4 戦いの前に
街の中心部に戻って最初に目にした光景は、あの時と同じようにパニック状態になっているプレイヤー達。
しかし……あの時とは違う事もある。
「やっぱ……俺とかと同じ奴もいんのな」
ある程度落ち着きを取り戻し、今後の事を話し合っているプレイヤーが、そこら中にちらほら見えた。
聞こえてくる単語をまとめる限り、攻略に関する話だろう。
「さあ、これからどうする、ユカ」
今回の攻略の柱となるに違いない、ハリスさんあたりを探してみるか……いや、それよりも先に。
「とりあえず……武器屋行くか」
何度も言うが、初期装備のままではどうにもならない。高付く上に性能もいまいち。だけど初期装備よりもいいはずだ。
「あ、それだったら……私、昨日の狩で取った要らない素材、まだ売ってないんだけど……使う?」
ここで思わぬ申し出。
「え、マジでいいのか!?」
「うん。いいよ。私も後は売ってお金にする以外に、使い様が無いから」
「さ、サンキュー、ユカ!」
まあレベル3で作れる装備なんて限られては来るが……それでも、西フィールドの序盤あたりの装備なら、まあ作れるとは思う。
そしてユカ達は、その辺で狩りをする事も多い。つまりは俺の求めるレベルの装備を持っている可能性は高いし、俺のレベルを知っているユカがそう申し出るという事は、実際に持っているのだろう。
「でも、いいのか? 一応金は食ってく為の生命線な訳だし……」
SLOには空腹システムと呼ばれる、厄介なシステムが存在する。
腹が減りすぎるとパラメーターが現象し、極度の空腹状態になればHPも奪われ、その状態を放置すればその減るスピードも加速し、場合によっちゃゼロになる。デスゲームとなった今、そうなった場合、リアルに死が来るわけだ。
そういう意味では、始まりの街残留組は、戦闘による死はまのがれても、クエストを要領よくこなせず、金が無くなり餓死という危険性は孕んでいた。まあ流石にソレで死んだプレイヤーはいないだろうが。
まあそんな訳で、お金はいくら持っていても余る事のない。そんな存在なのだ。
「まあお金は大事だよ。だからね、普通は上げないよ。でも私達は友達だから。困っている友達を助けるのは、当然の事だよ」
そう言ってユカは俺に笑顔を振りまく。
それはこのデスゲームが始まってから、よく見せていた様なつくり笑顔ではなく、たまに話していたりしてる時、プログラムとしてではなく、一人の女の子として見せる笑顔。正直、すげえ可愛かった。
「お、おう……マジでありがと」
とりあえず照れ隠しで頬を掻きながら、視線を逸らす。
そして逸らした先に……ヨウスケとチカを見つけた。
俺がその事をユカに伝えようとするよりも早く、あちらがこちらに気づき、進路を変えてこちらに向かってくる。
「おーい、ユウキー」
チカと共にこちらへ小走りで走ってくるヨウスケの顔表情は……なんとなく青ざめている気がしないでもなかった。
まあそうなるのも当然の話だ。寧ろ青ざめながらも、ある程度落ち着いて行動しているという事は、まあヨウスケもただのヘタレではないという事だ。伊達にあの状況で弱者狩りの大骨を前にして、チカの盾になるだけある。
「よう、ヨウスケ」
「おう……って、なんでお前この状況で、普段より顔明るいんだよ」
「まあ……この状況で、逆に決心が付いたというか……ヨウスケ、お前は?」
「……ヨウスケさんは戦うって言ってましたよ」
俺の問いに答えたのは、青ざめたヨウスケではなく、いつも通り無表情なチカだった。
「……さっき一緒に居た時、あのメッセージが来て……その時言ってましたから」
そこまで言った所で、ヨウスケの顔がぽっと赤くなるが、そんな事にも気づかず、チカはその続きを述べる。
「……此処に居てもしょうがないから、一緒に戦おうって。危なくなったら俺が守るって」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ。なんか恥ずかしいからソレ言うの止めてチカちゃんんんんんんんッ!」
ヨウスケが頭を抱えて悶え、ソレを口にしたチカもなんとなく顔を赤らめている。
もしかすると……お互い、いい感じの仲なのかもしれない。
改めて考えると、チカにとってヨウスケは、自分の命を救った恩人で、それに加えて後追い自殺を止めようと必死に説得をしてくれた人間でもある。
逆にヨウスケも、チカの様な性格の子が好みだったりする。コレに関しては、リアルでの付き合いがそれなりに長いから知っている事だ。
「あー、やばい。すげえ恥ずかしい。なんだコレ……」
「一旦深呼吸をしたらどうかな」
「そうだね……よし」
ユカの助言を受けて深呼吸したヨウスケは、ある程度の落ち着きを取り戻したようだった。
「……で、ユウキ。お前らはコレからどうするんだ? 決心が付いたって事は、戦うんだろ?」
「……まあな。だから今から、装備調達に行く所」
「ああ、なる程……ちなみに、俺はもう行ってきたぜ?」
「あ、本当だ……ヨウスケ君の剣が杖になってる」
初めて狩に行ったとき、ヨウスケは剣士を辞めると言っていたからな。そこは絶対に変えるよな。
「お前ソレ武器屋の?」
「……まあな。お陰で、この一月で溜め込んだ財産のほぼ全部を失っちまったけど。それでもこの杖と、あとは服。この二つは武器屋で最高の物を買ったぜ」
そういえば、ヨウスケの服が変わっていた。
一層の、しかも店売りだからか、初期装備とあまり外見は変わらない。ただ、魔術師らしくフードが付いている。
「まあできれば、その他も揃えたかったんだけど……流石に資金が尽きた」
「……右に同じです」
そういうチカの服も、僅かだが変化があった。少し華やかになっているその服は、恐らく初期装備と比べると、防御力は高いのだろう。
「で、ユウキも今から装備買いに行くのか? 見た所、まだ初期装備みたいだし」
「いや、工房。ユカが少し素材余ってるからくれるみたいでさ」
「へえ、よかったじゃん」
「まあ全部作れるわけじゃないだろうから、ある程度は店で買うと思うけど」
ユカの素材だって無限にあるわけじゃないしな。工房で何か作って資金に余りが出たら、とりあえず他の装備は店で補う事になる。
「まあとりあえず、行ってくるわ」
「分かったよ。じゃあ俺達は街の中心部の広場に行ってるよ。そこで何か会議みたいのやるらしいからさ」
「分かった。じゃあ俺達も、装備揃えたらそっち行く」
「さっさと揃えて来いよなー」
ヨウスケがそういい残して、チカと共に中心部の広場に向かっていく。ちなみに個々まで青い顔継続である。
「……ヨウスケの奴、大分無理してないか?」
「そうだね……やっぱり、無理させちゃってるかな」
ユカが責任に押しつぶされるように俯く。
そんなユカに、俺はこう言ってやる。
「ユカ。これ言うのは久々なんだけどさ、やっぱりお前は悪くないんだよ。確かにアイツは無理してるだろうけどさ、お前は関係ない。寧ろ率先して攻略しようとしているお前は、この世界で誰よりもいい奴なんだぜ?」
「そう……なのかな」
「ああ。お前は責任感じてそうしてるんだろうけど、お前がこの一月やっていた事は、確かに誰よりいい奴だったんだ。寧ろ胸を晴れよ」
「……うん」
ユカはそう言って、少しだけ顔をほころばせるが、きっと内心は責任で押しつぶされそうなんだろう。
もし……無事に一層をクリアできたら。少しはユカの責任を取り払えるんだろうか。
「……ユカ」
「なにかな?」
「頑張ろうな」
俺達の開放に繋げる為。ユカを楽にしてやるため。
俺は改めて決意を口にした。
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「ところで、ユウキ君は何を作るのかな? 私の持っている素材だったら、精々一つが限界だと思うけど」
ユカは工房で、俺にそう聞いてくる。
「まあとりあえず刀を作る。多分だけどな、この低レベルで北フィールドに出て、モンスターの攻撃を受けたら、たとえ装備がある程度よくても、致命的なダメージになるんじゃないかと思う。だから下手に防御力を上げるよりも、攻撃力を底上げするべきじゃないかなって思うんだ」
まあこのデスゲームと化したSLOで、防御力を上げないなんてのは、死に直結する行為だ。だけども、低攻撃力で地味な攻撃を与えていたって戦闘が長引くだけだ。それよりも、攻撃を避けて高いダメージを与えた方が、よほど安全に思える。
攻撃は最大の防御という奴だ。
「それに、ヨウスケの奴はどうも売っちまったみたいだけど、俺はまだアクアシープや弱き者の残骨の素材が残っている。だからこれ使えば、店売りのよりかは、ちょっとだけマシな装備が作れるんじゃないかなって思うんだ」
現在持っている素材は、《アクアシープの薄皮》《アクアシープの角》《細い骨》を各種数個ずつ持っている。
売ればそれなりの金になるものの、結局戦わない事に後ろめたい思いをしていた俺は、この素材を売れなかったわけだ。
「だからとりあえず武器を作るよ」
「うん。じゃあそれにしよっか」
そういう訳で、俺はまだ見ぬモンスターの素材。《アクアラビットの角》《刀剣の破片》《鉄の欠片》を受け取り、工房のNPCに話しかける。
「よく来たな。何を作りたい?」
機械的にNPCがそう述べた後、俺の視界に新たなウインドウが開かれる。
所謂カタログという奴だ。必要な素材と通貨が表示されている。
俺はその一覧から、《海兎の角刀》という名称のカタナを選択する。
すると、ウインドウに『これでよろしいですか?(アイテムと所持金は自動で引かれます)』といったメッセージが現れたので、俺はそのメッセージの下のOKボタンを指でクリックする。
すると持ち物から、ユカからもらった素材と、一月掛けて集めた金が消える。
ちなみにSLOのゲーム内通貨はゼラだ。どういう経緯でそうなったのかは知らない。
そして待つこと一分程。
「待たせたな。コイツが海兎の角刀だ」
正直武器を作るのに一分というのは、全然待った内に入らないのだが、そこはツッコんだら負けなんだろう。普通に考えて、一つの武器を作るのに一時間単位で待たされたら、イライラが半端無いだろう。
「で、これが……海兎の角刀か」
俺はアイテムストレージに入ってきたソレを、装備して手元に出現させる。
なんというか、兎どこ行った! っていいたくなる様な外見で、単純にカッコいい日本刀といった感じ。まあ使ったのは主に角な訳だし、それだけで兎らしさを出せっていうのは、物凄い無茶振りなきがする。
「とりあえず……初期装備よりかは圧倒的に強いだろうな」
初期装備よりかは遥かに攻撃力は高い。その上、海兎の角刀は若干ではあるが、素早さも上げてくれるらしい。防御よりも攻撃を優先しようと考えている俺としては、願っても無い得点である。
俺はしばらくその刀を眺めた後、視線をユカに向けて、改めてこう言う。
「俺はコイツで、ユカを守るよ」
言っていて恥ずかしくなるが、別にかまわない。
大抵の奴は素材を生活費に当てている上に、始まりの街には何箇所も工房があるため、客が分散している。つまるところ、今この工房内には俺とユカしかいないんだ。
いないから、俺はこんなこっ恥ずかしい決意を、改めて掲げられる。
「……たよりにしてるよ、ユウキ君」
「まかせとけよ」
きっと実戦になれば、立場が逆転している事だろう。
だけど……その事実もすぐに逆転させてやる。
俺は……ユカを守る。
ユカから貰った素材で作ったその剣に……改めてそう誓った。
全話から随分と掛ったのに、準備だけで終わってしまいました。
展開速度を少し早めたいですね、ホント。




