47話 平和と次世代
明海三十八年 10月3日 高須賀海軍基地
時は少し過ぎ行き同年の10月3日。
「極東赤道危機」から一か月以上経っていた。
既に正式に昇格もされ、少佐になっていたのだった。
「高砂事変」後に大尉になっていたので、それも含めて昇格が早いな。
生機司令が中佐で合ったため、彼に迫る勢いだ。
とはいえ彼も昇格しているので、恐らく今は大佐になっているだろうが。
ほぼ全員に昇格が行われたため、瑞守の他の隊員も、整備士以外は大尉になっている。
整備士が昇格していないのは、既に現場の整備士としての最高階級になっていたためである。
そのため、葵姉含む整備士は昇給のみとなった。
しかし、それだけではない。
HATIへの兼任研究員や研究員補佐としての声掛けがあったようだ。
「極東赤道危機」に“演習”として向かう前、武戸目所長に手当をくれるのかどうかという話をしていたが、あの“演習”が国家間の国際問題として提起され、向こう側からの賠償金があり、そこからも一部昇給として当てられているため、“演習”前に感じていた不安はなくなっていた。
また、哨戒機海邦の試験機搭乗と、更に機体が実戦で効果があったということからか、他にHATIから他の機体の試験機搭乗を任せたいという旨を軍に伝えられたらしい。
「と、いうことで相坂少佐、浜綴航空技術研究所に明日から試験機搭乗に行ってもらいたい。何、次の機体は攻撃機らしい。その試験機搭乗が終わり、その機体に問題が無ければ、その機体を優先的に瑞守隊に配備されるそうだ」
時世から争いが消えても、軍人が休まるときは来ないそうだ。
「高砂事変」の時よりかは、あまり何かをした記憶はないのだが。
前は交戦禁止時に攻撃を行ったので、そこで咎められてHATIへの出向が決まっていた、というのは分かる。
……確か、HATIへの出向はもともと戦果が高かったことから志願制での出向というところを、俺たちが命令違反を行ったので、それで強制的に行くことになったんだったか。
それなら、今回有無を言わせずHATIへの出向が決まったのは、もう変な言い訳をせずに命令すればいいと踏んだからか。
若干、舐められている気がする……。
はぁ……。
ま、これで追加の手当が出るらしいので金銭面での文句はないが、それにしたって金さえ積めば何でもやるとかは流石に思われたくない。
他の仕事ならば兎も角、軍の仕事は命を懸ける。
そして命は一つしかない。
“金が出るから”と生存率の低い戦地に向かうことになったり、ちゃんと飛ぶのか分からない試作機に乗ることになったりするのが続けば、命が何個あっても足りないだろう。
この辺りの話は、いつか上と話さなければならないか。
5日 浜綴航空技術研究所 附属飛行場
二日前、「明日から試験機搭乗に行ってもらいたい」とは言われたものの、乗るのは更に一日待たなければならないようだった。
そんな昨日は、乗るための説明が主だった。
その機体の名前は、箒星。
箒星は簡単に言うと、一つ前の攻撃機、星霜の大型改修型だ。
本来は星霜を星霜二型として改造、改修を行う型を作る予定だったらしいが、改修案を積み重ねていくと元の機体との差異が多くなってきてしまったがために、名前も変わってきたのだろう。
改修に携わった研究員の話によると、星霜二型の案を航空機製造の行っている会社に対して出させ、最も優れた案を採用したところ、改修事項が増えているということに後で気が付いたらしい。
「まあ、一度乗ってみないことには分からないことの方が多いよな」
どうせ一日目は機関始動くらいしかしないんだ、気楽に行こう。
18日 某所
試験機搭乗が始まり早二週間。
大元の型が星霜と同じであるためか、今までに乗った他の試験機よりは少しばかり手に馴染む機体である気がする。
とはいえ、最近は星霜そのものに乗っていないので、本当に「手に馴染む」のが早いのかどうかは分からない。
まあ兎も角、自分がある程度慣れていると感じているのはいいことだろうな。
……これ、「星霜に似ているから慣れるのが早かった」のではなく、そもそも「多くの新型機に乗り始めるのが慣れた」のではなかろうか?
それもどうでもいいことか。
軍上層部の意図的なモノも感じないではないが。
今日は非番なので、そのようなことを考えることは止めよう。
今は珍しく、瑞守の隊員との飯だ。
俺も含めて俺の部隊の隊員は非番で顔を合わせようとしない。
態々休みの日に職場の人間と顔を合わせるのは仕事のことを思い出してしまうので、互いに会いたがらない。
今回は本当に偶然、互いに飯でも食うかと話になったからである。
席を同じくしているのは、ザワこと所沢とシゲこと重野で、ここは街の大衆食堂だ。
大衆食堂とはいえ、葵姉の実家の食堂ではない。
集まって何を話すかということでもないが、何故集まったのかと言うと、少なくとも俺自身はこういった平和なときは案外貴重なモノだと思ったので、今の内に話せることがあるなら話しておこうと思った次第だ。
物心がつく前に世界大戦があったというが、軍に正式に配属するまで、浜綴に戦争は起こらなかったが、配属した後、すぐに二つの争いに巻き込まれることになった。
そしてそのどちらも、死んでも不思議ではなかった激しい戦いだった。
どちらの戦いも奇跡的に皆が生存、五体満足で帰って来られたというだけだ。
そんな希少な平和な時に、改めて話すことと言えば、後でほぼほぼ憶えていないような中身のない駄弁りばかりだった。
その中で、少しだけ憶えていた話題と言えば―――
「お前らって結婚とかの話って来てんの?」
あっけらかんとした声でザワが始めた話だった。




