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その9「あれ、意外に出来ていないか?」


 始まった勉強会セカンドシーズンは前回同様何も覚えていない地味に基礎を教えるところから始まった——————はずだった。




 まずは、基本の確認。


 教えるうえでは普通の動きだ。最初はどのくらいのことが分かっていて、どれくらいのことが出来ないのか。苦手と得意不得意など彼女の事を把握する。


 つまり——恋愛と一緒ってわけだ。



「決まった」


「……な、何が決まった……んですか?」


「っあぁ、いや……なんでもないぞ?」


「……?」


 首を傾げる地味に合わせて、たゆんたゆんと揺れる胸。

 ポーっと口を頬けながら僕の目を見つめているその顔が可愛いのもさることながら……。


 意外にも眼圧は強い彼女の目を見ないように焦点を胸に集めたのは墓場まで持って行くつもりだ。


「あぁ、まあまあそういう話は置いといて……まずは基本の確認といこうかっ」


「……え、あ、はい……わかり、ました」



 そう、そしてそこからの出来事が僕にとっては不思議かつ変な話だったのだ。


「それじゃあ、地味はどこをやりたいんだ? まえみたいな感じで理系科目中心?」


「……えっと、ん……と、す、す、数学……で」


「おう、おっけー」


 僕は鞄から数学の教科書を取り出し、前回同様、一年生からの部分から質問を行っていった。


「じゃあ、まずは簡単なところからだなっ」


「……ん」


「三次の因数分解の公式は?」


「……ぇと、a^3±3a^2b±3ab^2±b^3……で、ですか?」


「正解、いいねっ」


「はいっ!」


 ニコッと笑みを浮かべ、先程までの心配した暗い表情が晴れる。まあ、ここまでは予想通り、数学ⅠAの最初の範囲ならできて当然だ。問題はここからである。


「次は——三角比を使った三角形の面積は?」


「……んと、それは……S=1/2(bc)sin(A)?」


「お、おぉ……あ、でももう一つは——」


「r=2S/(a+b+c)で、ですっ」


「お、正解……いいね」


「はいっ!」


 再び笑顔。

 連続正解で嬉しくなったのか、跳ねる気持ちと共に彼女の体が上下に揺れる。


 たぷんたぷんっ。

 バルンバルンっ。

 たゆんたゆんっ。


 何の擬音なのかは想像に任せます。


「じゃあ、えっと……メネラウスの定理は」


「——AB/RE・BO/OQ・QC/CA=1」


「せ、正解……意外にできるなっ」


 前回なんてこの基礎知識をほとんど間違えていたというのに、今回はまさかの全問正解。暗記が苦手とは言っていたがどうやら案外できるらしい。


 そう僕が呟くと、彼女は不服そうに顔を顰める。


「あ——いやな、別にそういう意味じゃないんだっ。その、なんでもないというか……まあ意外だったかもしれないなぁって?」


「……むぅ」


「ご、ごめんっ……」


「だ、だいじょぶ、ですっ。それで、その……まだ」


「ああ、うん! そうだな、まだまだあるから質問続けるなっ!」


「お願い、しますっ」


「おっぱ……じゃない‼‼ ふぅ、なんでもないなんでもないっ……」


 唐突な上目遣い。

 ちょっと背伸びすれば覗けそうな谷間に僕の脳みそは一瞬支配されかけた。


 そして、それからも僕はひたすら数学の公式やその理由。さらにはそれらをまとめた問題を出し続けていった。


 解と係数の関係、因数定理、加法定理などなど。最近習った知識をダメ元で質問していったのだが……まさかの全正解だった。


「え……全部、正解……?」


「……が、がんばり……ましたっ」


 晴れた笑顔を見せる彼女。

 確かに、前回の数週間前の結果からは想像もできないほどに勉強ができていた。


「がんばったって……まあ、それはすごいけど……これじゃあ勉強する必要がないんじゃないか?」


「——っ⁉」


「ん、ど、どうした——?」


 ビクッと肩を震わせ、その場に固まる彼女。

 小さな背中がぴんと張り、胸の大きさが余計に目立っている。


 どんどんと頬を赤らめ、顔を手で隠すと——次の瞬間。

 僕の耳元へ顔を近づかせ、地味はこそっと震える声で囁いた。


「じ、実は……そのっ……あのっ……今日は、い、いい、一緒に、いた……くて……そのっ、ほ、ほほめほめ……褒めてっ——もらいたく、て……騙してごめんなさい‼‼」


 バット頭を下げると、本日二度目となる上目遣いで僕と目を合わせる。

 

「——そ、それはぁ……大丈夫だけど、え?」


 しかし、瞬時に思考をやめたはずの頭が働き始めると自分が今、どういう状況に立たされているのかが分からなくなっていた。


「それは、つまり——ん!?」


「だ、だめっです……それ以上はダメ、ですっ!」


 身を乗り上げるようにして、僕目がけて飛び乗った地味。


 その光景——まるで、床ドン。


 しかし、その豊満で重力と運動エネルギーで単振動する胸に視界の半数を取られていた。ここは天国か……じゃなくて、何なんだこの状況は!


 おっぺえがでけぇ‼‼ 揉みたい揉みたい‼‼

 ああ、やばい。理性が爆発寸前だ。


「……あ、あのっ‼‼ うぅ、やっぱり……帰ってください‼‼」


「——っえ」


 限界に達し、手がほんの数ミリ動き出した時。

 僕は荷物をまとめられ、直ぐに外に出され——いつの間にかぽつんと一人。


 何もない夜の小道に放りだされていた。


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」









 忘れるわけがない地味の赤らめた羞恥の表情。

 ドキドキした記憶がまだ新しい5月の始め。


 五月病という病が流行り出す季節に——唐突に告げられたのは。


 何の前触れもない、告白だったのだった。


「やっぱり——わた、わた、私と付き合ってください‼‼‼‼」


「はい?」


「私と——付き合ってください‼‼」


「……」





「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」


 溢れ出る驚嘆。

 零れ出る驚愕。

 そして、噴き出る悲鳴。


 当初の予定を数か月ほど早められた目標達成に頭は混乱していた高校二年生の男児、鈴木翔であった。


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