えぇー」

「いやマジマジ。他の種族と交わりたいなんてこと考えるの人間だけだから」

「ケーキバイキングに変わった感じね」


なお兎人は気持ちがいいならなんだっていいらしく、見方によると拘りがあるだけ人間の方が変態に見えなくもないとかなんとか。いや欲望の際限のなさは種族一の自信がありますよ!高次の欲求を持つ自信はありますよ!…いやこれはこれで強欲なだけじゃん!いいところないな人間っ!頭がいい種族も他にいて、強い種族もいて、繁殖力で言えば兎人だし、プレーン過ぎてなんてつまらないんだろう。思わずがっくりと肩を落とす、私は、田中花子は凡庸な自覚はありますが種族そのものが平凡と言われてしまうとかなり悲しいものがあります。


「なんか…すごい貶された気分」

「大丈夫よ、ハナコは」


何が大丈夫なんだろう、いやあんまり考えないようにしよう。うじうじしても暗くなるだけだからねこういうのは。頭空っぽで慰めを受け入れるのが一番良いのです。にしてもサリィさんが逃げ出した理由はわかるし、ストバイト大陸まで来た理由もわかったけど魔王城にいる理由ってなんなんだろう、ヒトがいっぱいいる国にいた方が色々不便はないんじゃないかな。気になったので聞いてみることにした。


「えっと、なんでここに来たんですか?」

「んー…そうね、彼から聞く方が早いと思うわ」

「おい」


急に話題を振られた魔王様はジト目でサリィさんを睨んでいた、もっともサリィさんにはまったく効いてなかったけどね。


「ま、いいや。任せた方が話こじれそうだし。こいつ俺にターゲット定めてきたんだよ」


サリィさんはまず適当な人間で小腹を満たしていたけどフィーと違って平和な大陸でやがて刺激がほしいと思うようになったらしい。まだ魔王様の話が言い伝えだった頃、冒険をしてみるつもりで魔王城に忍び込んだんだとか。魔王城の結界はあくまで人間を寄せ付けないものだから魔性はちょっと頑張れば入り込めるんだって。それはどうなんだろう、もうちょっとやる気ある結界にする方がよくないかな。それで魔王様を食ってやろうと夢に入り込んでみたんだけど、少しも吸い取れなかったどころか縛られて身動きを取れなくされてしまったんだとか。うーん、やっぱり勇者に負けても魔王は魔王ってことか。サリィさんはなまじフィーではエリートだった為にその経験が悔しくて悔しくて絶対に廃人にしてやるという強い決意を持ってここに留まることにしたんだそう。えーなんか殺伐としてるぅ。


「わぁ…」

「いいこと?恋とか愛とか甘ったれた理由でいるんじゃないわ、私のプライドの問題なのよ」


笑顔が怖いよ。


「私、勝手にサリィさんと魔王様がそういう関係だと思ってました」

「節穴か?」

「だって美男美女が仲良しなままって現実的じゃないんですもん!」

「そんなことないだろ、サリィもサリバンも俺の友人って事には変わりがない」

「だからあなたって童貞なのよ」

「なんだよ、なんか悪いか」

「相性的に悪いわ」

「どっ…」

「そんな反応する?お前だって26にもなって結婚してないらしいじゃんか」

「魔王様、最低ですよ、セクハラです。殺意湧きました」

「なんで!?」

「7000歳に言われることでもないわよねえ」


何一つ言い返せないし、この世界の常識として15歳が成人で遅くても20歳には結婚するってことも習ったので知ってる。知ってるけど彼氏いない歴=年齢の人間に結婚の話だけはしてはいけないのです。魔王様には常々お世話になっていますが決して水には流すまい。


「そもそもだなー、俺に子孫を残す必要はない」

「つくづく思うのだけど、化石なの?」

「うるっせーな、もう!はいはいお終い!ハナコが困ってるだろ」

「別に」

「え、何で怒ってんの?」


女性に対するマナー講座というのを作って魔王様に受講してもらうのはどうかな、うーん、なかなか名案。サリィさんと一緒に何も分かっていない城の主人を置き去りにして私はそんな事を考えたのでした。



夢魔の性質上、アレな話が出てしまうのが難しい。

念の為下ネタがあることを明記することにしました

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