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雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【本日完結/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第四章「義の人」

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第52話 八院の決戦

鎮幸は、包囲の中にいた。

前後左右——鍋島の旗。

兵が、じわじわと迫ってくる。

槍の穂先が、光っている。

「……数えるか」

鎮幸は、小声で言う。

隣の家臣が、答える。

「……三百は、います」

「そうか」

「我らは——五十です」

「知っている」

鎮幸は、刀を構える。

恐怖は——なかった。

道雪の頃から、何度も修羅場をくぐってきた。

死ぬかもしれない場所に、何度も立ってきた。

その度に——生きて帰った。

今度も——

「……来い」

低く、呟く。

鍋島の兵が、動く。

「かかれ!」

鎮幸が、駆ける。

包囲の一角へ——真っ直ぐ。

「どけ!」

槍を、薙ぐ。

一人、倒れる。

また一人。

「どけどけどけ!」

しかし——

数が、違いすぎた。

右から、槍が来る。

左から、刀が来る。

鎮幸の具足に——傷が入る。

「くっ——」

馬が、よろける。

「鎮幸様!」

家臣の叫び。

鎮幸は、馬上で堪える。

「退くな——!」

「しかし——!」

「立花が——」

その時。

鬨の声が——聞こえた。

包囲の外から。

「立花——!」

鍋島の兵が、振り返る。

包囲の一角が——崩れる。

立花の旗が、霧を裂いて——現れた。

宗茂が、先頭に立っていた。

「鎮幸!」

「……殿」

「生きているか」

「……生きております」

「そうか」

「……来てくださったか」

「当たり前だ」

宗茂が、鎮幸の隣に並ぶ。

包囲が——揺れる。

「押せ!」

宗茂の声が、野に響く。

立花の兵が、鍋島の包囲へ——食い込む。

鍋島の陣。

物見台。

直茂が、戦況を見ていた。

五十を過ぎた男。

白髪混じりの髪。

しかし——その目は、鋭かった。

「……来たか」

側近が、言う。

「宗茂自ら——出てきました」

「そうか」

「城を、空けて——」

「分かっている」

直茂は、戦場を見る。

立花の旗が、包囲の中で——動いている。

数で劣る。

それでも——

崩れない。

「……やはり」

直茂は、小声で言う。

「この男は——恐ろしい」

側近が、聞く。

「宗茂が、ですか」

「ああ」

「しかし——城を空けた。失策では」

「違う」

直茂は、首を振る。

「家臣を見捨てられない男が——城を守り切れるか」

一拍。

「この男の強さは——そこだ」

側近が、黙る。

直茂は、続ける。

「兵が、この男のために死ねる」

「……はい」

「兵が死ねる将は——強い」

「では——」

「だから——恐ろしい」

直茂は、目を細める。

「……包囲を、解け」

側近が、目を見開く。

「解く——ですか」

「今、無理に押せば——こちらも損耗する」

「しかし——」

「立花は、逃げない」

一拍。

「柳川がある限り——必ずまた戦う」

「ならば——どうするのですか」

直茂は、戦場を見る。

宗茂の旗が——まだ、動いている。

「……兵糧だ」

静かに、言う。

「城を囲む。干上がらせる」

「時間がかかります」

「構わない」

「……宗茂は、諦めませんよ」

「知っている」

一拍。

「だが——民が、苦しむ」

「……」

「宗茂は——民を見捨てられない男だ」

直茂は、目を閉じる。

「それが——この男の、唯一の弱さだ」

江上の野。

鍋島の包囲が——引いていく。

立花の兵が、息を整える。

「……退いた」

十時が、言う。

「ああ」

「追いますか」

「追うな」

「はい」

宗茂は、鎮幸を見る。

具足に——傷が、いくつもある。

「鎮幸」

「はい」

「怪我は」

「……かすり傷です」

「見せろ」

「殿——」

「見せろと言っている」

鎮幸が、具足を外す。

脇腹に——切り傷があった。

深くはない。

しかし——血が、滲んでいる。

「……手当てをしろ」

「これくらい——」

「手当てをしろ」

「……はい」

鎮幸は、しばらく——宗茂を見ていた。

「……殿」

「なんだ」

「城を——空けてきたのですか」

「ああ」

「……無茶です」

「そうだな」

「政治的に——」

「分かっている」

一拍。

「だが——」

宗茂は、鎮幸を見る。

「お前が死ぬのを——黙って見ていられるか」

鎮幸は——

しばらく、黙っていた。

その目が——

揺れた。

道雪の頃から戦い続けてきた男の目が。

五十を過ぎた、古参の重臣の目が。

やがて——

笑った。

「……困った殿だ」

低く、しかし——温かく。

「道雪殿も——そうでした」

「そうか」

「家臣のために——無茶をする」

「……そうか」

「だから——」

鎮幸は、笑ったまま言う。

「誰も、離れないのです」

宗茂は、答えない。

空を——見上げる。

霧が、晴れていた。

秋の空が——高かった。

夜。

陣の中。

十時が、報せを持ってくる。

「殿」

「なんだ」

「鍋島が——柳川を、囲み始めています」

「……そうか」

「兵糧攻めかと」

「直茂殿らしい」

宗茂は、地図を広げる。

柳川の周囲。

水路。

兵糧の備蓄。

「……どのくらい、持つ」

「二ヶ月——あるかないか」

「そうか」

宗茂は、地図を見たまま——

しばらく、黙っていた。

二ヶ月。

その間に——何ができるか。

援軍は——来ない。

西軍は——潰えた。

「……」

城内から——

誾千代が、歩いてくる。

宗茂を——見つける。

「……お帰りなさいませ」

「ただいま」

「鎮幸は——」

「生きている」

誾千代が、目を閉じる。

「……よかった」

小さく、言う。

宗茂は、誾千代を見る。

「誾千代」

「はい」

「しばらく——苦しくなる」

「……はい」

「覚悟してくれ」

誾千代は——

宗茂を、見る。

その目が——揺れない。

「立花の女城主に——覚悟を問いますか」

宗茂は——

少し、笑う。

「……そうだな」

「余計なことを——聞きました」

「はい」

一拍。

「ですが——」

誾千代の目が、真剣になる。

「民を——苦しめないでください」

「……ああ」

「それだけが——お願いです」

宗茂は、頷く。

地図を——見る。

柳川の水路が、月明かりに光っている。

民が、この水路のほとりに——暮らしている。

「……分かった」

立花の旗が——

夜風に、揺れていた。

その旗の下で——

何かが、少しずつ、動き始めていた。

次回、第53話「開城」。

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