↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【完結済/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第二章「継ぐ者」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/70

第20話 戦後

筑後の空は、どこまでも低く垂れ込めていた。


焼け跡の匂いはまだ消えず、黒く焦げた柱が、風に軋んでいる。

かつて人の営みがあった場所は、今や静まり返り、ただ灰だけが残っていた。


「……静かすぎるな」


呟いたのは、高橋紹運であった。


その視線の先、緩やかな丘の上に据えられた輿の中に、

立花道雪はいた。


幕がわずかに開き、鋭い眼光だけが外を射抜く。


「静か、か」


かすれた声で、道雪は応じた。


「戦は終わったように見えるか、紹運」


「……いえ」


紹運は首を振る。


「終わってはおりませぬ。だが——」


言葉が続かない。


勝っている。

それは疑いようのない事実であった。


高牟礼は落ち、諸城は降り、筑後の要所は押さえた。

敵は散り、抗う力も弱まっている。


だが——


「終わらぬ」


道雪が、ぽつりと言った。


「勝っておる。だが、終わらぬ戦よ」


その言葉は、風のように軽く、それでいて重かった。


⸻


数日後。


陣は動かず、ただ時間だけが過ぎていた。


前線から届く報は、いずれも小競り合いばかり。

敵を討ち、村を焼き、城を脅す——だが、それだけだ。


決定打はない。


「また、逃げられました」


家臣の報告に、紹運は眉をひそめた。


「兵は減っておるはずだ。なぜ捕えられぬ」


「地の利に長けております。沼と川を縫うように——」


「……柳川か」


低く呟く。


すでに一度、城下は焼いた。

だが、城そのものは未だ健在。


水と泥に守られたその地は、攻める者の足を奪い、

守る者にのみ牙を剥く。


⸻


その夜。


篝火の前に、紹運は座していた。


火の粉が舞い、暗闇に消える。


「……これで良かったのか」


誰に問うでもなく、呟く。


焼き払った村々。

逃げ惑う民。

降る者もいれば、恨みを残す者もいる。


勝っているはずなのに、胸の内は晴れぬ。


「迷うか」


背後から声がした。


振り返ると、輿から降ろされた道雪が、

家臣に支えられながら立っていた。


「御身で出られるとは……」


「座してばかりでは、骨が鈍る」


道雪はゆっくりと歩み、火の前に腰を下ろす。


その動きは重く、かつての俊敏さはない。


「紹運」


「はっ」


「戦とは何だ」


唐突な問いであった。


「……敵を討ち、地を奪い、勝つことかと」


道雪は、かすかに笑った。


「半分は正しい。だが半分は違う」


火を見つめたまま、続ける。


「戦とは、“終わらせるためにするもの”よ」


「……終わらせる」


「うむ。勝つだけでは足りぬ。終わらねば意味がない」


ぱちり、と薪が爆ぜた。


「今の我らはどうだ」


「……勝っております」


「では、終わるか」


紹運は、答えられなかった。


⸻


「終わらぬ戦はな、兵を殺す」


静かに、道雪は言った。


「敵だけではない。味方も、民も、すべてを削る」


その横顔は、炎に照らされ、深い影を落としていた。


「だからこそ——」


一度、言葉を切る。


「終わらせる力が要る」


「……それが、足りぬと?」


「足りぬな」


即答だった。


「では、いかが致すべきか」


しばしの沈黙。


やがて道雪は、ゆっくりと目を閉じた。


「……時間だ」


「時間、にございますか」


「兵を休め、地を押さえ、敵が折れるのを待つ」


それは、攻めではなく、耐えの戦。


「だが——」


道雪の呼吸が、わずかに乱れる。


「それには、長く持たねばならぬ」


「……」


「儂も、お主もな」


その言葉に、紹運ははっと顔を上げた。


だが道雪は、すでに目を閉じていた。


⸻


夜は深い。


火は小さくなり、やがて消えた。


残ったのは、重い静寂だけ。


そしてその静寂の中で、

確かに何かが、少しずつ——崩れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2日で500PV突破!】西国無双・立花宗茂、その圧倒的武勇と義理を貫いた生涯を描く本格戦記。雷神・道雪に拾われた少年が、乱世を駆け抜ける!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。