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その6⑤「唇チョコリップ」

 それから、僕とクレーンゲーム台との勝負が始まった。


 クレーンゲームに関しては出流いずるや楓とも一緒に来たことがあり、余りにも多くとれたので配ったりなどそれなりのチートムーブをかませるほどに得意だったのだが——————時刻は午前11時半。


 格闘し始めてからまさに30分以上が経ったのである。


「……こいつ、強い‼‼」


「が、頑張って————!」


「そこだぁ‼‼」


「いけぇ……っ!」


 黄色の声援に答え、スキルを発揮していくが戦況は大きくは動かなかった。


 対する敵であるクレーンゲーム台の特技は必殺ギリ落とし。


 まさに、姑息の真骨頂。

 

 僕ら挑戦者が「取れる!」と思った瞬間。ギリギリ寸での位置で商品を手放すという精神面をえぐる高等テクニックを用いてくる強敵。


 今まさに僕もそんな悪い戦況に悩まされていた。



 現状として、20戦20敗。



 数回もきた勝どきを掴めず、配線をし続けた僕は目から血を噴き出しながら睨みつけていた。


 背中には僕の帰りを待つ女の子がいる。

 それがプレッシャーとなり襲い掛かる。


 まさに、負の連鎖ならぬ正負の連弾。


 壁に壁がやってきて目の前を立ち塞ぎ、足が止まった僕に地味がさらに一言。


「頑張って、す、す……鈴木君‼‼」


 ――刹那。

 僕の体に力がみなぎった。


 そうか、これが力がっ!

 そう思った僕は腰を正し、拳を握り締め、体の力を抜き、雄たけびを上げた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼‼‼」


 背中を押された僕は————最後の力を振り絞った。


「っい、けえええええええええ‼‼‼‼」


「っ———————‼‼」


 ポロン。

 テンテンテンテロリンリンっ♪


 そんな陽気な音楽と共に、水色のスライムのクッションが取り出し口にゆっくりと転がってきたのだった。


「はっ、はぁっ、はぁっ……ごめん、取れなくてっ……」


「そ、そんなことっ——大丈夫、ですっ……」


 優しく声を掛けられ、微笑んだ瞬間。

 目の前に堂々と立つ《《こいつ》》が一言。





「2200円、ありがとうございました!!」




 漲る拳を緩やかに開き、思い切り、全力でクレーンゲーム台目掛け蹴り上げようとした僕を制止したのはスライムを抱きしめる地味だった。


 こいつ、マジでぶっ〇したろうか?











「……落ち着いたか?」


「は、はい……」


 そうして僕たちは紆余曲折の末、とりあえずアイスを食べることになった。


 ここの階にはアイスを販売しているお店やクレープを売るお店もあったのだがさすがに高校生の財布には優しくはない。


 それに僕も地味もどうやらお金にはケチ臭いという性格らしく、こんなの買う必要はない! と意気投合し、西側にあるアイスバー自販機にお金を入れて買っていたのだった。


「チョコ……」


 僕が手に持つチョコバーを口に入れようとすると、どこか物欲しさある視線を感じる。


 ゆっくりと視線を僕の右下へ向けると、ベンチにペコリと座った地味が小声でチョコ……と呟いていた。


 なにこれ、嫌よ、奥様。

 可愛いんだけど、うちの子。

 こんなの大量殺戮兵器とためを張るくらいに男を盲目にさせるわ、こんなの。


 どきっ!

 

 心臓の音がバクバクと鳴り始め、今まで感じてなかった緊張が頭の中を支配する。途端に顔が熱くなり、ジト―よりかはぺちょーと言った感じの上目遣いが向けられる。


 なにこれ、マジでなにこれ!?

 可愛すぎないかマジ!?


 上から見ているから胸もこう、膝を半分ほど隠していてなんかすごいし、頬を少し桃色に染めた地味の可愛いお顔が僕に向けられていて、最高にいい気分すぎる。


「ぁ……どうしたんだ、地味?」


「あへっ————!? いや、その……な、なんでもないっ……ですっ」


 僕が平常心を何とか保ちながら見つめていると、地味は驚いたかのようにすぐにそっぽを向いた。


「……食べたいのか?」


「っ……ん」


 数秒間考えると、コクっと頷いた地味。


 身体を起き上がらせようとしたため、僕が手で制し、チョコバーを口元に近づける。


 そして—————―ぱくっ!


 そんな擬音がなったかのように、地味がその小さな口を大きく開けて差し出したチョコバーの頭の部分をパクっと噛んだのだ。


 もぐもぐと頬張り、ハムハムと動く唇。


 普段は桃色で、リップがのって赤くなったはずの色気ある唇がチョコ色に染まっていた。


 なにこれ、昔見たアニメみたい。

 そんな記憶が駆け巡り、エロアニメ的な展開が脳裏をよぎったその瞬間。


「……ん?」


 何も気づいていない地味が間抜けで、可愛い顔を再び向けた。


「なぁ、地味」


「……な、なんで、しょうか?」


「僕さ、本当に言いたいことがあるんだけどいいか?」


「……は、はいっ」


「なんでそんなにかわいいんだ?」


「……」


「なんで、そんなに、かわいいんだ? 地味は?」


「…………へぁひゃっ⁉」


 そして、一時間前にも聞いたかのような小さな悲鳴が僕の耳元で響いたのだった。












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