第19話 秋月への刃
柳川が落ちたことで、筑後の流れは決した。
だが――
まだ“残り火”はある。
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「次は秋月だな」
紹運が言う。
道雪は輿の中で、ゆっくり頷いた。
「うむ。あそこを放置すれば、また火がつく」
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秋月。
筑前と筑後の境に根を張る勢力。
山と地形を活かした守りは堅く、
これまで幾度も大友に抗ってきた。
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「龍造寺の残りと、秋月が結ぶ可能性もある」
紹運の言葉。
「あるな」
道雪は即答した。
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「なら、芽のうちに摘む」
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作戦は単純ではない。
秋月は平地ではなく、山にある。
柳川のように水で締め上げることもできない。
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「正面から行けば、時間がかかる」
紹運が言う。
「時間をかければ、島津が動く」
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その一言で、場が締まる。
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道雪はしばし考え、口を開いた。
「二つに分ける」
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「どう分ける?」
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「儂は正面で圧をかける」
「お前は裏へ回れ」
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紹運がニヤリと笑う。
「山越えか」
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秋月の背後。
そこは険しい山道であり、兵の通行は困難。
だが――
通れないわけではない。
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「通れる兵だけでいい」
道雪が言う。
「速さを取る」
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「了解だ」
紹運は即答した。
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数日後。
大友勢は二手に分かれる。
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道雪の本隊は、堂々と秋月の正面へ。
輿に乗ったまま、ゆっくりと進む。
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「来たか……」
秋月方も構える。
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対して紹運。
選び抜いた兵を率い、山へ入る。
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「ここからが本番だ」
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道なき道。
岩と木々に阻まれ、足場は悪い。
だが兵は進む。
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「遅れるな」
紹運の声が飛ぶ。
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一方、正面。
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「撃て」
道雪の命で、鉄砲が火を噴く。
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激しい攻防。
だがこれは――
本命ではない。
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「引かぬのか」
敵が訝しむ。
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道雪は微動だにしない。
「引く理由がない」
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その頃。
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「……見えた」
紹運が呟く。
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山を越えた先。
そこには――
秋月の背後があった。
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守りは薄い。
当然だ。
ここから攻めてくるとは思っていない。
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「一気にいくぞ」
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兵が駆け下りる。
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「な、何だ!?」
背後からの襲撃。
秋月勢は完全に虚を突かれた。
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「挟まれたか!」
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その混乱を見逃す道雪ではない。
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「今だ。押せ」
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正面からも攻勢に出る。
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挟撃。
逃げ場はない。
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戦は、一気に崩れた。
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夕刻。
秋月の陣は壊滅した。
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「終わったな」
紹運が息を吐く。
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道雪は静かに言う。
「いや、まだだ」
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その目は、さらに遠くを見ていた。
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「筑前も、筑後も抑えた」
「だが――」
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「島津が来る」
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沈黙。
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紹運が笑う。
「ようやくだな」
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逃げ場はない。
相手もまた、九州の覇を狙う者。
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「次は、本当の戦だ」
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道雪はゆっくりと頷いた。
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秋月は落ちた。
だがそれは――
嵐の前の静けさに過ぎなかった。
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九州の空気が、変わり始めていた。




