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電車が駅に到着して、一人ホームに降り立った私。他に降りる人は無く、車掌の合図でドアが閉まり、静かに次の駅へと電車は走り去って行った。
改札口を抜けると、そこには見慣れた懐かしい人が出迎えてくれた。
「おかえり」
「……ただいま」
引き篭もりがちだった私から離れず、ずっと居てくれた八塚雨音。親友と言っても良いほどに、私と過ごした時間は長い。
それだけに高校へ進学して、同じ学校に私が居ない事が心配だったらしい。最初は、ただ私が引き篭っているだけと思ってたらしいが、何週間も経っても学校へ姿を表さなかったから、私の家に電話を掛けてきたらしい。その時になって、私が違う学校へ通っている事を初めて知ったそうだ。
「元気そうだね」
「うん」
「高校生になっても同じ学校に通うものだと思ってた」
「うん」
「でも、今日久し振りに葵みて、変わったと思った。今の学校での影響が強いのかな?」
「そう? 変わったとは思わないけど……でも、周りの影響は大きいかもしれない」
「そっか……」
お互いに無言となり何を話せば良いのか、頭の中でぐるぐると思考が駆け巡る。
そんな時、反対側から高校生位の男の子の集団がこちらへとやって来た。
「あぁ、やっぱり雨音じゃん。俺達これから遊びに行くけど一緒に来る?」
「友達と一緒だから遠慮する」
「友達? お!見ねー顔じゃん。どう?今から俺らと遊ばない?」
「え?え? あ、あの……遠慮します」
「えー!ノリわっる! お前らもそう思うよな?」
「そーそー 折角誘ってんのに断るなんて、お兄さん達と遊ぼう?」
「聡、いい加減にして!」
「あん? 何で? 俺とお前は付き合っているから良いだろ?」
「はぁ!? 誰が何時、誰と付き合ってるって!? アンタみたいなクズはお断りだよ!」
「何だと!?」
雨音の周りを男の子達が囲む。助けなきゃいけないけど、私じゃ力も何も無く出来ない。
どうしようと雨音が男の子達に殴られる……
『ピピーッ 君達何やってる!?』
突然聞こえた笛の音と、こちらへ走ってくる警察官。それを見た男の子達は、雨音を放すと「やべぇ!」と言って一斉に逃げて行った。
警察官は私達の横をすり抜け、男の子達の後を追って行った。
「………………」
「……雨音? 大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ……ケホッ ケホッ」
「大丈夫じゃないでしょ」
逃げ去って行く時に、一人の男子が雨音にぶつかって、その勢いで雨音は地面に倒れそうになった。それにしても、リーダー格ぽい男が言ってたが、雨音に彼氏が出来ていたなんて。
「本当に大丈夫だから」
「むぅ。そこまで言うなら信じる。だけど無理しちゃダメだよ。彼氏さん? 雨音に何かしそうだし」
「彼氏じゃない。告白はされたけど保留のまま。だけど今回の一件で付き合う気は無くなったよ。あ~あ、夏休み前まではまともだったのにな」
「そういや雨音達って何時から夏休みなの?」
「二週間前からだよ? だから葵が中々帰って来なくて心配してた」
「そんな早くからなの!?」
「え? どういう事?」
「昨日、終業式で今日からやっと夏休み」
「えーー! そうなの!? そういや葵の通ってる学校てどんな所なの?」
「えっと……」
家に着くまでの間、雨音に今の学校の事、先輩やクラスメイトの事など話した。ただ事件の事については黙っていた。




