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雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記―  作者: 筑紫隼人
第二章「継ぐ者」

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第21話 崩れ

霧が、山を覆っていた。


筑後の戦線は後退し、軍勢は高地へと退いていた。

その中心にあるのが、高良大社。


古くから神を祀るその地は、今や戦場の匂いをまとっている。


だが——その空気は、これまでとは違っていた。


静かすぎる。



「……まだ、目を覚まされぬか」


低く問うたのは、高橋紹運。


傍らに控える医師は、首を横に振った。


「熱が下がりませぬ。ここ数日、ほとんど……」


言葉を濁す。


紹運は、無言で頷いた。



輿の中。


立花道雪は、横たわっていた。


かつて戦場を駆けたその身体は、今は微動だにしない。

呼吸は浅く、時折苦しげに揺れる。


その姿は、誰が見ても明らかだった。


「……殿」


小さく呼びかける。


返事はない。



数刻後。


「……紹運か」


かすれた声が、わずかに響いた。


「はっ、ここに」


紹運は身を乗り出す。


道雪の目が、ゆっくりと開かれた。


その眼光は——まだ、消えてはいなかった。


「ここは……」


「高良山にございます。高良大社の麓にて」


「……そうか」


短く息を吐く。


「退いたか」


「はっ。兵を保つため、やむなく」


「良い判断よ」


即座に返る言葉に、紹運はわずかに目を見開いた。



「柳川は」


「……未だ、落ちてはおりませぬ」


「そうか」


それ以上は問わなかった。


勝敗に執着する様子は、もはやなかった。



沈黙。


外では、風が木々を揺らしている。


「……静かだな」


道雪が呟く。


「はっ」


「戦の音が、せぬ」


「……」


「良いことよ」


そう言って、かすかに笑った。



「紹運」


「はっ」


「近う」


紹運は膝を進め、顔を寄せる。


道雪の声は、もう遠くまで届くものではなかった。


「兵は……どうしておる」


「疲弊は見えますが、士気はまだ保っております」


「……そうか」


「皆、殿の回復を——」


言いかけて、言葉を飲み込む。


道雪は、静かに首を振った。


「それは、違う」


「……」


「兵はな、“先”を見ておる」


その言葉は、静かで、そして鋭かった。



「将が倒れれば、次を考える」


「……」


「それでよい。それが軍よ」


紹運は、何も言えなかった。


理解している。

だが、認めたくはない。



「お主はどうだ」


突然の問い。


「……何が、にございますか」


「儂が倒れた後を、見ておるか」


空気が止まった。


「……そのようなことは」


「ある」


遮るように言う。


「必ず来る」


その声に、迷いはなかった。



「……見ては、おりませぬ」


絞り出すように答える。


道雪は、わずかに目を細めた。


「ならば、見よ」


短く、言い切る。



「戦は続く」


「……」


「龍造寺はまだ折れておらぬ」


その名は出なかったが、

誰のことを指しているかは明らかだった。


(※ここでは敢えて固有名の連発を避けて重さを出す)



「お主が、担うのだ」


その一言が、重く落ちた。


紹運は、うつむいたまま動かない。


拳が、わずかに震えている。



「……できぬか」


「……」


「できぬと言うなら、それでもよい」


その声音は、責めるものではなかった。


ただ、事実を置くだけ。



「だが——」


道雪は、ゆっくりと息を吸う。


「戦は、止まらぬ」


その言葉は、呪いのようでもあった。



外で、風が強く吹いた。


木々が大きく揺れる。


まるで何かが、崩れ始めるように。



「……殿」


ようやく顔を上げる。


「私は——」


言葉が続かない。


覚悟が、まだ形にならない。



道雪は、それを見ていた。


責めもせず、急かしもせず。


ただ、静かに。



「よい」


一言だけ、言った。


「今は、それでよい」



再び、目を閉じる。


呼吸が、ゆっくりと遠のいていく。



霧は、なおも濃く。


山を、軍を、すべてを覆い隠していた。



その中で。


確かに、一つの時代が——


終わりへと、傾いていた。

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【2日で500PV突破!】西国無双・立花宗茂、その圧倒的武勇と義理を貫いた生涯を描く本格戦記。雷神・道雪に拾われた少年が、乱世を駆け抜ける!
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