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Sea Labyrinth Online  作者: 山外大河
二章 浸食の聖域
16/21

3 再起

 随分遅くなってすみません。

 三層のモンスターが東フィールドに出現した。

 それは即ち、今回の一件を受けて攻略に乗り出す為のレベル上げに、東フィールドを使えなくなったという事だ。

 まあ元々タイムリミットは一週間。そんな状態では東フィールドでレベルを上げている時間はないかもしれないが、レベル2、3のプレイヤーが西フィールドに出向くというのは、デスゲームと化した今の精神状態では無謀に近いだろう。

 でもそれ以上に……、


「……東フィールドの穴からモンスターが出現したんだったら……西フィールドにも三層のモンスターが出現するんじゃないのか?」


「うん……多分ね」


 まあそうだろう。

 おそらく俺とハリスさんが目撃した穴は、そもそも街の中に現れた物なので、モンスターは出てこないだろう。だけど西側は……普通にモンスターが出現するフィールドだ。東に出現して、西に出ないほうがおかしい。


「それでそうなったら……まともにレベルを上げる事ができなくなるよ」


 そういう事になる。

 安全マージンを考えて、戦っていたフィールドに、圧倒的格上のモンスターが出現する。そんな状況でまともなレベル上げができるわけがない。


「つまりは……東、西、北。全てのフィールドが危険な状況って事か」


 三層のモンスターが出現している東、西。そして元々強いモンスターの出現する北。その全てが手に負えない程の難易度となってしまっている。

 そんな状況下で、俺達にはタイムリミットが出現した。

 一体……どうすりゃいいんだ。


「ユカ……今の攻略組みの戦力で、北フィールドの……いや、このフロアのボスを倒すことはできないのか?」


 俺の問いにユカは首を振る。


「レベルはともかく……人数が足りないよ。ある程度は持つだろうけど、多分勝てない」


「そうか……」


 つまりこの状況を打破するには、俺みたいな街に残留した人間も,攻略に参加しなくてはならないという事だ。

 だけど……レベルはどうする。

 東、西フィールドの危険は増した。北も強い。街で得られる経験値は少ない。

 北フィールドでも、攻略組みの面々とパーティを組めば、パーティでは経験値をレベルの高い者から多く分配するというシステムがあっても、それなりに稼ぐ事ができる筈だが……そもそも攻略組みの人数は少ないし、時間だって全くない。


「これは……腹くくらねえといけねえな……」


「ユウキ君も……戦うの?」


 この状況下において、誰かがやってくれるという理念はもう通用しない。

 もう……やるしかないんだ。


「それ以外……選択肢が無いだろ」


 もう退路は絶たれた。

 もう戦って死ぬかもしれない道か、待って死ぬ道しか残されちゃいない。


「ユウキ君」


「なんだ?」


「キミは私が守るよ」


 その言葉に思わずドキっとしてしまう。

 この言葉と似たような事を、昔何かのアニメのキャラが言っていた気がする。なんのアニメだったかはよく覚えていない。

 だけどまあ、とりあえず……心強く、そして前へ踏み出す力を与えてくれるような……そんな言葉だった。

 だからこそ、俺も自然にこんな言葉が漏れ出した。


「俺も……ユカが危なかったら、絶対に守ってやるよ」


 それは正直無理な話だ。

 俺のレベルは3で、寧ろユカに守ってもらわなければ、生き残ることは難しい。だけどユカはそんな、できもしない俺の言葉を笑う事もなく……いや、正確には笑って。薄っすらとした笑みを浮かべて、俺にこう言った。


「もう……私は十分に守ってもらったよ」


「いや、別に俺は何もしてねえよ」


「ううん。ユウキ君が私の頼みを断ってくれなかったら……もう私はこの場にいないんだよ?」


 もう何度聞いたか分からないその言葉。

 だけどそれでも、コレを聞くために、俺は一人の女の子を守ったんだっていう愉悦に浸れる。

 そして毎度毎度、同じ事を同時に考える。

 ……それじゃ駄目なんだ。

 俺が剣を取って前に出て、本当の意味で守ってやらないといけないんだ。


「……じゃあコレからも消えない様に……また守ってやるよ」


 もう守られてばかりじゃいられない。いたくない。

 そう考えると……寧ろこの状況は、絶望的でありながらも、幸運だったのかもしれない。

 俺はこれでようやく……強制的ではあるが、守られるだけの情けないクズ野郎から抜け出せるんだから。


「ユカ、とりあえず街の中心部に戻ろう。此処にいたって何も始まらない」


 まずはこの一月、クエストや魚を売ることで貯めた、さほど多くない貯金を叩いて、店売りの装備を買おう。モンスタードロップの素材で作る物と比べれば、若干見劣りするものの、初期装備のままの今よりは、圧倒的にステータスが変わるはずだ。

 ……っと、その前に。やっておかないといけない事があった。


「ユカ。あの時みたく、またシステムメッセージを送れるか?」


 一層攻略のタイムリミットは、あと一週間しかない事。現在東と西フィールドには三層のモンスターが出現していて危険な事。

 戦わなければ、あと一週間で死んでしまう。それさえ分かれば、俺の様に戦う意思を見せる人間だって、大勢いるはずだ。

 ユカも俺の言いたかった事を読み取ったのか、巨大なウインドウに何かを打ち込んでいく。

 やがて、俺にもそのシステムメッセージが届いた。


 ――現在東フィールドと西フィールドに、三層のモンスターが出現しています。そして現在漏れ出している海水は、約一週間程で、2メートル程に達してしまい、そうなると全員が溺れ死にます。そうならない為にも、即急に攻略を進めてください。


 コレを見た他の連中達は何を思うだろうか。

 あと一週間で、この階層をクリアしないと死ぬ。

 その現実を突きつけられて、始まりの街を出る人間はどれ程いるだろうか。

 とりあえずは……一月前のあの時よりかは多くなっているのではないだろうか。

 そしてソコには……俺がいる。

 ようやくの場所に立つことができた。


「じゃ、行こう、ユカ」


 システムメッセージを打ち終えたユカに、俺はそう声を掛ける。


「うん、行こっか、ユウキ君」


 そう返すユカの表情は、この状況に責任を持ってか、相変わらず辛そうだけど、それでも……ほんの少しだけ。本当に少しだけだが、嬉しそうだった。

 そんなユカの顔を少しだけ眺めた後、俺は街の中心部に視線を向け、歩き始めた。



「なあ、ユカ」


 もう中心部に近くなってきて、タイムリミットを宣告され、パニック状態になりだしたプレイヤーの声が聞こえるようになった頃、俺はふとこんな事をユカに尋ねた。


「もしこの一層を無事に突破する事ができたら……次の二層に海水が到達するまで、一体どのぐらいの時間が掛かると思う?」


 正確には、この一層の高さはどのぐらいあるのかという質問だ。それによって、二層に水が到達するまでの時間が変わってくる。


「一応どの層にも空はあるけど、流石に現実みたいに広大な物じゃないよ……っていっても、私は現実の空っていうのを、実際に見たことは無いんだけどね」


 ユカはそう苦笑いした後、俺の求めていた答えを示しだす。


「格層のオブジェクトによってバラつきがあるけど、とりあえず特に高い建物もダンジョンも無い一層は、せいぜい25メートルって所かな」


「25メートル……単純計算で、12、3週間……一月で埋まるって事か」


「でも……連鎖するように、他の所にも穴が発生する可能性もあるから、もう少し縮まると思うよ」


「そう……だよな」


 タイムリミットが縮まる。それはこの一層攻略の際にも起こりうる事態だという事は、忘れてはならない。いつ穴が開くかわからない以上、現状での予測の一週間という期間が狂わないという保障は無い訳だ。


「まあとにかく一週間。それまでに一層をクリアしねえと」


「そうだよね。一層をクリアしないと、何も始まらないよ」


 寧ろ……終わっちまうからな。

 俺達はそんな会話を交わしながら、街の中心部に向かって歩く。

 そしてその間に、改めて心にこう刻み込んだ。


 ……今度はもう逃げださない。


 俺は静かに拳を握り締めた。

 リアルが忙しくなってきましたが、週1から2回位は投稿したいですね。

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